猫の森のお姫様、サラダガールになる
いただたイラストから思い付きました。
雨の季節が過ぎると青い空に入道雲がむくむくと湧き起こり、夏の足音に耳がピン!とする。
さあ!今のうちだ!!
僕達は広場へ向かって駆け出す。
広場の片隅に梅雨の間に蒔いておいたライ麦がちょうどいい感じの背の高さだ。
雨に洗われてシャキシャキの所をムシャムシャ
噛むたびに鼻を通る若葉の薫りがたまらない。
「ん、にゃあ~!!」「にゅあおう!!」
あちこちから蛙の合唱の様に感嘆の声が上がり、僕はそんな仲間たちの声に目を細める。
ああ!!ここはなんて幸せな場所なんだろう!!
耳を打つのは雨のメロディ、風のささやき、小川のせせらぎ、たまに雷の怒号は聞こえるけれど、耳をつんざくような怖い車のクラクションは聞こえない。
そして……
「こんにちは、暑くないですか?」
この天使の様な声!!
僕とは真逆の真っ白い毛並みのお姫様だ!!
「そうですね。黒はこの陽射しをたっぷり吸収しますから」
「それは大変ですね」とお姫様。
「ええ、でも街でノラ稼業をやっていた時には身を隠すのに好都合でしたから、僕は自分のこの毛並みを嫌いではありません」
「それは良かったわ。私はあなたの艶やかに光る毛並みがとても好きだから」
素敵な……そして大好きなお姫様からこのように言われて、僕は心の中でドギマギした。人間の男の子ならきっと真っ赤っ赤になっている事だろう。
でも僕は色が出ないから、すまして姫様に申し上げた。
「姫様! こちらのライ麦を召し上がりませんか? とても良い香りがいたしますよ」
「ありがとう。でも今日は折り入ってあなたにお願いがあって参りました。あなたしかできない事!」
「僕にできる事でしたら何なりとお申し付けください。」
「ありがとう! あなたは猫の森のしきたりはご存知ですか?」
「僕は街からの流れ者で、まだまだ不勉強なので、そのしきたりについて教えていただけますか?」
「いえ、そんな難しい事ではないのです。姫として選ばれた者は街へ出て人間の世界について学んで来ないといけないのです。その案内をあなたにお願いしたいのです」
「う~ん!!」
僕は首を傾げてしまった。
女神の様な姫様……その姫様に泥シミさえ付けたくは無いのに!!
いったいどうやってお守りすればよいのか??
そんな僕に姫様は涼やかに微笑んだ。
「ご心配には及びません。猫の森には魔法の帽子がございますの」
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その魔法の帽子は大きなクスノキの中にできた洞の中に収められていた。
姫様が帽子の下に潜るとキラキラと木漏れ日が差し込んで来て、スクッ!と女神様が立ち上がった!!
この帽子を被った女神様は青いワンピースに金色に輝く髪。透けるような白い肌に姫様と同じ美しい碧眼だった。
僕は女神様に両手を差し伸べられて、そのふんわりした胸にそっと抱かれた。
「案内、頼みますね」
やっぱりこの女神様は姫様だったんだ!!
「どこへ案内いたしましょうか?」
「実はね、私が一番最初に行ってみたいのは、いつかあなたが話して下さった“ファミレス”!! ライ麦ももちろん素敵なのだけど、サラダバーとソフトクリームを食べてみたいの!」
そう言って姫様は、透けるような“人肌”をほんのり赤く染めた。