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世界が推理小説になったから  作者: 塚山 凍
Period10:籠の外へ

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どいつもこいつも

 何にせよ、現時点での青井道隆の情報はこれで終わりらしい。

 本人は事件とは無関係と主張、ただし動機まで考えると怪しいところもある、くらいの塩梅。

 それを確認したところ、今度は司会役の終夜が報告をした。


「私たちが会いに行ったのは、二人目の容疑者である守屋一。昼にも言ったけど、前職は幻葬高校の警備員で、今はクビになったから就活中の立場らしいわ。B17区を訪れた理由も、就活のために面接に行きたかったから、その荷物を置くためだそうよ」


 ──この人も就活か……本郷キララもそうだけど、多いな、そういう立場の人。


 就活をしていると、ああいう寂れたコインロッカーを使いたくなるのだろうか。

 まあ単純に、幻葬市の雇用情勢はかなり不安定な代物なので、困っている人も多いというだけのことかもしれないけれど。


「ロッカーに置いた物は、手提げ鞄に入れていたノートパソコンと会社の資料。面接対策に直前まで読み込んでいたけれど、いよいよ面接って時に荷物が多いと邪魔だし格好が悪いから、コインロッカーに預けることにしたと言っていたわ。B17区みたいな端っこを利用した理由は、青井道隆と同じよ。ロッカー荒らしが怖かったって」

「結構多いんだね、そのためにB17区に行く人……因みに、利用したロッカーの位置は?」

「B17区に入ってすぐのところにあるコインロッカーと言っているわ。一応、警察の調べではそこにはちゃんと言っていた通りの物が収まっていたそうよ。指紋もあったしね……勿論、彼が犯人ならこれも偽装ということになるのでしょうけど」


 確かに、と画面に映った全員が頷く。

 青井道隆もそうだけれど、本人が申告した通りの場所に彼らの荷物が収まっていたところで、無罪の証明にはならない。

 それらと一緒に凶器を持ち込んでいた可能性だってあるからだ。


 言い訳のために普通の荷物を持ち込んで、その中にナイフを隠す。

 B17区に来たら荷物は現場とは別のコインロッカーに収めて、ナイフだけ持って晶子さんを襲撃。

 そのままナイフは刺しっ放しにして、自分は素知らぬ顔でB17区を立ち去る……こんな手順だったとしても、「あくまでコインロッカーに荷物を預けただけです」と言い張ることは可能だ。


 そういう意味では、彼らがどこのコインロッカーを何のために使っていたのか、なんて質問には大して意味がないかもしれない。

 犯人だったら偽装するに決まっているし、犯人でないのならそれは事件とは関係のない私物ということになる。

 どちらに転んでも、真相とは関係のないアイテムなのだ。


『服装もスーツ姿だったらしいっすから、就活中っぽいのは確かにって感じっすけど……どんなところを受けに行くつもりだったんすか?』

「児童養護施設関連と言っていたわ。以前、そこでバイトをしたことがあるらしくて。警備員はもうやり切ったから、バイト経験がある場所の方で働きたいと考えたそうよ。あの手の施設はどこも人手不足だから、割と就職しやすいとも……」

『それ、聞いたことあります。人手不足解決のために、資格とかが無くてもバンバン雇うようになっているって』


 涼風さんの補足を受けて、終夜はそうそうと頷く。

 これで、彼女の報告は一区切りついたようだ。

 すると続けて、三堂さんが気になったことを報告するターンになった。


『でもあの人の話、それ以外の点についてはぼんやりしたところが多かったかなあー……何か、肝心なところをぼかすというか』

『そうだったんですか、三堂さん?』

『うん。例えばあーしが出身を聞いてみたら、のらりくらりと曖昧な返事ばっかりしてたんだよね。数分かけて聞きまくって、やっと幻葬市出身のオリジナルだって言ってたけど。出身高校について聞くと、またぼんやりしたことを言い続けて、それからやっと幻葬高校に通ってたとゲロる、みたいな。事件当日の状況以外は、あんまり素直に話してくれない人だった。意味もなく勿体ぶっている、というか』


