ちん○ん
「昨日通販で怪しげな薬買ってみました!」
「いらんわその報告!」
おりひめ委員長の手には、ひとつの薬が握られていた。
ボトルに入ったそれは、緑色をしている。いかにも怪しい薬だ。
飲んだら人格が変わってしまうとか、そういう類いの薬だろうか。
何とも恐ろしい限りだ。絶対に飲みたくはない。
「これを飲みたい人!」
「いるわけないでしょうが! あんた人体を何だと思ってんの!?」
「そうだよねー、ちょっち飲みたくはないかな!」
「わ、私も遠慮するぞ」
夏美とエリカは、二人して首を横に振った。まぁ正当な反応と言えば反応だが……
「………………」
黙り込んじゃってるのが一人いた。彼女はいったいなにを考えてるのだろうか。よからぬことを考えてなければいいが。
新たなキャラ作り……とか、そんなことを考えてしまっているのかも知れない。
だとしたらやめろよ! 絶対やめろよ!
俺の振りは……虚しく宙をからぶった。
「わ、私! 飲んでみたいな!」
「「おぉ!」」
と歓声が、夏美とエリカから上がった。
「やめとけ! 絶対ろくなことになんねーぞ!」
「うるさいよ! わ、私は変わってみせる! 新たなキャラを作ってみせるからね! 見ててねお姉ちゃん!」
「お姉ちゃん! しっかり教育して! この子暴走が始まっちゃってる! 昼休みでお腹空いちゃって暴走が始まってるよ!」
「おー、飲んでくれるんですか!? ではこちらをどうぞ!」
「飲むな飲むな飲むな!」
しかし俺の忠告虚しく、環奈はその薬を一気飲みしてしまった。
あー、犠牲者が出てしまった。
俺は知らないぞ、と思った。もうどうなっても知らないからな!
「どうですか? 体に異変とか、ありますか?」
「一応確認ですけど、委員長なんの薬なんですか、これ?」
「私はなんとなくわかってるけど秘密!」
「吐け! 今すぐに吐け!」
「わ、わかりましたよ! だから肩揺さぶるの止めて下さい! あ! でもほら! 環奈さん体に反応があったみたいですよ!」
「マジ……?」
と俺が振り返ると、環奈の体が淡く発光していた。
「おい、どうなってやがる……」
「わ、私、ちょ、ちょっと待って! この薬って……!」
俺と、おりひめ委員長と、夏美と、エリカは、全員揃ってゴクリと唾を飲み込んだ。
いったい彼女の体になにが起こっているのだろうか、それは、おりひめ委員長と環奈本人にしかわからないだろう。
環奈は、顔を真っ赤に染めた。
「こ、この薬ってぇ………………!」
「おい環奈!? どうしたん………………だッ――――――」
俺は見てしまった。
見なけりゃよかったと思った。
まさか本当に存在するとはな、こんな薬が。
この世界にオカルトというものが存在することを、俺は初めて知った。
「環奈! お前! ち…………………………」
「やめて――――――――――――ぇ! 口にしないでぇ――――――――――!」
俺はさらに唾を飲み込んだ。
環奈の体を襲った異変。
それはフィクションなどではよく見かける、あれだった。
環奈が座っていたことは僥倖だった。
環奈に怒ってること……それは俺が隣の席に座ってるからこそわかったことだった。
「おい伊織? いったいなにが起こってるんだ?」
なるほど。俺の後ろの席に座っているエリカからすると、見えない位置にあった。
夏美は口をパクパクして、顔を赤くして、その様子を見守っている。
「え……………………? うそ……………………? マジ? は、はじめてみた…………」
「み、見ないでよ! わ、私………………やっぱ飲まなければよかった!」
そんなこと言われても、薬の効果は出ちまっている。
ずんずん、とそいつは大きくなっていく。
いや、もうここまで読んだ奴ならわかるだろう。
「環奈……………………………………男になってる」
「やめてよ!」
環奈の絶叫が響き渡る。
ちんちんが生えてきた!
端的に説明するならそういうことだ。でっかい、それは立派で、大きなちんちんが生えてきている。
スカートの裾を盛り上げているそれは、間違いなくマラだった。でかマラ…………わーお、いっつびゅーてぃふる!
