表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MEMORY  作者: KAIN
4/4

・第四話

「お 追いついたわよ、この……」

 声が、響く。

 少女はその声に、はっ、と息を呑んだ。慌てて顔をそちらの方に向ける、OL風の、二十代半ば、という女性が、荒い息を付きながら立っていた。

 そこでやっと、少女はこの男が何をしたのか、という事を思い出した。

 少女はそのまま、男の身体をとん、と前に軽く押す、それだけで、男の身体はその場にどう、と俯せに倒れた。そのまま少女は、男が履いていたスニーカーの靴紐をするり、とほどいて、男の手首を後ろ手に縛りあげた。

 そのまま、自分がこの男を捕らえた拍子に落ちてしまったらしい、目の前の女性の物と思しきバッグを拾い上げると、ゆっくりと彼女に差し出す。

「あ ありがとうございます」

 女性は、まだ荒い息を付きながらもバッグを受け取り、ゆっくりとファスナーを開けて中身を確認した。

 どうやら、中身にも問題は無かったらしい。

 そして。

 女性は、そこでようやく顔を上げて、少女をはっきりと見る。

「……貴方、大丈夫だったの?」

 女性が問いかける。確かに、自分の様な、明らかに十代と思われる少女が、こんなひったくり犯相手に立ち回りを演じれば、誰もがそう思うだろう。

「大丈夫、ですよ」

 少女は言う。

 そうだ。

 大丈夫だ。

 何の問題も無い。

 自分は……

 自分は、今し方、あのひったくり犯と対峙した時にさえも。

 ちっとも、『恐い』とは感じなかった。

 むしろ……

 むしろ……

「……っ」

 そこまで考えて、少女は一瞬息を呑む。

 そうだ。

 どうして……

 どうして、自分は……

 この男を……

 簡単に……

 簡単に、殺そうだなんて……

 解らない。

 だけど。

 自分は……

 自分は……

 少女は、目を閉じる。


「あの……」

 声がする。

 目の前の女性だ。

 少女はゆっくりと目を開ける。彼女はじっと……

 じっと、少女の顔を見ていた、自分を心配してくれているのだろう、ありがたい事だが、今は……

 今は、必要以上に他人と関わらない方が良い。警察は……

 少女は、もう一度。

 もう一度、ぼんやりと頭の中で、さっき考えた事を思い出す。

 警察はダメだ。

 絶対に、ダメだ。

 それに……

 自分は、必要以上に他人と関わってはいけない。

 今は……

 今は、早くここを離れるべきだろう。

「……大丈夫です」

 少女は女性に、にっこりと笑いかける。何だか前にも、こんな風に誰かに笑いかけた事がある、そんな気がする。

「それじゃあ、私はちょっと急ぐので」

 そのまま少女は、女性の返事も待たずにくるり、と彼女に背を向けて歩き出した。


 少し歩いて、ようやく背後の喧噪が遠ざかって来た頃、少女はたっ、とアスファルトを蹴って走り出す。

 記憶が無い。

 自分が誰なのか、解らない。

 だが。

 それでも、あの場に留まって、警察などに見つかるのは危険だ。

 きっと……

 きっとそうなれば。

 自分は……

 自分はその時……

 自分の顔を見たり、自分と口を聞いたり、自分と関わった全ての人間を……

「……殺して、しまう」

 少女は、呟く。

 それが……

 それが恐ろしくて……

 少女は、ひたすらに……

 ただ、ひたすらに……

 逃げる様に……

 走った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