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41話 毒殺未遂にだって負けません。




「使用人のあなたが、聖女になって王子の妃になる。反対にあたしは、結婚解消……。人生分からないものね」


メリッサは弱々しく鼻で笑うと、一方でワイングラスをこちらに近づけてくる。


その言いようは、継母そっくりで嫌味ったらしい。

だが乾杯を求められたのならば、社交の場において断るわけにもいかない。


私がそれに応じようとグラスを近づければ、


「はんっ、対等にでもなったつもり?」


ガシャっと割れそうなくらい強くグラスは押し付けられた。

グラスの中でワインが大きく揺れて一部が外へと跳ね出る。


「ふざけないでよ。出来損ないの不完全女がちょっと王子にみそめられただけで、調子に乗ってる。馬鹿らしいったらありゃしない」


メリッサはそう言うと、これまた継母よろしく去っていこうとした。


たぶん、はたから見るとかなり当たり強く見えているのだろうが……


さんざん彼女のこうした嫌味な態度には耐えてきたのだ。なんなら、小一時間以上説教を食らったこともあるから、むしろ違和感すらある。


果たして、その感覚は正しかったらしい。

持っていたワインの匂いを嗅いだ際、さっきまではなかった不快感が鼻に抜けていったのだ。


間違いなく、毒ーー。


そうわかったのは聖女の魔力によるヒールを覚える過程で、特訓の際にいくつもの毒の匂いを嗅いできたためだ。


使用人だった頃は、いや、もっと昔幼い頃から、私はメリッサになにをされても黙っているしかなかった。

言ったところで誰にも信じてもらえず、自分の立場がさらに悪くなるから、自分の中に閉じ込めてきた。


だが、今の私は一味違う。


「メリッサ。あなた、私のワインに毒を入れたでしょう?」


こう糾弾すれば、彼女はぴたりと足を止めた。

周囲がただならぬ空気になる中、角度の高いヒールを翻してこちらまで歩いてくる。


「へぇ言うようになったじゃない。敬語も使わないだなんて。

 でも嘘はやめたほうがいいわね。あたしがあんたのワインに毒なんて、どうやって入れるのよ」


「さっきグラスを強くぶつけてきましたでしょう? あれは、わざとだったのでは?」

「証拠はどこにあるのよ」

「もし無実なら、その場で今、グラスの残りをお飲みになっては?」

「はんっ、あいにくだけど気分じゃないの。それともなに? 王子の妃ともあろう人が、お酒を強要するの? ほんっと、最低ね」


メリッサはそう吐き捨てると、今度はグラスの残りを私へと振りかける。


まさかの行動だった。

いっさい反応できなかった私は、自分のドレスから滴る赤い液体を呆然と見る。


すぐにヒール魔法で浄化することはできたが、これで証拠も消えてしまった。


「まったくお似合いねぇ。あなたもそう思うでしょう、グリーン伯爵」

「え、えぇ、もうまったく。聖女にもお妃にも、もっとふさわしい方がいるのではと思っておりましたところですとも!」


計画的な犯行だったようで、わざわざ王家の関係者を買収までしていたらしい。


シルヴィオ王子もシーリオ王も、この騒動にもかかわらず姿はない。

これも、彼女や継母の策略なのかもしれない。


「まったくよ。無礼な態度も、無実のあたしに罪を着せようとしたことも許してあげる。だから今ここで、妃をやめると言いなさい」


完璧なまでに包囲されていた。

全員が悪意のお面をつけた敵に見える。


とはいえ、こんな筋の一つも通っていない要求を飲みたくはない。


それについさっき、一人でも大丈夫だとシルヴィオ王子に宣言したばかりだ。


私がなおも戦おうとしていたら、参加者たちの作った輪の奥からその声は上がった。


「……僕、見ました。母がワインに粉を溶かしているところ」


それは暗闇の中でぽつんと光る星のようにそっと。

でもたしかな輝きを讃える。


甥のレッテーリオが、高く手を挙げて前へと進み出たのだ。


「だからアンナさんが言ってることは本当です」


若干5歳、それにしては大層肝が据わっている。

彼は私の前に出てくると、大きく手を広げて私を庇った。

その小さな背中に、私は成長を感じて勝手にうるりとする。


