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世界が推理小説になったから  作者: 塚山 凍
Period10:籠の外へ

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引き寄せられる者たち

「長くなったけど、これで私の昔話は終わり……つまらなかった?」

「まさか。終夜の覚悟や行動力の理由が分かる、良い話だったよ」


 やや照れた様子で話を終える終夜に対して、そんな言葉をかける。

 お世辞ではなく、本心だった。

 自分の一家が日本街では浮いていてどうこうなんて、話している本人にとっても気分の良い話ではないだろうに────それでも教えてくれた終夜に、感謝していたから。


「今の話を聞くと、最初に出会った時の終夜の振る舞いも納得できる気がする。正直、強引に同居を勧めてきたなあって印象もあったんだけど……自分の夢を叶えるために、ああしていたんだ?」

「まあ、そういう感じね。本当に中学時代は納得のいく推理が無かったから。考え込んでいる内に、他の人に先に行かれることばっかりで」

「そう考えると……僕たちが出会ったばかりの羽生邸の事件って、終夜としても、実は殺人事件解決の経験には乏しい状態だったんだ。自信ありそうだったから、そうは思わなかったけれど」

「ああ、アレね。確かに、虚勢を張っていたところはあったわ。自分のすぐ近くで起きた事件だから、何としても解かないとって思っていたけれど……本当にあの時は、九城君に密造関連の謎を解いてもらえて助かったわ。この人は頼りになるなあって思ったもの」


 一ヶ月以上経過してから明かされる終夜の本心に、僕は目を瞬かせる。

 僕の方としては、「流石、幻葬市にいる探偵は殺人事件の中でも頼りになるなあ」くらいに思っていたのだけれど。

 彼女の方も、思っていた以上に頼りにしてくれていたらしい。


「今になって聞くと、不思議な感じがするな。互いに寄りかかっているような……」

「言葉が悪いわよ。そこはこう、信頼できるパートナーになったって言いなさい?」


 ちょっと笑いながら、終夜は僕の額をつん、と突く。

 おっとっと、とのけ反る僕を見ながら、彼女はしみじみと感想を零した。


「それにしても、このお屋敷は私の同類ばっかりね。アンタの過去を聞いて、改めてそう思ったわ」

「同類って?」

「全員、親の反対を押し切ってこの街に来ているってことよ。私は親に大反対されたし、凪も死法学の研究なんて止めて一緒に海外に行こうって、両親にずっと言われてた。アンタも、幻葬高校に通うのは反対されていたんでしょう?つまりここには、反骨精神溢れる人ばっかりが三人も集まっているのよ」

「確かに……類を友を呼ぶってことかな」

「そうかもしれない。人の繋がりが乏しくなったこの時代、共通点を持つ他者と交流できるのは、本当に嬉しいことだから……そんな繋がりが欲しくて、私たちは自然と集まったのかもね」


