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世界が推理小説になったから  作者: 塚山 凍
Period11:ツギハギサポート

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アピールタイム

「……その『知らされていた額とは全く違う額のバイト代』というのは、どういうことかしら」


 その日の夕方。

 僕は終夜、香宮の二人と夕食をとりながら、自然とバイトの話をしていた。


 彼女たちも前回の事件で忙しかったせいか、このバイトについての噂はよく知らなかったらしい。

 僕がその奇妙さを解説すると、二人とも興味をひかれたようだった。

 そして封筒を開けたところまで話したところで、香宮は当然の疑問を投げてくる。


「……もしかして、既定のバイト代よりも遥かに低い額しか渡されなかったの?だとしたら詐欺だから、学校のバイト課に言っておく必要があるけれど」

「あー、違う違う。ごめん、誤解を招く言い方をした」


 不愉快な話を聞いたような顔をする香宮に、僕は慌てて否定する。

 確かに探偵狂時代だと、そう捉えるのが素直な理解かもしれなかった。

 思った以上に楽なバイトだったけれど、バイト代についても思った以上に安いようでした、トホホ……────これならまあ、現代でも有り得るラインである。


 しかし、生憎と現実は逆に向かっていた。

 だからこそ、僕もこの一件は奇妙さを増すのである。


「実際にはさ……何故か、本来のバイト代よりも高い額が入ってたんだ。金額的には、十倍くらいになってる。要するに、ただでさえ高いバイト代の更に十倍の額が手渡された」

「それは……お金を入れ間違ったの?或いは、別の人の封筒と間違えたとか」


 カキフライを箸でつまみながら、話を聞いていた終夜が妥当な推測をする。

 本来なら「日常の謎」が不得意な彼女だけれど、頑張って解こうとしてくれているらしい。


「まあ、普通に考えればその手のミスだと思う。ただ、いくら何でも間違え過ぎな気もしてさ」

「そうよねー……千円札と一万円札を間違えるって、図書館の経理がやったのだとしたら相当なミスよ。手渡しでバイト代を渡すのなら、渡す前に中身の確認くらいはするでしょうし」


 終夜の指摘はもっともな物であり、僕はそうだよね、と頷く。

 バイト代を手渡しにする職場が増えたことは、手渡しでのお金の管理に厳しいところが増えたことを意味している。

 状況的に、このレベルのミスは考えにくいのだ。


 しかし同時に、意図的に多い金額を渡すことはもっと考えられない。

 暫定的な結論としては、やはり経理のミスだと考えるしかなかった。


「どちらにせよ、ミスならお金は返さないといけないから、すぐに電話で問い合わせたんだけど……気づいた時には図書館が閉まってて。電話に出てくれなかったんだ。仕方がないから、明日にでも事情を聞きがてら返しに行く予定だけど」


 そう判断したからこそ、モヤモヤしながらもこうして夕食をとっているのである。

 終夜はそんな僕を同情的な視線を向けた後、ふと感心したような顔になった。


「ちょっと話がずれるけれど……九城君、お金は返しに行く気なのね。今の時代、仮に向こうのミスだとしても、多めにお金が入ったらそのまま自分の物にする人が多い気もするけど」

「いやいや、僕に犯罪を勧めないでくれ、終夜」

「別に、パクっちゃえって言っている訳じゃないわ。相変わらず真面目だなーって思っただけで」


 ここに財布を届けに来た時と変わらないわね、と終夜は微笑む。

 呆れているようでもあり、褒めているようでもあった。

 何だか気恥ずかしくなって、僕は視線を逸らす。


 終夜の言う通り、こういう状況で律儀に返金する人物は幻葬市内でも少ないだろう。

 財布の一見でも考えたけれど、そのまま盗む人の方が遥かに多いのだ。

 だけど僕としては、やはりこういうのはちゃんとしたかった。


 お金という代物は、人間のことをいくらでも変えてしまう。

 守屋一にも言ったが、時代の状況がこんな感じだからと言って、何をしても良いなんて話はないのだ。

 綺麗事かもしれないが、誕生日探しの資金はもっと正しい形で稼ぎたかった。


「でも正直、返金した後についてはどうしようかな。バイト代に関しても謎が多いけど、それを抜きにしてもあのバイトには変なところが多い。これからも関わるべきかどうか……」

