昼過ぎ探偵
ここら辺は適当に書いたんでまあ気にせず読んでください
「お茶、淹れますね」
若い、女の声。
「ああ・・・・どうぞお構いなく・・・。すぐに帰りますから」
こちらは男の声。三十代お疲れ気味ってところだろうか。
「そんな遠慮なさらないで下さい。久々のお客さんなんですから」
「しかし・・・・・。突然お邪魔してご迷惑でしょう・・・。いくら今日があいつの・・・」
「いいんですよ。・・・・毎年、この日に来てくれるの、宮部さんだけですから・・・・」
「えっ・・・・そう・・・・・なんですか・・・?」
「ええ・・・・」
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「ね?これ浮気ですよね?」
向かいのソファに座っている、一見生真面目そうなサラリーマン風の男が同意を求めてくる。
「俺がいない間に知らない男が尋ねてくるんですよ・・・・・・・・・・・。これもきっと盗聴器に気づいてたから当たり障りの無いような会話しかしてないに決まってます」
男は少々いらいらしているようだ。
「ほうほう・・・・。なるほどね・・・・。んまあ、とりあえず言えることは・・・盗聴はいけませんねぇ・・・・・・」
そう言って大あくびをする失礼な男。この男こそ探偵を生業としているさえない三十代、岩沢信弘である。
「ちょっと!真剣に聞いてくださいよ!」
岩沢のあくびが気に食わなかったのか、男は余計カッカしている。
「まあまあ堺さん・・・・でしたっけ?落ち着いてくださいよ」
「碓井です!」
「ああそうでしたか。碓井さん、あなた、奥さんに・・・」
「彼女とはまだ結婚していません」
「ああそうですか・・・・彼女さんに、この男性の事、何か聞いてみたりしました?」
すると碓井という男は呆れたような顔をすると背もたれに寄りかかった。
「聞きませんよ。そんなの。聞いたところで本当のことを話すはずもないし、疑ってるんじゃないかと警戒されるだけですよ・・・」
「彼女さんって、兄弟とかいらっしゃったんですか?」
「・・・・ええ、お兄さんがいたらしいです。十年前に亡くなったらしいですけれど」
すると岩沢は納得したような顔で
「そうですか。それならもうこの件は大丈夫です。彼女さんには今までどおり普通に接してあげてください。彼女さん、浮気なんてしてませんよ」
「・・・・なんでそう言い切れるんですか?」
碓井は怪訝そうな顔をする。
「あ、失礼しました。正確には『彼女さんはこの男性との浮気はしていない』ですね」
岩沢はそう言ってニッコリと笑った。
「ふう。やっと帰ったか」
一息ついて、目の前のテーブルにあるお茶を一気に飲み干す。
「いいんですか?お客さん帰らせちゃって・・・・。今頃ネットで叩かれまくってますよ?」
資料の整理をしながらそう言う女は吉田美和子。大学生で、岩沢のところでアルバイトをしている。
「べ~つにいいんだよ。彼女の家に盗聴器仕掛けるようなヤツなんか相手にしたくない」
岩沢は空になった湯飲みをテーブルに戻した。
「それに、あんな会話のどこが浮気なんだよって。兄の命日に偲びにくるただの客じゃないか」
「・・・・まあ、あの会話を聞く限りはそうでしたけど・・・・」
「あの堺とかいう男、あいつは」
「碓井さんですよ」
「・・・・どっちでもいいよ。とにかく、俺が彼女だったらあんなに思い込みの激しい男とは付き合わない・・・・・・・・・・って、そもそも本当にあの二人付き合ってたのかな?」
岩沢はあごに手をやり、足を組んだ。いかにも考えてます、という姿勢だ。
「・・・・そう言われてみればそうですね。確かに、あの碓井さんが『思い込みの激しい男』だと仮定するならば、さっきの話変ですね」
吉田も作業の手を止める。
「あんなただの会話を浮気相手との会話だと思い込むなんておかしい。そうとう彼女に思い入れてるとしか思えないなぁ・・・。やっぱりアレじゃないか?ストーカー。で、付き合ってるってのも全部妄想だとか」
「う~ん・・・それもアリですねぇ~・・・」
吉田がうなづく。
「・・・気になりますか?碓井さんの今後の行動とか」
「いいや、全然。誰が死のうが誰が人を殺そうが、俺に関係なければどうでもいいさ」
そう言うと岩沢はソファに仰向けに寝始めた。
「もう・・・・岩沢さんはかなり冷たい人ですね。ドラマとかだったら『こうしちゃいられない!』とか言ってコートつかんで事務所飛び出すんですけどね」
「生憎、ドラマは見ないモンでね。じゃあ聞くけど、吉田はあの男を止めたいのか?」
ソファに寝たまま岩沢がそう言う。
「いや・・・・厄介ごとに巻き込まれるのは嫌ですし・・・」
「ね。現代に生きる人なんて、だいたいそんなもんさ」
岩沢は一つ、大きくため息をついた。
それから三日後の夜。
『本日午後五時ごろ、○×県□市にある住宅街で、男が通行人の女性を刃物で切りつけ、全治二ヶ月の大怪我を負わせました。男はその場で他の通行人に取り押さえられ・・・・・』
「ほら、やっぱりね」
岩沢はテレビを見ながらそうつぶやくと、煙草に火を点けた。
一服していると、事務所のテーブルに置いてあった携帯電話が鳴った。相手は大体分かっている。岩沢は吸っていた煙草を灰皿に置いた。
「やあ、吉田。どうした?」
岩沢はいつもと同じ口調で電話に出る。
「ああ、俺も見てたよ」
電話の相手は、携帯から声が漏れるくらい大きな声で話している。
「だから言ったろ。俺に関係あること以外はどうでもいいって。それよりお前・・・・いや、だから、そう言う確証は無かったわけだし・・・」
しゃべりながら事務所内を歩き回る。
「だったらお前が行きゃよかったじゃないか!そんぐらい自分でやれよ!給料減らすぞ!・・・・・ああ、ああ、そうだよ。・・・・・・はいはい。じゃ、お休み」
携帯を耳から離し、通話終了のキーを押した。
「フウ・・・・・。まさかホントにやってくれちゃうとはねぇ~・・・・」
岩沢はポケットから煙草を取り出し、二本目に火をつけようとした。が、思い直したようにライターをしまい、煙草の箱を握りつぶしてゴミ箱へ放り投げた。握りつぶされた煙草はゴミ箱のふちに当たり、軽い音を立てて床へ落ちた。
しばらくして、岩沢は携帯電話を取り、誰かに電話をかけた。
「・・・・・・よお梶本、久しぶりだな。今暇か?暇なら飲みに行かないか」
電話の相手は友人の梶本。
「ああ、ちょっとな・・・・・。で、今から。ああ。大丈夫か?分かった。じゃあ場所はいつものところでな」
岩沢は、そう言って携帯を切った。
「ったく、何で俺は金田一じゃねーんだよ・・・・・」
岩沢は一人、そうつぶやくとコートを掴み、事務所から出て行った。