第三話
とにかく。
とにかく、いつまでもここにこうして立っている訳にはいかない。
ブティックの中からは、若い女性店員の、明らかに不審げな眼差しが向けられているし、何故か……
何故か、自分には……
自分には、あまり良くないことが迫っている。
そんな気が、した。
少女はそのままブティックのショーウインドウから顔を逸らして、ゆっくりとした足取りで歩き出した。
だけど。
それから少しも進まないうちに……
「誰かぁっ!!」
声が、響いた。
少女のものでは無い、甲高い女性の、必死な叫び声だった。
「その男ー!! あたしのバッグを!!」
声がする。
その声に、少女は後ろを振り返る。
一人のガタイの良い若い男が、小さい、紐の付いた女性用のバッグを片手に持ち、こちらに向かって走って来ていた。
その男の姿を見た瞬間。
少女は、すぐに動き出していた。
否。
それはまるで……
まるで、勝手に身体の方が反応した、という方が正しいのかも知れない。
ばっ、と、男の正面に向き直る。
男が、じっと……
じっと、少女を見ていた。昼間昼中に、こんな人通りの多い場所でひったくりなどをしようと考える人間だ、その顔はマスクにサングラスで覆われていた。
「退けガキっ!!」
男が叫びながら、太い腕をぶんっ、と振り上げて、こちらに振り下ろして来る。
それを見ながら……
少女は……
少女は……
思わず、目を見開いていた。
男の拳は……
まるで……
まるで……
スローモーションの様に、少女には見えた。
力一杯握りしめた拳。
全力で振り下ろしているのであろう拳の一撃。
だけど。
少女には……
少女には、まるで……
まるで、ゆっくりとした映像だ。
少女は無言のままで、繰り出される拳を……
拳を……
右手だけで、軽く受け止めた。
そのまま男の後ろに回り込んで、腕をねじり上げる。
「がっ!?」
男が呻く。だが少女は無視し、さらに強く男の腕をねじり上げた、それほど力を込めているつもりは無いが、何故かそれだけで……
それだけで、男は苦痛に呻いた。
そして。
男の呻き声を聞きながら。
少女は……
少女は……
にやり、と。
笑っていた。
男が呻き、苦しむ姿が……
少女には……
少女には、愉しくて仕方が無かった。
このまま腕をへし折ろうか? そのまま地面に引きずり倒して、今度は両脚もへし折ろう、もちろんその間、こいつには意識を保っていて貰おう、気絶しかけるたびに殴るか、それとも水でもかければ良いだろう、出来る事ならば、こんな人通りの覆い場所では無い、専用の拷問器具がある場所で、じっくりと痛めつけて苦しめてやろう、そして……
そして……
「っ!!」
そこまで考えて、少女ははっ、と息を呑んでいた、一体……
一体、自分は今……
今、何を考えていたのだ?
人を……
人を、傷つけて……
殺す方法なんか……
どうして……?