俺は口を閉じた。こ、こんなに大きいのは見たことがない。
「なんて………………でかいんだ………………!」
俺は唾をまた飲み込んだ。今度は驚嘆からだ。
ざっと二十五センチはあるだろう。我々の人種ではなかなかあり得ないサイズだろう。
「ひっ…………………………やだっ、…………………………みないでぇ……………………!」
しかし、対照的に息を荒らげているのは、当のおりひめ委員長だった。
「いい! いいですよ環奈さん! さぁこっちを向いて下さい! ふたなりのできあがりです! はぁ………………………………はぁ………………」
この人まるで変態じゃないか。誰かこの人止めてくれ、頼むから。
「おい委員長! どうすんだよ! 環奈が男になっちまったじゃねぇか!」
「わ、私の責任じゃありません! 薬の製造元に訊ねて下さい!」
たしかに、薬の効果を確認せずに飲んだ環奈にも問題はある。あるが、これはあまりにも、可哀相だ。
いや可哀相か? 俺はその立派なおちんちんを見ながら、思う。
クソこいつ俺よりでけぇ、と。
ちなみに俺のサイズは、最大でも十センチしかない! おい笑うなよ! 俺だって真面目に生きてるんだよ!
「す、素晴らしいです! こんなおちんちんは見たことありません! 写メ取りましょう写メ!」
「取るな! バカバカ! 暴走しすぎだ!」
「インスタに上げちゃいましょう!」
「とまれ、腐れ委員長! 全力で阻止する! おい環奈、大丈夫か?」
「ぐすっ…………………………私、お嫁に行けないよぅ…………………………!」
「そこか! そこなのかよ!? いやまぁたしかに、お嫁には行けないかも知れないが…………」
「そそそそそんな!? 私お嫁に行けないの!? うわーん、神崎くん助けてぇええええええええ!」
「俺にはどうすることもできない! そして抱きつくな! お前のちんちんは、俺の二倍以上はある! だから抱きつくな! なんかショックだ!」
「うわーん、神崎くぅ~~~~~~~~~~~~~~~ん!」
「やめろ! 擦り付けるな! なんか変な気分になる!」
暴走する環奈を、どう止めたらいいだろう。
もうこの子、頭がおかしくなっちゃっている。
「どうにかして下さい委員長!」
「え? このままでいいんじゃないですか?」
「ダメに決まってんだろ! あんた鬼か!?」
「でも、薬を飲みたいと言ったのは、環奈さんです!」
「そうだけど! 環奈も反省して!」
「わ、私が!? うぅ………………、ごめんなさい。けど、これを飲めば新しい自分になれるかな、って、そう思っちゃったの」
「悲しい! 理由が悲しい! 一番ダメな理由! お前にはお前のアイデンティティがあっただろうが!」
「そ、そうかな!? こんな私でも、神崎くんはお嫁にもらってくれる!?」
「お、おう……………………お前がその気ならな!」
「待て伊織! お前の嫁は私だろう!?」
「勝手に決まってんの!? そうなの!?」
「ち、違うし……………………神崎くんのお嫁さん………………あ、あたし」
「そうなの!? 俺好感度マックスだった!? わかった! 俺が全員、ハーレムエンドにしてやる!」
まぁそんなことはどうでもいい。問題は環奈だ。
この子のふたなりを解決しない限り、俺は今日の昼飯を食えそうにない。
「どうするんですか委員長。このままだと、飯が食えないですよ」
「えっへへ! 私はすごいおかずをもらってますよ!」
「だからとまれ! あんたのその変態思考なんなんだ! あんたもうなんなんだ!」
「今日のおかずはとーってもビッグですね! ぱしゃり」
「おいィ! やめろ! あんた本当に人の心ないんか!?」
「ふたなりなんて最高じゃないですかぁ。私、感動で前が見えません……」
「見えてるよな!? 見えてるから写真撮ってるんだよな!?」
「か、神崎くんどうしよう………………大きくなるの、と、とまらない」
「よし! よしよし! そうだな! 初めてだから戸惑うよな! そういうときは………………えーっと、そういうときは…………?」
どうすりゃよかったんだっけ? 俺は頭の中から解決策を模索する。そうかオナニーだ! 言える訳あるか!
「逆に興奮すればいい! 体を動かせ!」
「体を!? わかった!? どういう風に動けばいいの!?」
「なんでもいい! とにかく、そうだな、上下に動け!?」
「こう!?」
ヤバい! 何かいかがわしい動きになっちまった!?