 どこか嬉しそうに言いながら、彼女は視線を前に戻した。

 そして……急に首を真横に倒すと、ぽすっと僕の肩に頭を乗せる。

 当然かなり驚いたけれど、今動くと彼女が倒れてしまうので、僕はできるだけそのままの姿勢で座り続けた。


 ──これも……同類だから、できるのかな。


 抵抗はせずに、そんなことを思う。

 ふと、香宮と僕は対照的だ、と語ったあの夜のことを思い出した。


 例えば、「殺人」専攻と「日常の謎」専攻。

 或いは、命日を調べる探偵と誕生日を調べる探偵。

 とにかく反対なことをしているとばかり思っていたのだけれど────案外、そうでも無かったらしい。






 そこからしばらくの間、僕たちは雑談をして過ごした。

 終夜が軽く質問して、僕が答えて。

 僕がそっちはどうなんだと混ぜっ返すと、終夜が回答者になる。


 僕が好きな食べ物は親子丼だと言うと、終夜はカレーだと言った。

 終夜が夏が好きだと言うと、僕は春が好きだと返してみる。

 そんな、物凄くどうでもいい会話を繰り返した。


 思えば、推理以外で終夜と長く話をしたこと自体、これまでそんなに無かった。

 僕が自分の生まれを話していなかったこともあって、深い会話をすることを恐れていたからだ。

 ある意味では、今日になって初めて、僕は終夜と雑談をする資格を得たのだった。


 晶子さんが殺された日の夜、その犯人も掴めない中での深夜の会話。

 本来なら、雑談なんて許されないレベルで、やらないといけないことが満載の日。

 そんな日に、僕は敢えて終夜を話をし続けて────ようやく、一人の同居人になったようだった。






 ────そして、翌朝。


「……じょうくん……くじょうくん」

「……ん」

「九城君、朝よ、起きなさい」

「ん……かみや?」


 耳元で響く音につられて目を開くと、眼前にパジャマ姿の香宮がいた。

 ぺちぺちと僕の頬を軽く叩いていた彼女は、そこで「あ、起きた」と言って少し笑う。


「おはよう、九城君……眠いだろうけど、起きて欲しいのだけど」

「起きてって……」


 起きるも何も、ここはどこだ。

 ぼんやりとした意識を慌てて覚ますと、ようやく自分が香宮邸の二階のソファに座っていることが分かってきた。

 どうやら、ソファに背中を預けて寝てしまっていたらしい。


「あー、そっか。夜中に起きて、ここで終夜と話したから……あれ、終夜は?」

「雫はもう起きて、今は朝食の用意をしているわ。さっきまで貴方と一緒に寝ていたみたいだけど、あの子だけ先に起きたみたい。そろそろ朝食ができそうだから、あの子に言われて私が起こしに来たのよ」

「へえ……それは、ええと……手間をかけてごめん」


 確かずっと雑談をしていたはずなのだけれど、どうやら話している内に二人揃って寝てしまったらしい。

 あの時、彼女が突然頭を乗せてきたのは、実はシンプルに眠かったからなのだろうか。

 何だか微妙な気分になる真実に気が付いた後、僕は不意に「あれ?」となる。


 ──待てよ、終夜が寝たのはまあ良いとして……僕も、一緒に二度寝したのか?これまで、悪夢を見た日は絶対に二度寝ができなかったのに。


 終夜と色んな話をしたせいで記憶が薄まっているけれど、元々昨夜の僕は、晶子さん殺害のショックで悪夢を見て飛び起きたのだ。

 だからいつものパターンならば、どう頑張っても二度寝はできないはずだった。

 夢を見た日は、朝までじっと過ごし続けるしかないのだから。


 しかしどういう訳か、今日に限っては二度寝に成功したらしい。

 終夜と話をして、悪夢の印象が薄れたのが良かったのだろうか?

 まあ、僕の健康面を考えれば悪いことでは無いのだけれど……。


「……どうしたの、起き抜けにそんな変な顔になって」

「え、あ、ああ。何でもない、よ……」


 黙って考えていたせいで心配させてしまったのか、香宮がこちらを覗き込んでくる。

 慌てて首を振った僕は、疑問を頭から追い払った。

 今日はアキラたちとも集まって、晶子さんを殺した犯人について更に考えないといけない日だ……もっとシャッキリしないといけない。


「すぐにリビングに下りる……ちょっと顔を洗ってくるから、香宮は先に下に戻っていて大丈夫だよ」


 そう促してみると、香宮はやや不本意そうながらも頷いた。

 ただし一つだけ、去り際にこんなことを聞いてくる。


「わざわざ二階にいたことからすると、重要な話をしたのでしょうけど……大丈夫だった?」


 敢えて、何でもないように装っているような口調。

 あ、もうバレてるな、と思った。

 起きてきた終夜の様子やこの状況から、僕が過去を打ち明けたのを察したのだろう。


「うん、意外と大丈夫だった……今日からは、隠し事無しでいけるよ」


 香宮を安心させるべく、本音で話す。

 彼女は一つ頷きを返して戻っていったけれど、その背中はどこか安堵しているように見えた。




 ……顔を洗ってからに関しては、基本的にはいつも通りだった。

 夜間に警察から新情報が来るということもなかったようで、全員でもそもそと朝食を食べる。


 食べ終わった後は、登校準備。

 昨日色々あり過ぎたので忘れていたけれど、一応今は月曜日の朝だ。

 学校に行かなくてはならない。


「晶子さんの事件は既にニュースにもなっているし、容疑者については高校の探偵たちも調べているところだと思う。だから彼らが集めた情報を知るためにも、一旦は学校には普通に行きましょう。その後涼風たちとも合流して、本郷キララの指紋の件とかについても推理する流れで、どう?」


 朝食を片付けながら終夜が提案した内容に、僕と香宮も同意した。

 昨日のWeb会議は変な感じに終わってしまったから、新たな意見が欲しいところだ。

 テスト前ということで、授業には余裕がある──既にテスト範囲まで進んでいるために、休んでも何とかなる授業が多かった──ので、何か変化があれば、早退して捜査に専念すれば良い。


