出会い
かなり期間が開いてしまいましたが第二話です。
モチベーションや納得のいくものが出来るまでに時間がかかってしまうので気長にお待ちください。
2025/3/27 スキル名を囲う括弧を【】から《》に変更しました。
小さい頃に読んだ冒険譚のような冒険をする。
幼い頃からの夢を叶えるために始まったこの旅は、始まって早々暗礁に乗り上げようとしていた。
「うーん……これは本格的にまずいな……」
緑生い茂る森の中。行けども行けども変わらない景色の中、歩を進める。
村から旅立ったレイたちは、師匠の助言を貰ってひとまず王都を目指すことにした。途中までは順調な旅だったが、魔物に襲われてマップのデータが入ったデバイスを壊されてしまったのだ。
村の外に出たことがないレイと永い間眠っていたレヴァンテイン。
正確な地図を持たぬまま、レヴァンテインに内蔵された地図の方角機能だけを頼りに進んだは良いものの、やはり迷ってしまったのだ。
当然、この辺りの知識も無いため、生息している魔物から場所を推測することもできない。
だが、それは大きな問題ではない。いや、迷子なのも問題だが、一番の問題は食料だ。
方角だけを頼りにしているので時には魔物の巣や断崖に行き当たり、回り道もしてきた。その分、当初の予定よりも旅が長びいてしまっていた。用意していた食料が足りなくなってきたのだ。
食べられる植物や魔物を見つけるのもそう簡単ではない。
つまり、詰み一歩手前の状況なのだ。
「金はあっても店がなけりゃな……」
『次に購入する際は、耐久性の優れたものを選ぶことを推奨します。食料も万が一に備えて余分に持つべきですね』
「だな。にしても、一体いつになったらここを抜けられるやら……」
『正確な位置を割り出すことは不可能ですが、おそらく後数時間程で森からは……』
レイの疑問に答えようとしたレヴァンテインの言葉を遮るように鳴り響く爆発音。
その振動が空気が伝って木々を揺らす。音に驚いた動物たちが怯えるようにその発生源から逃げていく。
『北西方向約二百メートル先で魔力反応があります。何者かが交戦していると推測されます』
「数は?」
『人間のものと思われるものが一つ。魔物のものと思われるものが二つです』
レイたちのように森に迷い込み、運悪く魔物の縄張りに踏み込んでしまったか、目当ての魔物に戦いを仕掛けたか。
一人だけとなれば前者の可能性のが高いだろう。
いずれにせよ、数百メートル単位で捉えられるだけの魔力反応が出ているならば穏やかでは無いことが起きているのは確かだ。
「行くぞ、相棒!」
『近づくのは危険です、マスター』
「戦ってるやつがこっちに来ないとも限らないだろ。それに人がいるってんなら、そいつについてけば上手く森から出られるかもしれない!」
『分かりました。しかし、無茶は禁物です。私も警戒レベルを引き上げます』
レイは相棒の忠告を耳に入れながら、爆発が起きた方へと走り出した。
弓使いの少女──ステラ・ルークスは、草木を搔き分けながら道無き道を駆け抜ける。
息を切らしながらも、背後に迫る殺気から逃れるために必死に足を動かし続ける。
本当なら今頃は依頼を達成して王都への帰路についているはずだった。
しかし、依頼の目標である薬草が生えている場所が魔物の縄張りになってしまっていたのだ。
「だーかーらー!縄張りに入っちゃったのは謝るからもう許してよーーー!!」
ステラの背中に尋常ではない殺気を突き刺す二体の魔物。
身体の大きさはステラの倍以上。真っ黒な体毛に覆われ、首周りに輪の模様がある獣〈ニチリングマ〉。
王都近郊にあるこの森林地帯〈ネリネの森〉に生息する最大の肉食獣だ。
「グルァァアアアッ!!」
人間の言葉など通じるはずもなく、ニチリングマは怒りに吠える。
咆哮は空気を伝って衝撃波となり、わたしに容赦無く襲い掛かった。
「きゃあああ!?」
まるで全身を大きい槌で叩かれたかのような衝撃を受けて転がる。
なんとか立ち上がることは出来たが、既に二体のニチリングマに挟まれていた。
「逃がしてはくれないか……。なら、やるしかないよね……!」
弓を展開して構える。
下手な動きを見せればやられるのはステラ。相手をよく観察して弱点を見つけるしかここを切り抜ける手段は無い。
先に動いたのはステラの正面に立つニチリングマ。ステラの頭を目掛けて鋭い牙を光らせる。
その初動を見てステラは二体の間から抜け出し、攻撃を躱した。
攻撃を回避してすぐさま反撃に移る。弓が生成した魔力の矢をニチリングマに撃つ。
一射、二射と次々着弾した矢は爆発して煙を巻き起こす。
「まだまだいくよ!」
弓にインストールされているスキルを選択。弓は内部に溜められている魔力を使って術式を起動する。
魔力矢の先に現れた八芒星。それに向けてステラは矢を放った。
「《オクタグラムバースト》!!」
放たれた一条の光は魔法陣を潜り抜けると、うねる八つの流星となり、ニチリングマに降り注いだ。
直撃した魔力矢は眩く輝き、ニチリングマの姿を覆う。
このスキルはステラが持つ物の中では最も強いスキル。これならばきっと無力化できているはず、そう考えての選択だった。
徐々に収まっていく光。視界が完全に戻ると、そこには地に倒れ伏したニチリングマとほぼ無傷でステラを睨むもう一体の姿があった。
「倒しきれなかった……!?」
二体の魔物の位置関係。それが、あの瞬間に何が起きたのかをステラに教えてくれた。
並列に並んでいたはずのニチリングマは二体ともステラと一直線上にいる。倒れたニチリングマは仲間を庇って傷を負ったということだ。
庇われたニチリングマは、仲間を傷つけられたことで一層強い怒りをステラに向けてきた。
唸り声と共に首の模様が光り始める。その光がより強い輝きを放つと、その頭上に魔力で象られた魔物の牙が顕れる。
「グオオオォォォ!!」
ニチリングマが吠えると牙はその口を大きく開き、ステラを噛み砕こうと向かってくる。
ステラは攻撃から逃れるため回避を試みる。しかし──。
「ウソ!?追いかけてくる!?」
牙は地面に直撃する直前に軌道を大きく変え、ステラの後を追いかけてきた。さらに、ニチリングマは同じものを複数作り出してけしかける。
避けて、避けて、撃ち落として、避けて。
今は何とかなっているけれど、ずっとこれを続けているわけにはいかない。
体力的にも、弓に残った魔力量的にもニチリングマには勝てない。
この状況を打開する方法……それを考え始めて間もなく。
「うおおおりゃあああ!!」
真紅の剣を携えた剣士が現れた。
魔力
大気中や生物の体内に存在するエネルギー。魔力は魔法やスキルといった技術に利用されているほか、純粋なエネルギー資源として現代の文明に組み込まれている。