 ──それはまた、ちょっと変だな……今の時代のことを思えば、賢くない対応だと思うけど。


 警察の信用が低下した現在、警察を邪険に扱ったり、任意の事情聴取を適当に切り上げたりする人は多い。

 しかし一方で、探偵への証言については意外と真面目に話す人が多いのだ。

 何故かと言えば、現代では警察よりも探偵の方が遥かに元気なので、ちょっとでもぼかした証言をすると、大量の野次馬探偵たちから質問責めにされる可能性が高いからである。


 事件関係者の誰それの証言が不透明だったらしい、なんて話は、現代では「情報」専攻を介してすぐに広まる。

 そして一度目をつけられてしまえば、次々と探偵が殺到するのだ。

 だから本郷キララがやっていたように、「最初に来た探偵に全てを話して、以降はその探偵に又聞きをしてもらうように頼む」というのが賢い選択とされていた。


 そんな前提があるために、三堂さんが言うように守屋一の態度は怪しかった。

 勿体ぶった証言をすることがハイリスクなこの時代に、隠し事ありげな態度を見せるなど。

 わざわざそんな態度をとっているのは、そうまでして隠したい事情があるのか……或いは、彼こそが犯人であり、嘘を吐かざるを得ない状況にあるのか。


「まあ、私も変な態度だとは思ったわ。でも、だからと言ってこれだけで犯人とは断定できない。実は前科があって、それを隠そうとしたから過去についてはぼかした話しかしなかった……みたいな可能性だってあるもの。真相とは関係のないところで容疑者が隠し事をしているなんて、この時代では珍しくもない話でしょう?」


 全員が考え込んだところで、終夜が冷静な意見を出す。

 まあその通りだな、と場の雰囲気が切り替わったのが分かった。

 終夜が言う通り、仮に守屋一が隠し事をしていたとしても、それだけでは事件の犯人は決まらない。


「……では、守屋一の曖昧な証言については一旦置いておくとして……雫と三堂さんからは、これ以上の情報はない?」

『ないねー』

「概ね、話し終わったと思う。話を聞けた時間が短かったから、あっさり目になって申し訳ないけれど」


 香宮が問いかけると、三堂さんと終夜がそれぞれ頷く。

 とりあえず、二人目の容疑者である守屋一の取り扱いについては一人目と大差ないようだった。

 本人は事件とは無関係にコインロッカーを使っただけと主張しているが、怪しい点がないではない、というバランス。


 二人分の話を終えたことで、自然とWeb会議参加メンバーの視線が僕と涼風さんに向かう。

 皆が報告を終えたので、話していないのが僕たちだけになったのだ。

 数秒だけ画面上の涼風さんとアイコンタクトをしてから、僕は説明役を引き受けることにする。


「じゃあ、僕と涼風さんが会ってきた本郷キララについても話すよ。監視カメラの映像通り、彼女は二十代の女性で……」


 ファミレスで聞いたことを、そのまま全員の前で繰り返した。

 話自体はすぐに終わる。

 そして僕が口を閉じた瞬間、アキラがはいはい、と手を挙げた。


『兄貴が聞いてきた感じだと、その本郷って人がコインロッカーを使った理由、ツッコミどころが多くないっすか?何すか、水やお茶が意外と重かったからコインロッカーを使ったって。贅沢過ぎるっすよ』

「ああ、それは聞いていてちょっと思った……相手の機嫌を損ねそうだから、本人の前では言えなかったんだけど」


 当然来ると思っていた指摘だったので、冷静に受け止める。

 本郷キララの証言には幾つか不思議な点があるのだけれど、特にこの預けた荷物については疑問点が多い。

 いくら重かったにしても、ペットボトル数本のためにわざわざコインロッカーを使うだろうか、普通?


