小説家になりたい
「私、小説家になりたいです!」
前に座る留年生、近藤おりひめという女子がそうのたまうと、俺の周りの席の連中までソワソワし始めた。
あー、今日も始まっちまうんですねこの時間が。俺の昼休みが今日もまた消えるハメになりそうだ。
「小説家って先輩、小説書いたことあるんですか?」
「ないけど才能だけはあります!」
「ダメな典型例! 書けそうで書けない奴が小説業界にはごまんといるんですよ!」
「私は違いますよぅ! 私は天才なんですよぅ!」
「そういう奴に限ってこの業界生き残らないから! 恥を知って下さい先輩恥を!」
「む! 神崎くんちょっと失礼ですね! 私だって努力すればできることはできるんです! 逆上がりとか!」
「小説を逆上がりと一緒にすんなよ! 世の中の作家全員に怒られるぞ!」
「そういう神崎くんは、夢とかあるんですか?」
「僕ですか? 可愛い嫁さんをもらうことです!」
「ぶぶぅ――――――――――――ッ! 神崎くんそれ面白いです! 何のギャグですか!?」
「ギャグじゃねーよ! 至って真剣だよ! ふざけんな! 俺今めちゃくちゃ真剣に言ったんだぞ!?」
「神崎くんむりだよそれ! 私、笑いすぎてお腹痛い………………」
「そこまで!? そこまで笑われます!?」
「委員長権限で言わせてもらうけどね! そんなのは夢物語だと思います! 諦めて下さい!」
「やだ! 諦めない!」
「強情ですね神崎くんは……。でも神崎くんだから仕方ないかもありませんね」
「だからなんで俺が嫁を持つことそんなに否定するんだよ……。あんたなんか俺に恨みでもあんのかよ……」
「恨みはありませんが、神崎くんに無謀な夢を持たせてしまうのは可哀相だなと思ったんです」
「可哀相なのはこっちだよ! 俺だって夢見ていいじゃないかよ……」
「だいたい高校時代にモテないのに、嫁さんなんかできるわけないじゃないですか」
「偏見! それめっちゃ偏見ですよ委員長!」
「そんなことないですよ。だいたい神崎くんの見た目で恋人とか………………うん、神崎くんって見た目だけは悪くないですよね。なんかはやり男子っぽいし」
「性格全否定!? 容姿褒められたってことはそういうことだよね!?」
「神崎くん、うるさいです」
「いきなり!? 俺がうるさいの!? あんただってうるさいよ!?」
「神崎くん、そこに座ってください」
「はい! って座ってるよ! 何なんだよさっきから!」
「神崎くんってバカですよね!」
「ひどい! シンプルにひどい! なに俺性格否定される回なの!? 心地よくないよ!」
「でも夢を持つことは自由ですよ!」
「そうだよね! ありがとう! ケド今の流れからだとあんま嬉しくないかな!」
「おまんじゅうたべたいです」
「知らねーよ! それに至っては本格的に知らねーわ!」
「神崎くんジュース買ってきてください」
「てめぇひとつ上だからって調子こいてんじゃねーぞ! 俺は雑用じゃねぇ!」
「神崎くんって夢じゃなくて、現実的な目標とかないんですか?」
「目標ですか……、そうですね、彼女を作ること、とかですか?」
「ぷぷっ――――――――ッ! 神崎くん人の話聞いてないですね! 私は『現実的な』って言ったんですよ!」
「現実的なプランで言ったんだよ! よーーーーーっしっ! あんた覚悟できてんだろうな!」
「なにがですか?」
「できてねーんだなこんちくしょう! なんか自分で言っといて申し訳なくなってきたわ!」
「ねぇねぇ神崎くん、人生ゲームって知ってますか?」
「唐突! あんたの話全部唐突なんだよ!」
「ねぇ早く教えてください! 人生ゲーム、知ってるんですか知らないんですか!? さぁどっちなんだい!?」