「ほほう! いいですねぇ環奈さん! ぐへ、ぐへへ、もっと激しく!」
「こ、こうかな!?」
「ダメ! コンプライアンス的にアウト! ストップ! 見ちゃいけない奴!」
「わ、私、うまくできてるかなぁ……………………」
「心配するな! お前はよくやっている! ダメなのはおれの方だ! とにかく動くな!」
「あっ、けど! 治まってきたよ! すごーーーーい、これどういう原理だろ?」
「素直に感動するな!? お前の純真さが恨めしいよ俺は!?」
「あれ!? あれあれ!? また大きくなってきたよ! どうすればいいの神崎くん!」
「そうだな、もうあの方法しかないのだろうか………………」
「ダメですよ神崎くん! そんな! 大人の階段のぼろうとしないで下さい!」
「俺も男だから、ある意味セーフですよ!」
俺は冷静に考える。環奈の勃起が治まらなくなった。その改善策を考えねばならない。ケドなにも思いつかない。
「そうだ環奈! お前、女子を見て興奮するのか? それとも男子を見て興奮するのか?」
「じょ、女子………………! 夏美ちゃんすっごいそそる!」
発言が変態じみてきた。これは本格的に末期かも知れない。
「わ、私、夏美ちゃんに抱きつきたい!」
「ひぇっ! どうしちゃったん? マジで男になっちゃったの!?」
「性欲はどうやら女性に向けられるらしい。よし! なら環奈! 俺に抱きつけ! もっと激しく! 相手が男なら、きっと嫌悪感を抱いて治まるはずだ!」
「な。なるほどね! よーっし!」
「ちょっと待ったぁ!」
「ウワなんだよエリカ! 邪魔すんなよ!」
「それはそれでどうなんだ! 環奈は今、女性の姿をしてるだろう! そ、その……あれが生えてきたと言うだけで」
「そうだな」
「そうだな、じゃない! 仮にも環奈は、一応今は男になってるとは言え、も、元は女なんだぞ! それに抱きつくのが許されると思ってるのか!?」
「お前! アホか!? 今そんなことを気にしてる場合じゃねぇんだよ! 環奈の暴走したおちんちんを収めないと、話が進まないんだ!」
「おちっ……………………おちんちんが仮に治まったとしても、私の気は収まらないぞ!」
「知るかアホ! 環奈のおちんちんが優先だ!」
「何だそのハレンチな宣言は!? と、とにかくダメだ! おちん……………………ちんを収める方法は、べつの方向で考えて欲しい!」
と言われてもなぁ。その解決策がないから困っているのである。
って言うかもともと、俺はあんまり起つ方じゃない。おいそこ笑うなよ。だがなにもない時間に、起ったりはしないのだ。
くそ。誰か教えてくれ。震え上がるおちんちんの沈め方を――!
「わ、私………………一生このままなのかな!?」
「落ち着け! 一生そのままってことはない! 絶対ない! 俺が保証する。震え立つペニスは、いつかおさまるものだ」
「そんな!? 止まない雨はないみたいに言われても!? で、でもどうしよう……」
「そうだ環奈!? ち、ちなみに聞くが、パンツの方は大丈夫なのか!?」
「パンツの脇からはみ出てるよ!」
「お前らいいか! 絶対風起こすなよ! スカートめくれたら一大事だからな!」
「わ、私どうしたらいいの!?」
「おちんちんの沈め方! くそ! こうなったらグーグル検索だ! ちくしょう! なんかいかがわしいサイトしか出てこない!」
「やめて神崎くん! ますます硬くなるから! ひぇえええええっ、私のこれ、どうなってるの!?」
「くそ! こうなったらもう、神頼みだ! おちんちん静まれ! と大声で叫べ! 髪に向かって!」
「か、神さま! 私の大きくなった……………………あ、あれを………………しずめたま………………しずめたまえ!」
顔を真っ赤にして、ぷるぷる震えながら神に祈った環奈。
すると見る見るうちに、環奈の膨れ上がった部分が元に戻っていった。
「やっった! 神に祈りが届いたぞ!」
「よ、よかったぁああああああ! 私一時はどうなるかと思ったよ! 元に戻った!」
「よかったな環奈! これでいつもの環奈だ! 俺はいつもの環奈が戻らなかったらどうしちまうんだろうかと、心配で心配でしょうがなかったんだぞ!」
とにかく環奈が元に戻ってくれてよかった。
と、委員長が、首を捻ってこんなことをのたもうた。
「んー、薬の効果時間が切れてしまったみたいですねぇ」
なん………………だって?
「この薬、制限時間があるんですよ。で、その時間だけ性別が変わるって者だったんですけど、どうやら環奈さんには、あまり効き目がなかったみたいです。これはまだ発展段階の薬らしいので、今後に期待ですね」
「なん………………だって!? じゃあ今ので、あんまり効かなかったってことか!?」
おいおい。環奈のビッグペニスはなんだったというんだ。
「そうですね」
「そうですねって。………………マジか、薬あんま効かない状態で、あの大きさだったのか」
すると、ぽんと、肩に手を置かれた。委員長の小さな手が、俺の肩をぎゅっと握っている。反対の手で委員長はグーサインを作り、
「小さくても、使い方が大事なんですよ」
どうやら俺を慰めているらしい。そんな言葉で慰められる俺じゃない。慰められなんか………………しないからな!
「と、とにかく、環奈のちんちんが元に戻ってよかったです」
俺は一安心だ。
「ちなみに環奈、消失しただけじゃなくて、ちゃんと女に戻ったんだよな?」
「う、うん……………………、あとで確認してくる」
この発言が一番エロかったことは言うまでもない。
こんなくだらない話読んで下さりありがとうございます。