 そんな算段をしてから制服に着替えて、僕たちは戸締りの後に通学路へと繰り出す。

 香宮や終夜と並んで歩きながら、僕は「珍しい光景だな」と思った。

 思うだけでなく、口にも出してみる。


「君たち二人と登校するのって、何気に珍しい気がするな。いつも、登校時間がちょっとずれているから……」


 幻葬高校のシステム上、選択している授業が違えば登校時間は大きく変わる。

 僕が一限から授業があっても彼女たちは二限から、というのはよくある話なので、そういう場合は僕一人で登校していた。

 必修授業の日ですら、僕と二人はクラスが違うこともあり、登校時間が微妙にずれていることが多いのだ。


「言われてみればそうだけれど……何よ、私たちと一緒に登校するのが不満?」

「いや、不満がある訳じゃないよ。ただ単にレアだなって思っただけで……注目されるのは、まあ気になるけど」


 終夜たちと並んで通学路を歩くと、常に周囲から視線を感じる。

 見ている方も興味本位なのだろうけど、すれ違いざまにちらっと見てくる人が沢山いるのだ。

 名探偵の孫と大地主の娘という立場と、単純に彼女たちが美少女だから、視線を集めるのだろう。


 僕はついつい視線を気にしてしまうのだけれど、終夜たちは気にしない様子でずんずん歩いて行った。

 日本街で周囲に何かと噂されていた終夜としては、こんな視線は気にするに値しないのかもしれない。

 香宮もそうなんだろうか……と思ったところで、本人から解説が入った。


「私は土地管理の都合で、市内の様々な場所に親の名代で顔を出したことがあるから……この程度の注目は気にしないわ」

「ああ、なるほど。両親が海外に行った以上、日本にいる香宮家の人は君一人になる。だから、そういう付き合いもしないといけないんだ」

「そう。もっとも最近は、学業が忙しいと言って断っているけれど……あまり出歩くと、誘拐の危険もあるから」

「……そっか」


 意外と生々しい理由が出てきて、僕はやや気が重くなる。

 確かに香宮くらいのお金持ちになると、その警戒はしないといけないだろう。

 特に香宮邸は、終夜たちの行動の結果として使用人たちが退去してしまっている……誘拐犯からすれば、絶好の狙いどころだ。


「素手で強い終夜はともかく……香宮は割と注意しないといけないな、それ。本当なら、こういう徒歩通学も避けた方が良いんじゃないかな。今更だけど」


 当たり前だが、徒歩で通学すると誘拐犯などに連れ去られるリスクは増す。

 本当に安全を考えるなら、香宮だけでも車通学とかにした方が良いのだ。

 しかし、僕の提案を香宮はふるふると首を振って拒んだ。


「基本的に、登校時は雫と一緒にいるから……流石にそこまではしなくても良いと思ってる。いくらこんな時代でも、白昼堂々人を襲う人はあまりいないもの。やったところで、幻葬市ならすぐに捕まるわ」

「まあ、この間の嶋野みたいによっぽど追い詰められた場合は別だけどね」


 僕の心配を跳ねのけるように香宮が微笑み、終夜がカラカラと笑う。

 それを見て、僕はそれ以上の忠告は止めた。

 いつもの幻葬市の治安を思えば、流石に気にし過ぎかな、と思ったのだ。




 だが、この次の瞬間。

 僕の懸念が杞憂でなかったことは、極めて残念な形で証明されることになる。

 チラチラと見てくる人たちが偶然いなくなり、僕たち三人だけで人通りのない小道を歩いていたところで、それは起こった。




「……っ!」


 最初に反応したのは終夜だった。

 五感ではなく第六感で何かを察知したらしい彼女は、持っていた鞄をそこらに放り投げ、急に拳を固めて立ち止まる。

 彼女の背後にいた香宮が、驚いて身をすくませたのが分かった。


「────!」


 続いて反応したのは僕だった。

 僕の場合、殺気を感じたとかそういう格好良い理由は無い。

 いきなり身構えた終夜の後ろ姿を見て、「何か起きたんじゃないか」と思っただけである。


 しかし曖昧な理由で行動した割に、僕の体はよく動いてくれた。

 右手はベルトに引っかけていた警棒に、左手は僕の前に立っていた香宮に伸びる。

 一秒も経たない内に、僕は彼女を抱き寄せながら臨戦体制をとった。


「え、く、九城君……?」


 急に僕に抱き締められたものだから、香宮は赤面しながら抗議の声を上げる。

 しかし残念ながら、彼女の様子を見守る暇はなかった。


 そこで突然、目出し帽を被った怪人物が上から降ってきたからである。


 同時に響くのは、地面に何かを打ち付けるような轟音。

 何者かが警棒を持って襲い掛かって来たのだ、と分かるまではすぐだった。

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