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37話 リシュリルのお家事情


「そのとおり。これらすべて、リシュリル公爵から、アンナ様へ宛てられたお手紙でございます。中身の察しはつきます。きっと、アンナ様が王子の妻になる、聖女になったから、という理由で連絡を取ろうとしてきたのでしょう。

これまで散々アンナ様をないがしろにして、虫が良すぎる話ですが」

「……え、シルヴィオ王子。どうして、私の扱いのこと……」

「調べさせたわけではありませんから、細かいことは分かりません。ただ、アンナ様の振る舞いを見ていたら、明らかに普通の貴族令嬢と違う環境にいたことは分かる。そうでなくても、噂話は耳には入ります」


ごそっと、腹からちからが抜けていく感覚だった。

必死に隠していたものは、すでに見抜かれていたらしい。


それだけではなく、こうして父親からの手紙を阻むなど配慮までしてもらっていた。

あまりに呆気なく判明したまさかの事実に、私は手紙を握ったまま、なにも言えなくなる。


やっぱりシルヴィオ王子は、とことん優しい。

そんな彼にもいまだ細かい家の事情を話せずにいる自分が途端に情けなく思えて、私はしばし固まる。


そんな姿が、手紙を開けるのを躊躇しているように映ったらしい。


「それを見るも見ないも、あなたが決めるといい」


シルヴィオ王子がこう言って、


「そうそう、開けなくていいのよ、アンちゃん」

「うむ。事情があるならば、仕方あるまい」


向かいの席にいる王も王妃もしかりと頷く。


今くよくよと思い悩んでいては、余計な心配をさせてしまうだけだ。そう思い直した私は、「大丈夫ですよ」と答え、とりあえず一通の手紙を開く。


書いてあったのは、こうだ。


父は私が聖女となったことを甚く喜んでおり、他の者もみな私に期待を寄せている。リシュリル家が後ろ盾となり全面的に支援を行うから、まずは返事をしてほしい――。


その後何通かの手紙を開けたが、文面こそ違えど、同じような趣旨の手紙が何通も届いていた。

配達の記録を見るに、一日に複数送ってきていることさえある。



改めて、『聖女になる』という事がどれほどの名誉あることなのかと気づかされた。

過去に、私を存在そのものがないかのように扱い、口を聞こうとさえしなかった父からとは到底思えない。


あからさまな身変わりようだった。

手紙の内容をありのままに伝えると、


「……リシュリル公爵も焼きが回ったか。あまりに身勝手がすぎるな」


深いため息をついて、シーリオ王は頭を抱える。

その横で、ヴィクトリア王妃も「しつこい男ってだめよねぇ」などと愚痴をこぼしていた。


そんな中、シルヴィオ王子が言う。


「アンナ様。普通、婚姻式にあたっては、その前夜に両家による事前の顔合わせのため、親睦会などを行うのが通例です。法にも儀式として定められている。ですが、このような有様です。どうされますか」


それを聞いて、私ははっと息を飲む。


が、考えてみれば当然のことだ。

むしろ、父親どころか親族の誰とも連絡を取らずに済んでいる今の方が、特殊な状況である。


父に会わなくてはならない。

そう思うと、過去に冷たくあしらわれ続けた記憶が生々しく思い出されて、身がこわばる。


顔には出さないようにしていたのだが、私の思いを察したのか、シルヴィオ王子は付け加える。


「アンナ様が望むならば、それらを行わない方法もありますよ」

「えっと、……というと?」

「リシュリルの名前を捨てることです。他の貴族から身請け人を探して、その養子になるというのは一つ考えられます」


たしかに、家を出てしまえばリシュリルの人間ではなくなる。

メリッサにも、他の兄弟とももう誰に関わりあうこともない。


新しい選択肢が出てきて、私はその場で一考する。


どこかの家の養子になるというのも、決して簡単なことではない。


私は聖女であり、王の妃だ。他家へ行ったら行ったで、その家に無用の争いをもたらしてしまうかもしれない。


どこへ行っても、乗り越えるべき壁はある。


そう考えると、答えは案外にすんなりと出た。


どうせ我慢ばかりを強いられてきた人生だ。いまさら逃げても、しょうがない。

たぶん正面から向き合うべき時がきているのだ。


「いえ、そこまで図らってもらう必要はありませんよ。予定通り、親睦会を行いましょう」


にこっと笑顔を作って、そう答える。


しばらくは、気づかわしげな空気が流れていたが、私が態度を変えないでいたら、王と王妃のお二人は、深く頷き私の意見を尊重してくれる。


「アンちゃん、なにかあったらすぐ飛んでいくからね!」

「うむ、私もこの身体を救われた恩義がある。すぐに手を尽くそう」


それだけではなく、なにかあったら助けてくれるとの約束までしてくれたのだから、ありがたい。


「アンナ様。本当にそれでいいのですか?」


シルヴィオ王子だけは少し気になっていたようだが……


「はい、もう決めたことです。みなさま、リシュリル家の事情でお時間をお取りして、失礼いたしました」


私は毅然として言い、そこで話を切り替えた。


そもそも、リシュリルのお家事情を話すために、王と王妃に屋敷へ来てもらったわけではない。






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