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38話 過去に向き合うとき

「大丈夫なのですか、アンナ様」

「はい、準備は万端ですよ。夜の舞踏会のドレスもきちんと持ってきましたし、シルヴィオ王子のタキシードもちゃんと――」

「そうではありません。あなたと、リシュリル公爵のことです」


懇親会の当日は、婚姻式の準備に追われているうち、あっという間に訪れた。


会場である王城には、父親や兄妹たちもすでに到着していると言う。


すぐそこに、数年顔すら合わせていない親族が何人もいる――。

そんな状況にもかかわらず、私はといえば、意外なことに平穏な心持ちだった。


自分自身もっと意識するかと思っていたのだが、あまりの忙しさで不安になる時間もなかったのだ。


なにより明日はいよいよ婚姻式である。

シルヴィオ王子には秘密裏に準備していることもあったから、そちらの方ばかりに気を取られており、余裕がなかった。


私よりシルヴィオ王子の方が、気にかけてくれているぐらいだ。


「嫌なら今からでもお引き取り願うこともできます。挨拶に行くこともありません」


それにしても、心配性なものだ。

わざわざ私の控室を訪れてまで、こう尋ねてくれるのだから、行き過ぎている。


このところの彼は、ずっとこの調子だ。


余計な情報を伝えるとなお心配をかけてしまいかねない。そのため、私はいまだ実家での話を切り出せないでいた。


どうすれば、安心してもらえるだろうか。

そう思案を巡らせていたところ、控室の扉がノックされる。


「どなたですか?」


と尋ね返せば、「私だ、アンナ」と。


その声は記憶にあるものより、少ししゃがれていたけれど、聴き間違えるわけもない。


いつも兄妹にだけ向けられて、私には投げかけられなかった声だ。


「アンナ様、追い返しましょうか」


シルヴィオ王子が扉の方を睨め付けて、声を低くする。

いつか山賊たちを追い払った時と、同じ威圧感だ。


だが、私は首を横へ振った。


「会いますよ、このまま」

「……怖くないのですか」


またしても、私はそれを否定する。


5年以上ぶり、しかも常に恐れてきた相手との望まない再会だ。


実際、身体の芯も指先も震えている。

ただそれでも、私はこの恐れを乗り越えたかった。


そう思えるのは、シルヴィオ王子と出会ったからに他ならない。


「私は、シルヴィオ王子の妃になるんです。そのためには、あなたの優しさに甘えてばかりじゃ支えられてばかりではいられません。

 たしかに私は、妾の子だからと虐げられてきました。思い返すのが辛いこともある。

 でも、胸を張ってあなたの横に立つためにも、婚姻式の前にちゃんと過去に向き合いたいんです」


私は彼の目を見て、真正面から伝える。


やっと、ここ数日言えずにいた正直な思いを口にすることができていた。


少し出しゃばったことを言ってしまったのかもしれない。

後になって思うけれど、視線だけは逸らさない。


だって、この思いに嘘は決してない。私は、どこまでも真剣だ。


やがて、シルヴィオ王子はぼそりと呟き、ぐしゃりと前髪を丸める。


「俺の横に立つため、ですか」

「……はい」

「まったく。アンナ様は分かっていないな」


俯く彼の表情は、よく伺えない。


やはり、出過ぎたことを言っただろうか。元使用人風情が王子の隣になんて。


「おこがましかったですね、すいません」

「そうじゃない。そうではなくてーー」


彼はここで言葉を止めると、どういうわけか身を返すと私の横に並ぶ。

何事かと首をふりむけていたら、右手の甲に温もりが伝わってくる。


見れば、そっと包み込むように手を握られていた。


「アンナ様、俺はもうあなたの横に立っていますよ」


その一言に、びりっと心の芯が痺れる。


感情が喉元まで一気に込み上げてきて、ともすれば泣きそうにさえなった。


だが、不思議なことに安心してもいた。

事実、先ほどまでの震えはすっかりと止まっている。


「会うならば、二人で会いましょう。俺も、あなたの横に立っていたい」


なんて頼もしいのだろう。


今の今まで、一人で立ち向かうべきだとばかり思っていたのに、その決意がもう崩れ落ちていた。


シルヴィオ王子がいてくれたら、私はずっと強くなれる。


「アンナ、いるんだろう?」


痺れを切らしたか、もう一度戸がノックされた。

もう迷いも怖さもない。

私はシルヴィオ王子と示し合って、扉を開けた。

完結に向けて書き進めています。

あと1,2万字くらいかな、という感覚ですがよろしくお願い申し上げます。


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