「知ってますよ! 知らない奴いんの!? いたら俺の元に連れてこい!」
「トランプしましょうか」
「あんた情緒不安定なの!? なんで急にトランプ!?」
「トランプやりたい気分になってきました、ほらババは上げます!」
「いらねーよ! ババもらっても嬉しくねーよ! ってかルール!? まず何やるのかだけ教えて!」
「ポーカー」
「ジョーカーくれてありがとう! もらっちゃっていいのね!」
「うん! 神崎くんには幸せになってもらいたいからね!」
「委員長……………………! あんたなんていい奴なんだ」
「神崎くんには他にいいことがなさそうだったから」
「ひどい! これもシンプルにひどい! たしかに、たしかに俺の人生今までなにもいいことがなかったけど!」
「神崎くんはトランプ歴どれくらいですか?」
「だいたいみんなと一緒くらいだよ!」
「そうなんですか! 私は二ヶ月ほどです」
「マジィ!? 委員長トランプ歴短すぎない!?」
「いやーそうなんですよ。私この前初体験だったんですよ……。へへ」
「言い方! 初体験という言い方! たしかにそれは喜ばしいことですけど、言い方!」
「神崎くんとは初めてじゃないんですよぅ。ごめんなさいね」
「そんな深刻に謝られても! べつにいらないですから! 委員長のトランプ初体験いらないですから!」
「カードの端がチクチクして血が出ました!」
「重傷! そんな初体験いやだ! どんなトランプだ! 問題になるわ!」
「トランプって奥が深いゲームですよね……」
「………………ん、まぁそうですね。セブンブリッジとか、七並べとか、色んなゲームがありますからね」
「そうそう。私はヒソカごっこして遊んでた!」
「使い方間違ってんだよ! ゲームやれよ! なんなんだよもう!」
「神崎くんはトランプの使い方を知っているというのですか?」
「ふつうはゲームのために使うんだよ! 誰だその初体験の相手!」
「先生ですよ!」
「何かいかがわしい! 先生なに教えたんだ!」
「手取り足取りやってもらいました」
「そうかよ! 委員長のトランプ初体験はそれはそれは楽しいできごとだったんでしょうね!」
「三日で飽きた」
「三日もやってたの!?」
「先生寝かせてくれなくて」
「そりゃ飽きるよ! 誰だって飽きるわ」
「先生すごいトランプの扱いうまいんですよ。こう、とりゃって」
「説明下手! あんた説明ものすごい下手ですね!」
「ふふふ。私は何時の日か、先生みたいなテクニシャンになって見せますよ」
「ならんでいい! トランプの使い方間違ってるから」
「む。先生の前脚捌きは日本一なんですからね!」
「前脚ィ――――――――ッ!? いや前脚って言った! 腕のこと前脚って言う人初めて会いましたよ!」
「トランプの達人も、将来の夢に加えていいかもしれませんね」
「トランプの達人って絶対儲からない! いやマジシャンとかならわかるけど、トランプの達人って!」
「私はトランプ界の頂点を目指します」
「目指さなくていいから! 委員長まともな夢を持って――!」
俺たちの会話が面白かったのか、左隣に座っていた小田切夏美も話に参加してきた。
「でも、トランプの達人ってなんか面白そうじゃない?」
「そうですかね! やっぱトランプ界の頂点、目指したいですよね……」
「それな! 私も生まれ変わったら、トランプ界の頂点目指したいかな」
「今は目指したくないってことね……」
「そうそう。何か追いかけたくない夢ナンバーワンって言うか。他の人が見る分にはいいけど、私は見たくないかな、その夢」
「ひどいです! 夏美さんそんなこと言うんですか!」
委員長が泣きそうな顔をする。あーよしよし。俺は頭を撫でてやる。心なしか気持ちよさそうな表情を浮かべる委員長。