「……雫が見た映像からすると、その人はリュックサックを持っていたのよね?当然、預けたという水やお茶はそのリュックサックに入っていたはず。いくら華奢な女性でも、リュックにペットボトルが何本か入っているだけなら、そう重く感じないのではないかしら」

『それに、B17区にわざわざ行く理由にもならなくない?あーしらが調べた人たちは、一応ロッカー荒らしを警戒してっていう理由もあったし、ロッカー内に入れたのは盗まれたくない貴重品だった。でも水とお茶なら、盗まれたところで諦めがつくじゃん』

「というか、水が重いならその場で一本くらいは飲み干すわよ、普通。そうすれば軽くなるんだから」


 香宮、三堂さん、終夜からも次々とツッコミがなされ、僕はおおうとのけぞる。

 まるで自分が責められているような気分になるのは何故だろう。

 この場合、おかしな証言をしたのは本郷キララの方なのだけれど。


『その、私たちも決して全面的にこの証言を信じている訳ではないんですけど……でも、ええと、彼女はB17区での滞在時間が一番短かったので。そう考えると、本当にちょっとした預け物だったのかなあ、と思ったんです』


 一通りツッコミが終わってから、涼風さんがフォローをしてくれる。

 流れ的に僕が気まずくなっていたので、助け舟を出したかったのかもしれない。


『彼女がB17区にいたのは、ほんの二分です。だから、流石に殺人の細工までは不可能だろう、という思いがあり……』

『んー、すずちゃんの言いたいことも分かるけどさ』


 そう言いつつ、三堂さんは涼風さんの隣でもどかしそうな顔をする。

 きっと、「そうは言っても本郷キララが犯人ではないと決めつけてはいけない」と言いたかったのだろう。

 そもそも、彼女が殺人犯では無かったにしても、それだけでは事件と無関係かどうかは分からないのだ。


 例えば、晶子さんを殺したのは別の人だったにしても────。


「……話題が飛躍するけれど、実は殺人犯と死体をコインロッカーに詰めた人間は別、という可能性はないのかしら?仮に本郷キララが殺人犯の協力者で、彼女が来た時点で被害者が死んでいたのなら……死体を動かすだけなら、二分以下で可能かもしれない」


 密かに思いついていた可能性を、香宮が口にする。

 そうだ、これについても考えておかなくてはならない。

 まだ、犯人が一人と決まった訳ではないのだから。


 容疑者となっている三人の内、二人が共犯であるとか……極論すれば、三人全員が共犯の可能性だってゼロではない。

 最初の二人のどちらかが殺害を実行して、最後の本郷キララがコインロッカーに詰めた、という分担なら、各々のB17区の滞在時間が短くとも犯行は可能だろう。

 どうしてそんなことをするのかという動機を棚上げすれば、本郷キララの容疑がゼロになることはないのだ。


「一応、現状ではこの三人に共通点や交流はないみたいだから、共犯の可能性が高いとは思わないけれど……検討は必要でしょうね。ひょっとしたら、これから三人の間の意外な繋がりが出てくるかもしれないし。とにかく、本郷キララがB17区にいた時間が短いのは間違いなくて、コインロッカーを利用した理由については疑問が残る。九城君たちの報告をまとめると、こんなところからしら」


 各々が共犯の可能性について考える中、終夜が話を整理してくれる。

 こうして、全員の報告が終了した。

 さて、じゃあどこから考えるべきか────そう思ったところで、終夜のスマホがプルルッと鳴った。


「あれ、電話?」

「ええ……藤間刑事からみたい」

「藤間刑事って……前に羽生邸の事件や、白骨死体の件で関わった?」

「そうそう。あの刑事が昼の現場にも来ていたから、以前の事件を解いてあげた恩を返してもらう意味でも、情報を流してもらうように頼んでいたのよ。多分、続報か何かがあったんだと思うけど……」


 そう言うと、終夜は皆に手で謝りながらその場を中座する。

 警察からの情報ということで、まずはそちらの対応を優先したのだろう。

 自然と、僕たちは彼女の帰りを待ちながら、ぽつぽつと推理を言い合うような時間を過ごした。


 終夜が帰ってきたのは、それから五分後。

 速足で廊下を駆けてきた彼女は、すぐさま「現場から気になる指紋が発見されたそうよ」と告げた。

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