そして王都へ
大変お待たせ致しました。第三話です。
相変わらず亀更新ですが、どうぞお楽しみください。
レヴァンテインが示す方へ近づくにつれて、激しくなっていく音と揺れ。それが数回ほど続いた後、レイはようやく人影らしきものを目にする。自分と同じくらいの背丈の少女とその倍以上はある巨体の魔物。
魔物は無数の光る何かを操り、少女は弓でそれに応戦しているが、防戦一方であることは火を見るより明らかだ。
このままではあの少女は確実に魔物にやられてしまうだろう。
「相棒、いけるか!?」
『了解です、マスター。戦闘モード限定起動。魔導回路を励起状態に移行しました。いつでもいけます』
「よし!いくぞ!」
レヴァンテインは宿す魔力を炎へと変えて剣身に纏い、レイはそのレヴァンテインを構えて強く地面を踏み込んで速度を上げて魔物へと近づく。
魔物は目の前に少女にとどめを刺そうと隙だらけの姿を晒している。今だ!と言わんばかりに雄叫びをあげながら、レイはレヴァンテインを大きく振り抜いた。
「でりゃあああ────!!」
少女も魔物も突然現れた乱入者の方へと視線が向く。そして魔物は反撃を許されないまま炎に飲み込まれた。
「グオオオオオオオオオッ!?」
魔物は炎に灼かれて苦しみの悲鳴と共にのたうち回った。
少しだけできたその隙に、少女の無事を確かめるため、一瞬だけそちらの方へ視線を向ける。
良かった……間に合ったみたいだ。
そう安堵したのも束の間、どうにか炎を払った魔物が唸り声を鳴らし、レイを睨む。その視線は激しい怒気と殺意を孕んでいた。
レヴァンテインの炎を受けて怯えることなく、むしろ怒りを見せた魔物を前にしてレイは不敵に笑う。
「コイツ……中々できる奴かもな……!」
『首元の特徴的な模様からあの魔物はニチリングマであると推測します』
「ああ。しかも……」
『はい。魔法を使える個体のようです』
レイとレヴァンテインは魔物の正体と特性を冷静に分析する。しかし、彼らが次の手を考えるよりも先にニチリングマが襲い掛かった。
その巨体から繰り出される体当たりをレヴァンテインで防御する。剣身ごしにニチリングマの剛力が腕、そして体全体へと伝っていく。
人間とは比べ物にならない圧倒的なパワーを受け、レイは押し飛ばされる。
さらにニチリングマは攻撃の手を弛めることなく、その剛腕をレイに振りかざす。
レイはギリギリで回避するが、鋭い爪が服とカバンを引き裂いてそこから肌色が覗く。
「危ねぇ……。魔法に怪力。それに加えてあの爪も厄介だな……」
『はい。このまま私達だけで戦った場合でも勝てる可能性は十分ありますが、こちらが受ける被害も決して小さくないでしょう』
「ああ……まさに今、身をもって感じてるよ!」
レヴァンテインの言葉は正しいだろう。しかしそれはあくまでレイ達だけで戦った場合だ。
今、この場にはもう一人戦えるものがいる。
レイはニチリングマに視線を合わせたまま、少女に声をかける。
「そこのアンタ!悪いが援護を頼む!」
「え、援護って……」
「アイツが飛ばしてくるやつを撃ち落とすだけでいい!」
少女が見せたあの射撃……防戦一方だったとはいえ、激しく動き回るあの魔法を的確に撃ち落としていた。その助けがあればレヴァンテインが告げた未来を回避することが可能かもしれない。
「……分かりました!やってみます……!」
「おう、頼んだ!」
睨み合う二人と一匹。先に動いたのはニチリングマだった。
詠唱代わりの咆哮と同時に魔法陣がその足元に浮かび上がる。そしてニチリングマの頭部を模した魔力弾がいくつも顕れ、二人に襲いかかった。
「グルゥゥゥアアアァァァ!!」
迫り来る無数の魔力弾。しかしそれがレイ達に届くことは無かった。
少女が射った魔力矢が一発の撃ち漏らしも無く、魔力弾を相殺していく。
そして魔力矢と魔力弾が入り乱れる中をレイは駆け抜けていった。
右へ左へ、迫る弾道を躱しながらニチリングマとの距離を縮めていき、再びレイはニチリングマに肉薄した。
小細工は通用しない、ニチリングマはそう考えたのか、目の前までやってきたレイに牙を向ける。
大きく開いた口がレイを噛み砕こうとして空を切る。
すんでのところで回避したレイが再びレヴァンテインを振るう。
レヴァンテインの炎刃は、ニチリングマの肉を灼きながら斬り裂いた。
「グオオォォォォ!!」
悲鳴と共にニチリングマはよろける。続けざまに弓使いが魔力矢を放つ。魔力矢はニチリングマに直撃する直前に網状に変化し、その巨躯を縛り付ける。
「《バインドネット》!!」
魔力の網はニチリングマが暴れるほど、その体に絡みつく。
「今です!」
「サンキュー!」
今が好機と、レイはレヴァンテインを構え、自分の内側に意識を集中させる。
レイの中に満ちる魔力が全身を駆け巡り、レヴァンテインの中に……術式に注ぎ込まれていく。
レイの足元に顕れる魔法陣。炎の紋様が描かれた円陣は紅く輝き、レヴァンテインの剣身に炎を宿す。
「抜剣!【赤熱一閃】!!」
詠唱と同時にレイは跳んだ。魔力で底上げされた脚力で瞬く間にニチリングマに肉薄し、同じく剛力を宿した腕でレヴァンテインを振り抜く。
紅蓮の剣はニチリングマを斬り裂き、煌炎がその巨体を灼き尽くした。