俺は夏美の方を見た。夏美はギャルで、身長が高い。
「お前にはなんか夢とかないのか?」
「あ、あたし? うーん、特にないかな。強いて言うなら、調理の達人!」
「料理人と言え! 調理の達人って何だよ! 料理人と言え!」
「私は決められた料理しか作らないのだよ、神崎くん!」
「主婦! それ主婦だな! わかった、お前の夢はお嫁さんだな!」
「はっ! 神崎くんめっちゃ天才! やばっ! 脳汁ぶっしゃーってなるレベル!」
「意味わからん! 何だ脳汁って! でもそうか……お前は主婦になりたかったんだな」
「へへっ、料理は任せときな」
「ちなみに料理は得意なのか?」
「もうバカだね神崎くん。べつに黒焦げ料理とか、作ったりしないかんね!」
「作るんじゃねぇか! お前料理へたなんだな! 諦めろ!」
「やだよ神崎くん! 夢は語るものであって、叶えるものではないよ!」
「叶えてくれ! いや多少なりとも改善はしてくれ!」
「む、神崎くんって意外とSだよね。えっち……」
「なんで!? 俺女子から初めてエッチとか言われたんだけど! やべぇ! めっちゃ興奮する…………」
「へぇーーーー、神崎くんはこういうのがいいんだぁ。ほらほら」
「うおっ! うおおおおおっ! お前! 気づかなかったけどめっちゃ胸でけーな!」
「もう神崎くんっ! 欲望に忠実すぎ!」
「やべー、興奮しすぎて鳥肌立ってきた! マジ人生って最高じゃね!」
「神崎くんの目が据わってきてる……! や、やば……。アタシやり過ぎたかも……」
「俺もう今日死んでもいいかもしれない!」
「待って! 死なないで神崎くん! 死ぬにはまだ早いよ!」
「俺幸せだなぁ! お花畑が見える!」
「神崎くんうぶなのはわかった! ごめん! ごめんね! これで鼻血拭いて! もう床中が真っ赤っかだよ! 大惨事だよ!」
「俺は今から天国に行きます!」
「行かないで! お願いだから行かないで! 戻ってきて神崎くん!」
「やだ! 離して! 僕は天国に行くのです! バブ!」
「神崎くん!? ヤバい!? もうこれ完全に逝っちゃってるよね!?」
「ばぶばぶ」
「終わってるよ!? 神崎くん人として終わってるよ!? そこまで言っちゃダメだよ神崎くん! 欲望に忠実なのはわかるけど、戻ってきて!」
俺はこの日、天国に召された。
幸せだなぁ。
「ところで夏美、天国というものは存在すると思うか?」
「うわなにその質問! 宗教の話!? うーん、アタシにはわかんないや。地獄ならあると思うけどね!」
「お前は地獄を見たことがあるのか?」
「ど、どうしたの本当に……。アタシは天国も地獄も見たことはないかな!」
「だろう。ないものをどうしてあると言えるんだ」
「だ、だからなんでそんなマジな表情なん? ちょっとウケる……」
「ウケねーよ! 俺はいたって真面目に質問している!」
「そ、そうなんだ……。ある意味ドン引きだけど、うーん、信じてる人にはあるんじゃないかな!」
「そうか、ありがとう! この世の謎がひとつ解けた気分だ! さすがは夏美だな!」
「うわめっちゃ褒められた! マジで嬉しい! アタシって天才?」
「アァ天才だ! お前は宇宙一の天才だ!」
「やった! アタシって天才なんだね! これ以上ない喜び!」
「天才は天才でも、点の災害の方の天災かもしれんがな!」
「いいって! そういう補足いらんから! も、もしかしてあたしの身長が高いからそういうこと言ってる?」
「違う!」
俺は全力で否定した。夏美の身長はたしかに高い。身長百七十は超えている。そしてそのことを夏美が気にしていることも知っている。
だがそれとこれとは無関係だ!
