プロローグ
実質処女作です。よろしくお願いします。
2025/3/19 レヴァンテインⅡに関する描写を一部変更しました。
「うおおおぉぉぉぉっ!!」
「グオオオォォォォッ!!」
洞窟という閉鎖空間の中で反響する岩肌の蜥蜴の咆哮。
少年・レイ・アストルムが放った起死回生の一撃はロックドラゴンの急所を確実に捉え、対するロックドラゴンは自らに死を与える刃を止めようと体をうねらせる。
ロックドラゴンの肉を断つ剣は激しい猛攻の末に限界を迎え、内包された魔力とともに爆散する。
「グオオ……オォォ……ォ……」
幸運にも体内で起きた魔力の暴走が致命傷となり、ロックドラゴンは絶命した。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……死ぬかと思った……」
目の前に横たわる魔物の死骸。瞳の光が消えて動かなくなったそれを一瞥し、この遺跡をテリトリーとしていた主との激闘が幕を閉じたことにレイは安堵した。
緊張が解けるのと同時に身体中の至る所に痛みを感じ始める。見れば全身傷だらけでズタボロ。命に関わる大怪我こそないが、空気に触れるたびに傷は疼き、打たれた鈍い感覚が身体を襲う。
更にこの激闘で共に勝利を掴み取った剣は半壊。既に武器としての機能は失われてしまっていた。
「これまでありがとうな。帰ったら供養してやるから」
冒険者の師匠に与えられてから約四年半、苦楽を分かちあってきた相棒に感謝の言葉を送る。
だが痛みに負けるのも別れを惜しむのも今じゃない。
用意していた応急キットで処置をし、ここに来た目的を果たすためにボロボロの身体に鞭打って痛みに耐えながら立ち上がる。
やっとのことで辿り着いた遺跡の最奥部。その場所を封じる扉は、そのほとんどが洞窟と同化して原型をとどめていない建物と同じものとは思えないほど、その形を保っていた。
レイは、師匠から受けた三年間の教えを思い返す。これは魔法だ。
曰く、魔法とは魔力を用いて発動する術で、物を壊したり傷を癒すことも出来るという。
この扉にも風化を防ぐような魔法がかけられている、一目見ただけでそう理解出来た。
「さて……どうやって開けるか……」
破壊しようにも剣は壊れて使えない。というか恐らく剣でも壊れないだろう。
どうしたものかと思案し、扉に触れるとその扉が語りかけて来た。
『魔力検査を未実施の魔力反応を検知しました。魔力検査を実施します』
「うおっ!?今度は何なんだ!?」
扉に取り付けられていた古めかしいデザインの機械──というか古代の遺物──がレイの身体をスキャンする。
突然光を当てられ、レイは腕で視界を塞ぐ。
時間にして十秒ほど、機械が全身を調べ終えると、固く閉ざされていた扉が開いた。
「終わったのか……?」
『魔力検査が終了しました。総魔力量:C。魔力変換属性:炎。制御機能異常無し。身体の魔力抵抗値:0。魔導師ランクC+。あなたが本館の最後の来館者です』
扉が開くと同時に謎の声がレイに入室を許可する。
レイはゆっくりと部屋の中に入り、足を進めた。
室内には見たことの無い機械たち。これらの正確な価値を見出すことは出来ないが、何か重大な物であることは見て取れた。
ふとあるものが目に留まる。
部屋の中央で佇む一振りの剣。燃え盛る炎を思わせる真紅色。波打つような波形を描いて魔力が輝く剣身。そしてこの剣の核として埋め込まれている蒼い魔導石。
レイはまるで吸い込まれるように剣に近づき、そしてこの手で触れた。
その瞬間、レイの中の何かと剣ががっちりと噛み合う。
「何だ、今の感覚……。まるで俺とこの剣が一つになったみたいな……」
未知の感覚がレイの中に宿る。師匠の剣を見た時も、師匠から剣を譲り受けた時もこんな感覚は一度も無かった。
しかし、それだけでは終わらず、更なる衝撃がレイを襲った。
『魔力認証完了。初めまして、マイマスター』
「お、お前喋れるのかっ!?」
『はい。私は自立学習型人工知能搭載ドライバー、〈レヴァンテインⅡ〉。マスターとなる魔導師の助けとなるべく開発された最新モデルです。この力、どうぞ貴方の剣としてお役立てください』
人工知能やら魔導師やら今一つピンと来ない言葉が連なる。けれど一つ分かったこともある。レヴァンテインが自分をマスターと呼んだこと、それだけは揺るぎない事実であると先程の感覚が教えてくれる。
俺がすることは一つだけだ、と。
「俺はレイ。レイ・アストルムだ。俺の夢は冒険者として世界中を見て回ること。だからその為に俺に力を……いや、違うな」
貸してほしい、そう言いかけて一度言葉を飲み込む。
瞼を閉じて一呼吸間を置き、レイは今度こそレヴァンテインを引き抜き、天に掲げた。
「一緒に色んな場所に行って、色んなもんを見る。いつか見た英雄譚にも負けないような冒険をしよう、〈相棒〉」
『もちろんです、マイマスター。願わくば、貴方が大願を果たすその日まで──』
夢見る少年と真紅の剣。
この出会いがやがて世界すら揺るがす冒険の始まりであることをまだ誰も知らない。
岩肌の蜥蜴
ダンプカーのような巨体と岩のような硬い肌を持つ魔物。高い攻撃力と防御力を有していて、手練の冒険者パーティでも討伐は困難。ましてや単騎で挑むなど自殺行為も同然。これを単独撃破出来たのはレイがおかしいだけ。
またドラゴンの名を冠するが、種としてはトカゲである。