「レッテーリオ、あなた何を言っているの! みなさん、こんなのは子供の戯言。耳を貸す必要はなくてよ!」


我が息子のこの行動は、全く予期しないものだったらしい。メリッサは焦って否定する。


取り巻きたちは再びそれを加勢するが、レッテーリオは頑として首を横に振る。


ありがたいのだけど、これからの彼の立場を思えば心配の方が勝つ。


「いいのよ、私がなんとかするから」


こう小さく声をかけるのだが、彼は頑として動かない。

母の怖さを知っていてもなお、私を守ろうとしている。


その態度が、メリッサの怒りを誘発するまでそう時間はかかからなかった。


「状況も分からないなんて。随分と間抜けに育ったものね。レッテーリオ、あなたはとっととステッラに帰りなさいっ!!」


彼女はグラスをテーブルに置くと大きく手を振り上げる。

このままでは罪のないレッテーリオが痛い目を見ることになるが、もう間に入るには遅い。


だが、愛しい甥を守りたい気持ちは私も同じだ。

その祈りにも似た思いが、形となった。


「な、なによっこれ!!」


横手にあった観葉植物の枝葉、ツタが一気に伸びて彼女の身体に絡みついていたのだ。


「ひぃ、植物なんて穢らわしいっ!!」


これが効果抜群。


庭の手入れなどは全て使用人に任せきりの彼女は、自ら触れたりなどしない。

それどころか、忌避しているのだ。


メリッサは足をもつれさせ、その場に崩れ込む。

床に撒かれたワインで自分のドレスを汚しているのだから、同情の余地もない。


「は、早く!! 誰か! あたしの服を替えてちょうだい!!」


そればかりか、この焦りようは自白しているに等しい。



やっと、仕返しをすることができたらしかった。ついにこの妹に勝つことができたのだ。


むろん一人の力だけではない。若干5歳ながら勇気溢れる甥の肩に、私は手を置く。


「レッテーリオ、やるようになったじゃない」

「……ほんと? 嬉しいや。じゃあさ、今ならなれるかな」

「えっと、なにに?」

「それはその、今なら僕でもアンナさんをお嫁にーーーー」

「それは無理な相談だな、少年」


その声は、またしても唐突に割り入ってきた。


メリッサが倒れ込んだせい、ざわついていた中を彼は颯爽と歩いてくる。

そうしてレッテーリオの肩から私の手を攫うと、優しく握った。


一方で、レッテーリオの頭にも軽く手を置く。


「アンナ様は、この先ずっと俺の妃だから。……でも、その勇気は買おう。ありがとう、素晴らしい大人になるよ君は」

「…………し、シルヴィオ王子様……!」

「様をつけずともよい。他ならぬ俺の《・・》婚約者、アンナ様の親族なんだ」


なんだか、またしても妙な強調をしているような気もするが……


うん、流石に気のせいだろう。

王子が5歳相手に張り合うなんて、普通は考えられないしね。


私がうんうん頷いていると、


「カルロス、この者……えっと、誰だったか」

「メリッサ殿かと」

「あぁ、そうだ。とりあえず連れて行け。それと、金で協力したものたちも同罪だ。

 聖女に、俺の婚約者に害を働いたのだ。固く罰しろ」


シルヴィオ王子はその横でテキパキと後処理を進める。


これじゃあ型なしだ。

結局、シルヴィオ王子に助けてもらっている。


「あれ、そういえばシルヴィオ王子はなんでメリッサが犯人だと分かったんです?」

「アンナ様の妹だと名乗る者たちに、別室へ連れて行かれたんだ。挨拶だけならと思っていたがやたらと拘束しようとするから、なにかと思い尋ねたら簡単に吐いたよ。

 王や王妃も連れ出していたとか」

「……そんな作戦、普通聞くだけじゃ教えてなんてくれないんじゃ」

「いや? 脅したりはしていないよ。穏便に済ませたさ」


そう言うので、私は場内へと戻っている他の異母妹たちへ目をやる。

するとその視線は、シルヴィオ王子に釘付けとなっていた。


簡単な話、脅して落としたのではなく、色気で落とした、と。

そういうことのようだ。


ある意味、婚約者の私としては穏やかではない。




そんなわけで、メリッサ撃退!!


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