「まったく関係ない!」
「や、やっぱそうなんだぁ……。アタシがデカいから、みんなに迷惑掛けるんだ……」
「違う! お前の身長は関係ない」
「うぅ…………………………死のう」
「待て死ぬな! 結論が太宰なんだよ! 落ち着け! お前はまだ死ぬべきじゃない!」
「そうだよね……。アタシ街歩いてて言われるもん。『あのお姉ちゃんデカい! 怪物みたい』って……」
「どこだ! どこにいる! 俺が今からそいつらぶん殴ってきてやる!」
「アタシの存在価値っていったい……」
「もう一回言う! お前の身長は関係ない!」
「ほ、ほんとに……。本当にあたしの身長関係ない?」
「アァ関係ない」
「そっか……よかったぁ」
夏美が一安心してくれてよかった。おれはひとまず安堵のため息をつく。
すると、ちょいちょい、とうしろから背中をシャープペンでつつかれた。
後ろの席には北山エリカという人物が座っている。
その風貌はかなり特殊だ。金髪碧眼。そう彼女はアメリカとのハーフなのである。
「めっちゃ面白い話してんじゃねぇか! 私も混ぜてくれよ!」
「うんいいよ! エリカはさ、将来の夢とかないん?」
「私はそうだな、少年漫画の主人公かな!」
「なれねーよ! 絶対なれねーよ! 二次元! 文字通り次元が違うから!」
「あっいーね! エリカならなれると思う! めっちゃ応援する~~~!」
「すんな! ちょっと待て! お前その夢はいくら何でも叶わない! 文字通り現実的ではない」
「いいじゃねぇか! ロマンがあって! 仲間達と一緒に敵を倒す快感は、素晴らしいものがあると思うぜ!」
「あるけど! だから次元が違うの!」
「そうかそうか。伊織は私が次元の違う女って言いたいわけだな。うん、わかってんじゃねぇか!」
「わかってねぇのはお前だよ! マジ!? 通じてないの!?」
「いーなー。アタシも仲間に入れて欲しい!」
「私も仲間になりたいですっ! エリカさんのパーティに入って、勇者がかつて辿った足取りを同じように辿ってみたいです!」
このクラスには厨二病しかいないんだろうか。いや、俺の周りがおかしいだけだな。
「だろう! 私は僧侶だな」エリカが言った。
「一番似合わねぇ! お前が一番あわない職業! どう考えても武闘家だろ!」
「なっ、伊織! お前なんてことを言うんだ! 私が向いてるのはどう考えても僧侶だ! それか魔法使いだな!」
「おかしい! お前空手四段だろうが!」
「う、うるさいぞ伊織。私が僧侶になりたいって言ってるんだから、いいじゃないか」
「よくない! お前は武闘家! どうか武闘家であって下さい!」
「~~~~~~~~~っ、伊織のバカッ! 女心がわかってない! 女の子はみんな僧侶か魔法使いになりたいんだぞ!」
「そうなの!? 初めて聞いた!? …………け、けどたしかに、それらの職業って女性が多い気がする」
「だろう! だから私は僧侶になりたい。そして時たま近接戦闘に参加する……! 拳で!」
「武闘派じゃねぇか! たしかにそういう設定あるけども! なぜか強いスキル持ってたりするゲームあるけど!」
「私にはこの拳ひとつあれば充分だな!」
「やっぱ僧侶設定どこ行った!? お前僧侶やる気ある!?」
「あるぞ! ふふん、聞いて驚くなよ! 私は伊織の癒やし枠だ!」
「癒やされねぇよ! 申し訳ねぇけど癒やされねぇよ!」
このハーフな女の子は、日本にやってくるための勉強で、少年漫画を読みすぎてしまったらしい。
いやまぁ、面白いからいいんだけどな?
「ついでに私は、世界を救ってみたいぞ!」
「えらく大きく出たな……。ケド世界を救うのは政治家であって、俺たちじゃないんだぞ」
「そのマジレスやめろ! 私だって夢見たっていいじゃないか!」
「いいや、現実的な話をするとだな。世界には核兵器ってものがあって……」
「やめろやめろ! 私は僧侶なんだ! きれいなものだけを見て生きていたいんだよ!」
「ちなみに俺がもしアールピージーのキャラクターだったら、何だと思う?」
「スライムだろ」
「バカにしてんのかてめぇ――!」
「ま、待て伊織! 私は真面目に言っている! スライムって変幻自在だろ! そういうところが、優柔不断なお前にそっくりだと――」
「やっぱバカにしてんじゃねぇか――! 優柔不断なところがスライムっぽいだと! てめぇこんにゃろう! オモテ出ろこの野郎!」
