第一話
皆さんこんにちは。
カインです。
この作品は、過去に「電撃大賞」に送った作品です、結果は、まあお察し下さい、という事で。
このまま埋もれてしまうのも悔しいので、今回なろうに再構築してアップ、という形にさせて頂きました。
どうぞよろしくお願いします。
沢山の人が……目の前を行きすぎていく。
若い男がいる。
若い女がいる。
中年がいる。
老人がいる。
サラリーマンやOL、派手な格好をしている男性や女性、地味な格好の者もいる、奇抜な格好の人間もいた。
とにかく沢山の人達が、目の前を歩き去って行く。
それらの人の流れを……
少女は、無言で見ていた。
沢山の人。
足下に伸びるのは、アスファルトで舗装された道路。
右側には、何軒もの店が建ち並んでいる、左側にはガードレールに仕切られた二車線の道路、その道路の向こうにはまた歩道があって、そちらにも沢山の店が建ち並んでいる。
ここは……
何処だろう?
少女は、胸の中で呟く。
ぶろろろろ……!! と、大きな走行音と共に、一台の大きなトラックが車道を通り過ぎた。
少女は無言で、その車のナンバープレートを見た、そこに書かれているのは日本語。
書かれていたのは、都内の地区だ。
その後ろに続いて走り去る車にも、同じ地名が書かれている、つまりここは、都内、という事になる、そこにあるとある街のメインストリート、というところだろうか。
だが……
何故自分は、ここにいるのだろう?
解らない。
何か……
何か、奇妙な違和感がある。
この違和感は、一体……
一体、何なのだろう?
解らない。
少女は……それでも黙って歩き出した。とにかく、歩かないと……
何処か……
自分には何処か……
行かねばならない場所がある。
そんな気がする。
だが……
何なのだろう?
違和感が消えない。
何か……
何なのか解らないけれど、どうにもずっと……
ずっと、何かが自分の中からすっぽりと抜け落ちている感覚。
それは……
それは一体……
解らない。
少女には、解らない。
通りを、少しだけ進む。
見覚えが全く無い街並みが、ずっと続いている。
そう。
これが最初の違和感だった、ここは何処かの街、もっと言えばここは……
少女は顔を上げる。近くにある道路標識を見る、『止まれ』という文字が書かれている、日本語だ、さっきも見た車のナンバープレートに書かれていた地名からして、ここは紛れも無く日本の、都内の街である、という事は間違い無い。
だが。
ここにいる理由も。
何処に行けば良いのかも。
そもそも……
自分が何故、ここにいるのかも。
少女には解らない。
さらに道を進む。
高級そうなブティックが、すぐ横にあった、店の前にはやはり高価な物だと思われる服を着、アクセサリーを身につけたマネキン人形が立っているショーウィンドウがあった、少女はその前で立ち止まって、マネキンの着ている服を見る。
「綺麗ね」
マネキンが着ている服を見て、ぼそりと口から出たのは、そんなありふれた感想。
だけど……
そこで少女は、気が付いた。
今のは……
今の声は……?
誰の声だ?
否。
解っている、少女自身が、自分の意志で紡ぎ出した言葉だ。だから当然、少女自身の声なのだろう、それは解る。
だけど……
少女にはその声は、まるで……
まるで、今初めて聞く他人の声の様に、覚えが無い。
そう。
ようやく、ずっと感じていた違和感の正体に気づいた。
自分の中から、すっぽりと抜け落ちている『何か』の正体。
それは……
それは……
「……記憶」
少女は、もう一度言う。とにかく自分の声を、もう一度はっきりと聞いて見たかったからだ。
そして。
口に出せば、もうそれは……
それは、違和感でも何でも無い『事実』として、少女の中にすっぽりと収まった。
「私は……」
少女は呟く。
「誰?」