「……辞めるつもりなの?折角、待遇の良さそうなバイトなのに」


 少しぼやいてみると、香宮からは意外な反応がなされる。

 香宮としては、返金さえすれば僕はこのバイトを続ける気でいるように感じていたようだった。


「いやでも、やっぱり変なところが多いからさ……何なら香宮、あの図書館について何か知らないかな。怪しげな噂を聞いたことがある、くらいでも良いんだけど」


 アキラに既に聞いたことではあるが、ついでなので香宮にも尋ねてみる。

 終夜や僕とは違って、彼女は前々から幻葬市に住んでいた「オリジナル」だ。

 アキラすら調べきれていないことすら、もしかすると知っているかもしれない。


「そうね……私も館長とは会ったことがあるけれど、特におかしな話は聞いたことがないわ。この時代にしてはちゃんとしているところだと思う」

「……え、ちょっと待って。香宮、図書館の館長と会ったことがあるんだ?」

「ええ。館長の実家は、幻葬市北部に土地を持つ地主なのよ。確か、子どもも何人か幻葬高校に通っているはず。だから、挨拶程度はしたことがあるわ」

「そう言えば、私も会ったことがあるかもしれない……凪と一緒に挨拶をした記憶があるわ」


 話している内に思い出したのか、終夜も「そう言えば」みたいな顔をする。

 どうやら、例の地主ネットワークに関する繋がりのようだった。

 香宮は地下室に籠り切りな割に、変なところで外と繋がっている。


 ──でも考えてみたら、館長が資産家なのは不思議なことじゃないか。名探偵の支援も受けた大型図書館のトップとなると、かなりの教養がないと務まらない仕事だろうし。


 こんな荒れた時代では、図書館の館長を目指せるだけの教養を持つ人はかなり少ない。

 逆説的に、館長になれるだけの教育を受けた彼は、地主のような資産家の出身でないとおかしいのである。

 そして幻葬市に土地を持っていれば、自然と香宮と顔を合わすくらいはするのだろう。


「……私が知る限りでは、情熱を持って図書館を運営している良い人よ。決してそんな、怪しいバイトを斡旋するとか、好条件で人を集めてから法に触れるようなことをするとかはしないと思うけれど」

「だけど現実に、バイトを申し込んできた人をすぐさま落として、僕だけはすぐに採用するっていう変なことをしている。この理由は……」


 そこまで話したところで、僕は言葉を止める。

 僕の向かいで、終夜が変な顔をしていることに気が付いたからだ。

 自分で作った料理が、いきなり最低な味になってしまったような、そんな苦々しい顔だった。


「え、しゅ、終夜、どうかした?」

「……んー」


 唸り声のような音を発しながら、終夜は食事の途中なのに箸を置く。

 そしてしばらく、次の言葉を発するかどうか逡巡する様子を見せた。

 僕らが固唾を飲んで見守っていると、やがて終夜はボソッと気になることを言う。


「もしかしたら、九城君が気にしている真相が分かったかも……何故、あんな好条件のバイトが存在したのか。そして、どうして九城君がそれに選ばれたのか」

「……どうしたの、雫。普段は『日常の謎』なんて苦手なのに」


 香宮が目を丸くする隣で、僕も驚愕する。

 僕が体験した不思議なバイトの話を聞いて、終夜としては思いつくことがあったらしい。


 終夜から専攻外の推理を聞くのは珍しいけれど、その分興味が湧いて、僕たちはジェスチャーで続きを促す。

 それに応じた終夜は、いつもの符牒を述べた。




「さて────」




「最初から分かっていたでしょうけど……このバイトは、何から何までおかしいわ。全体的に、館長が九城君のことを贔屓している。そうじゃないと説明がつかないことが多い、と言えば良いのかしら」


 思いついたばかりの推理であるせいか、終夜は一つ一つ確認していきながら話を進める。

 彼女自身、論理の道を慎重に踏み固めながら進んでいる節があった。

 専攻外の推理であるため、慣れていないのかもしれない……しかし内容的には、納得できることだった。


「まあ確かに、そう考えた方が良いかもしれない。手渡されたバイト代が本来の十倍だったことも含めて、僕に都合の良いことだけが起きているし」

「そうでしょう?多分、館長は最初から九城君だけを雇う気だったのよ。このバイト募集自体、アンタのために用意されたのかもしれない。アンタは前々からバイトを探していたから、それをどこかで知ることはできたでしょうし」

「でも一体、何のために……館長は、何が何でも僕にお金をあげたかったってことになるけど。そうなると、もっと話が分からなくなる」


 僕が館長に出会ったのは、今日が初めてだ。

 そこまでの贔屓を受けるだけの理由など存在しない。


「……館長が九城君のファンだった、というのはどう?九城君はこの前の事件でも活躍したから、結構有名になっている。そして館長は子どもが幻葬高校に通っているから、一連の事件のことも知っているはず。それで何か支援がしたくなって、高額のバイトを敢えて用意した」


 館長の動機を考えていると、香宮が興味深いことを言う。

 かなりぶっ飛んだ理由付けではあるけれど、ギリギリ有り得なくもないラインだった。


 守屋一の事件に関する情報は──主にアキラのような「情報」専攻たちの手で──各方面に売りさばかれたはず。

 だから、そこから僕を評価する人が現れる可能性はある。

 しかし少しだけ納得した次の瞬間には、反論も思い浮かんだ。


「いやでも、それなら僕に直に会いに来ればいいだけの話だ。館長は香宮と顔を合わせたことがあるくらいなんだから、このお屋敷のことだって知っているだろう。バイトなんて用意しなくても、香宮を介して連絡を取ってくれたら、僕だって会ったよ」


 僕を支援したいなら、こんな変なことをする必要はない。

 もっと簡単に僕にお金を渡す方法は、いくらでもあったはずだ。

 それがどうして、「多くの人が見るバイトの紹介一覧に割の良いバイト情報を掲載して、他の希望者は全て落とす」なんて面倒なことをしているのか。


「仮に館長が僕を贔屓しているのが事実だとしても、こんな迂遠な手段を選んだ理由が分からないんだけど……終夜はその辺、何か思いついたのかな」

「ええ、合理的な理由とは言えないかもしれないけど」


 そう言いながら、終夜は香宮の方をちらっと見る。

 そして、「不愉快な想像をしてごめんなさい」と前置きした。


「単純に……館長は、香宮家にアピールしたいんじゃないかしら。凪だって、結構ある話でしょう?幻葬市在住の資産家から、贈り物攻撃を受けるのは」


 もしかすると、九城君はそれに巻き込まれたのかもしれない。

 申し訳なさそうな顔をしながら、終夜はすらすらと話し続けた。

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