「あ? 伊織、本当にいいんだな?」
「やっぱよくはない! 申し訳ございませんでした! 俺はとんでもない人物にケンカを売ってしまっている。この僧侶こえーよ!」
「い、伊織………………! そんなに怖がらないでくれ! わ、私だって初めてなんだぞ!」
「知るか!? とにかく俺はスライムじゃない。どちらかというと、そうだな、勇者だな!」
「神崎くんそれはないと思いますっ!」「だよね、ない」「伊織……冗談は顔だけにしてくれ!」
「ふざけてんのかてめーら! 俺はいたって真剣に勇者になりたいんだよ!」
「伊織が勇者だったら、世界終わる……………………!」
「笑いすぎだ! どんだけ笑えば気が済むんだよ!」
「ところで伊織は、一日どれくらいゲームをするんだ?」
「俺か? まぁ二時間くらいじゃねーの?」
「はん! まだまだだな! 私なんか二十七時間はやるぞ!」
「どうやって! お前はどの次元に住んでんの!? ここ地球! 一日は二十四時間!」
「はっ! 私としたことが。一日の三分の一しかゲームしてないなんて!」
「お前の一日何時間あんの!? お前だけべつの惑星住んでるよな!? どこだ!? 土星か!?」
「む、伊織、お前はバカだなぁ。土星に人は住めないんだぞ」
「知ってる! 知ってるけどなんかむかつくその言い方!」
「伊織は勉強がなってないな!」
「落ち着いて神崎くん! 腹立つのはわかるけど、ここ教室だから――――――! その拳を下ろしてください!」
あぶないあぶない。危うく取り乱すところだった。
俺は最後に、さっきから話に全然参加できていない右隣の女の子へ話を振った。
「お前の夢は何なんだ?」
伊藤環奈。黒髪ロングの女の子だ。
「へっ!? 私!? 私なんかに聞いちゃっていいの!?」
「いやまぁ、話の流れ的にはそうなるだろう。しかもお前、聞かれたそうにソワソワしてたじゃねぇか」
「しししししてないよ! 多分」
多分なのかよ。
「私の夢かぁ。歯医者さんかな」
「現実的! すごい現実的! 俺感動した!」
「歯医者さんになって、色んな人を救いたい」
「感動だよ! 今までの人たち何だったの!?」
「む、神崎くんそういう言い方はないんじゃないかな」
「そ、そうだぞ伊織。私たちだってまともな夢だと思うぞ」
「黙れ! エリカに至っては特に黙れ! お前僧侶になりたいとかほざきやがっただろ!」
「勇者になりたいとか抜かしてたのはどこのどいつだよ!」
「くっ! たしかに! 返す言葉もない!」
俺はたしかに勇者になりたいとほざいた。だって勇者になりたかったからな!
「わ、私なんかの夢を聞いてくれてありがとう……。私涙で前が見えない……」
大げさ! 大げさすぎる!
「私、コミュニケーションがすごい苦手で……だけど神崎くんとならふつうにお喋りできる。男性恐怖症の私でもしゃべれるよ!」
「よかったじゃないですかぁ。特別扱いされてますよ神崎くん!」
「違う! 俺男性としてみられてないって意味! おりひめ委員長勘違いしないで! 勘違いしないでよね! ここ喜ぶところじゃないから!」
「神崎くんにもついに春が来たんですねぇ……」
「来てないから! 落ち着いて委員長! って言うか話逸らさないで!」
「そっかそっか。神崎くんは勇者さんになりたいんだね! うん! すごいいい夢だと思うよ!」
「なにこの子! めっちゃいい子! 好きになりそう!」
「ふぇぇつ ! そそそんな! わ、私なんか好きになってもらっていいのかな……。わ、私なんかが……」
「自己肯定感! この子大丈夫! 現代人っぽい闇抱えちゃってるけど!」
「さ、早速SNSにアップしなくちゃ!」
「ほら見ろ! 現代人! 闇! 闇抱えてるよこの子!」
「わぁ、いいねがついた! もっとやろ!」
「沼! べつに文句は言うつもりはないけど、沼にハマらないように気を付けてね!」
「ば、ばずった! 五千いいねついたよ!」
「SNS内ではめっちゃ人気……! すごい! 素直に尊敬に値するレベル!」
「こ、これも神崎くんのおかげだね……!」
「俺のおかげ……なのか? よくわからん!」
「うん、神崎くんのおかげだよ! 神崎くんすごい! 素晴らしいよ神崎くん!」
「え! えへへ! そうかなぁ! 俺ってすごいかな!」