ニチリングマは完全沈黙、戦闘は終了した。
『半径百メートル以内における敵性反応0。戦闘終了です』
「ふう……なんとかなったな。助かったぜ、相棒」
『お見事でした、マイマスター』
周囲の安全を確認し、レイは構えを解いてレヴァンテインと互いに言葉を交わす。
レイの【魔法】はレヴァンテインあってのもの。その力なくしてあの魔物には勝てなかっただろう。
そしてもう一人の功労者である弓使いにも声をかけようと振り向いた瞬間──。
「凄い!凄い!凄いです!」
「うおっ!?」
離れた位置にいたはずの弓使いが、いつの間にかレイの目の前に現れた。
「今のって魔法ですよね!?それにその剣喋ってましたよね!?ということは貴方は魔法使い!?でも剣で戦う魔法使いなんて聞いたことが……」
ふわりと揺れる栗色の髪、キラキラと輝く翡翠色の瞳、わずかばかり幼さを残す顔立ちは美少女と呼ぶに差し支えない。
そんな彼女に迫られて、レイは動揺して後退る。
対する弓使いは相当興奮しているらしく、息がかかる距離まで近づいていることなど気にも留めず、レイが一歩下がると一歩前に踏み出して再び彼との距離を縮めた。
「一旦落ち着こう!?な!?」
「え……あ!ご、ごめんなさい……。私ってば命の恩人につい……」
弓使いはレイの言葉で我に返り、頬を真っ赤に染めながら足早に離れていく。
レイはほっと一息吐き、胸をなでおろして彼女をフォローした。
「少し驚いただけだから気にするな。コイツを見て驚く気持ちも分かるしな」
落ち着きを取り戻した弓使いは一泊置いた後、再び口を開いた。
「助けていただきありがとうございました。私はステラ・ルークスです」
「俺はレイ・アストルム。こっちは相棒のレヴァンテインだ」
『私は自立学習型人工知能搭載ドライバー、レヴァンテインⅡです。どうぞお見知りおきを』
弓使い……ステラは不思議なものを見る目をレヴァンテインに向ける。
先程食い気味に迫ってしまったことを省みたようで、ちらりと視線を送る程度だ。
「レイさんは不思議なドライバーをお持ちなんですね。人の言葉を話すなんて私初めて見ました」
『私は最新式のドライバー。コミュニケーション機能をはじめ、様々な機能で様々な場面のサポートが可能です』
機械的なはずのレヴァンテインの声は、どこか得意気な雰囲気を帯びていたような気がした。
「詳しいことはよく分からないのですが、レヴァンテインさんは凄いドライバーさん、ということですね!」
目を輝かせながら感嘆の声をあげるステラ。その反応に、やはりレヴァンテインは悦に浸っていた……ように思えた。
ここに来た本来の目的を忘れている自称最新式を名乗る相棒にレイはやれやれと肩を竦めつつ、一人と一機の間に割って入った。
「まあ、とにかくコイツはちょっと特別なドライバーなんだ。それはさておき、ステラはどうしてこんな所ににいたんだ?」
尋ねられたステラは、「えっと……」と少しだけ赤く染めた頬を指で掻く。
「この森の調査クエストを受けていたのですが、その最中にうっかりあの魔物達の縄張りに入り込んでしまって……」
「なるほど……それでアイツらと戦ってたって訳か」
「はい……なので、レイさん達が来てくれて本当に助かりました」
「俺達だけじゃない。ステラもいたから切り抜けられたんだ。それに俺達も助けを求めてわけだし」
「助け?」
ステラは頭上に疑問符を浮かべて首を傾げる。
この場所に来た本来の目的、それをレイはステラに告げた。
「実は俺達は王都を目指しているんだが、この森で迷子になっちまってな。王都までの案内か、もしくはそこまでの道を教えてくれそうな奴を探してるんだ」
「なるほど……それがレイさん達がここに来た理由なんですね」
「ああ。もし不都合じゃなければ、ステラに頼みたいんだけど、どうだろう?」
現状この状況を打開する為にはステラの協力が必要不可欠だ。
助太刀をした直後ということもあり、ずるい頼み方をしてしまったことにレイは良心を痛める。しかし、これもまた一つの処世術だ、と自分に言い聞かせた。
「分かりました。私でよければ王都まで案内しますよ」
レイの葛藤をよそにステラは笑顔で答えた。
「本当か!?」
「ええ、レイさん達には助けていただきましたし、私も王都まで帰らなければいけませんから」
「そうか、ステラは王都の冒険者だったんだな!」
「はい!ここで会ったのも何かの縁。よろしくお願いしますね、レイさん、レヴァンテインさん!」
「ああ、こちらこそよろしく、ステラ」
『私からもお礼を。ありがとうございます、ステラ』
座礁しかけていたレイ達の旅路は、ステラという案内人を得て再び軌道にに乗り始める。
その道中でレイの腹の虫が食事を催促し始め、また一つ借りを作りながら、二人と一振りは王都までの道を歩いていった。
魔法
魔力を用いて発動することが出来る技。術式に魔力を入力することで発動する。入力する魔力量を変えることで出力の調整が可能。
魔力を持つものだけが扱うことが出来る。
スキル
魔力を持たないものでも魔法を使えるように改良したもの。ドライバーにインストールし、ドライバー内に貯蔵されている魔力を消費して発動する。
威力の調整は可能だが、上限が定められているため、超広範囲などの大規模なものは使えない。