「む! 伊織がめちゃくちゃ気持ち悪い顔をしているぞ!」
「か、神崎くんその顔面白いよ……! 写真に撮ってあげちゃおっか!」
「ストップ! 俺の顔を上げるのはやめてくれ! プライバシーの侵害!」
俺がハァとため息をつくと、環奈は俺の顔をまじまじと見つめて、
「神崎くんは写真撮られるのが嫌いなんだね」
「いや……まぁそういうわけじゃないが、得意ではないな」
「神崎くん神崎くん」
「ん、なんだ?」
「お腹空いた!」
「知らねーよ! どうした急に! お前情緒どうなっとるん!」
「神崎く~~~~~ん、お腹空いた!」
「だから飯食えよ! 昼休み! って言うか俺もお腹減った!」
「へへ、神崎くん食べちゃうぞーーー!」
「どうしたの!? お腹空くと性格変わるタイプの女子なの!? 初めて知った! そうなんだね! お前はそういうタイプの女子なんだね!」
「私はね、キノコが食べたい!」
「なんとも言えないチョイス! いやキノコわかるけど! ピンポイント過ぎる! 微妙! 微妙なライン!」
「神崎くんキノコ買ってこいや」
「お前やっぱお腹空くと性格変わるな! さっきまでのコミュ障っぷりどこ行った!?」
「ひ、ひど………………! 神崎くんが私のことコミュ障って言った!」
「悪い! 言い方が悪かった! 謝る! この通りだ!」
「ゆ、許さないんだからね!」
「ツンデレ! けどごめん! 悪かった! 俺が悪かった!」
「しゃあないな。じゃあ許してあげよっかな!」
「優しいな! お前ってすごい優しい!」
「え!? 神崎くんが私のこと優しいって言ってくれた! わーい! 私って優しいんだぁ!」
「喜ぶポイントそこなの!?」
俺には伊藤環奈という女の子の扱い方がよくわからない。
いやもしかしたら、わかる人間などこの世に一人たりともいないのかも知れないが。
「ところで神崎くん!」
「どうした?」
「キノコまだ?」
「まだ!? まだ欲しがってたの!? キノコ!? 俺のキノコ!」
「神崎くん、それってどういう意味……? 私よくわかんない!」
「すまなかった! 下ネタはお前には通用しないってことがよくわかった!」
「それより神崎くん、キノコ出せや」
「キャラ! おしとやかキャラ! お前かなぐり捨てちゃってるよ! 大事なものかなぐり捨てちゃってるよ!」
「私は私なりの生き方をしてるんだぜ!」
「だぜ!? だぜってお前! 大丈夫か! お腹空き過ぎちゃってどうにかなっちゃったのかよ!」
「まぁ神崎くん、私も思春期だし、そういうことがあるんだぜ!」
「まただぜ! だぜがまた出ちゃったんだぜ! いや思春期関係ない! お前の特性!」
「私はマツタケが好きなんだぜ!」
「贅沢! お前意外と贅沢!」
「エノキタケも大好物なんだぜ! 凍らせてかき氷にするぜ!」
「独特な食べ方! お前んちだけだよそれ! エノキタケのかき氷初めて聞いた!」
「私はエノキタケさえあれば生きていけると思う!」
「すげーな! 炭水化物なしで! 栄養価偏るよ!?」
「私はエノキタケ星から来た、エノキタケ星人なんだぜ!」
「まただぜ! これ何回目!?」
「まぁとにかく、神崎くんにはキノコを頼もうかな」
「戻った! 『だぜ』脱出した!」
「エノキタケがなかったら、マツタケでもいいよ」
「だからねーよ! 購買に売ってない物! 絶対売ってない! 素材! 材料! 購買では既製品しか売らないの!」
「そ、そんな………………、神崎くん見てもないのにそんなこと言っちゃ、めっ、なんだぞ」
「め、なの!? そうなの!? お前お腹空くとやっぱりコミュニケーション能力改善されるだろ!」
「わ、私はただ素で喋ってるだけだよ! お腹空いてるとか、関係な…………ちょっとはあるかもね」
「だよな! お前今日からそれでいけ! クラスにトモダチできるぞ!」
「ほ、ほんとに!? 私でもトモダチできるかな!? こ、このような私でも……!?」
「できる! お前のキャラクターならなんとでもなる! 友達の質の保証はできないけどな!」
ぜぇ。ぜぇ。俺は叫びすぎてものすごく疲れた。
すると、タイミングよくチャイムが鳴った。
予鈴である。
「準備しなくちゃな」
「そうですねぇ」「そだね」「そうだな」「うん、そうだよね」
とみな一様に立ち上がる。
いつも通りの昼休みがこうして終わるのだった。