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27話 聖女の作るポーションは、効果てきめん。

「これはポーションでございますか、もうこんなに……」

「はい、腕をなまらせないためにも、この屋敷に貯蔵しておくためにも必要かと思いまして。魔力は特訓でかなり扱えるようになりました。きちんとセーブしていますからご安心ください」


カルロスが色とりどり並ぶポーションに気をとられているうち、私はその中から淡い緑色を放つガラス瓶を選び出す。


ラインナップはさまざまだ。

青色は外傷を直すもので、緑色は目に見えない痛みなどをやわらげるものであることは、座学で学習済みだ。


肩の痛みならば、緑のポーションがいい。

私はコルクを外し、カルロスの背後へと回る。


「奥方様、それはどういったものです?」


カルロスは私の握ったものを見んと、首だけを後ろに振り向けるが、「少しお待ちください」と制した。


カルロスの身長は、シルヴィオ王子よりもさらに高い。私は背伸びをしたうえで、彼の肩上、瓶を逆さにする。


出てきた光の玉が彼の肩に触れると、一瞬光量を増したのち、吸い込まれるように光は消えた。


「どうでしょうか」


私はおそるおそる、尋ねてみる。

まだ覚えたてだ、失敗している可能性もありえる。だとすれば、また余計なおせっかいになる、と今更ながらに思っていたが……


「――消えた」


カルロスはそうつぶやくと、両肩を大きく回して、少しだけ息を荒くする。だが咳払い一つで、すぐに落ち着きを取り戻して言った。


ちょっと感情を見せても、こんなもの。

実にカルロスらしい反応だ。


「これまで、なにをしても肩が常に重かったのですが、どういうわけでしょうか。それこそ、ポーションを利用したこともあるのですが」

「巷に出回っているものとは、込められている魔力の種類がそもそも異なるらしいです。液体ではなく、光ですしね。治ったのなら、呼び止めた甲斐がありました」


「……奥方様。感謝申し上げます。本来ならお世話させていただくのは、私めのほうだと言うのに」

「気にしないでください、ポーションを試すのもお仕事だとおもってください」

「……ありがたく、そのお言葉頂戴いたします。この御恩は、今後必ずお返しいたします。これで、少しは早く仕事を終わらせることができそうです」

「あぁ、すいません。お仕事の最中でしたよね。どうぞ、遠慮なくお戻りください」


彼なりに態度で示しているのだろう。

いっそう礼儀正しく私に接してから、カルロスは部屋を後にしようと扉に手をかける。戸を引くと、メイドが数名倒れこむように中へと入ってきた。


「あら、いつからそこにいらしたのですか」

「部屋から眩しい光が見えましたので、それで。なにも私たちもやってほしい、なんておもってないです。し、失礼しました」


どうやら、始終を見られていたらしい。

彼女らは恐縮そうに肩を縮める。


しかし、そうしつつも彼女らの目線はたしかにポーションへと注がれていた。


年頃を想像するに私より一回り近く、上の二人だ。

となれば、カルロスや私より一層、抱える問題も多かろう。


「あなたがたも、お使いになりますか?」


私がこう提案すると、ぱっと顔を輝かせて、おのおのの不調を訴えるのだから、少し面白かった。

微笑みをうかべながら、私は彼女らにもポーションを使ってもらう。


「行きつけの治療院で給料の大半を使っても治らなかったのに、腰が痛くない!?」

「……ほんと。ずっと手荒れがひどかったのに、さっぱりなくなっています……!」


メイドらは高い声でそう言って、喜びを露わにする。

一人は腰の痛みとお別れしたことで飛び跳ね、もう一人の方は自分の手を見つめたまま、うっとりとしていた。


……この一瞬で、数歳は若返ったみたいに生き生きとして見えた。


まあ気持ちは分かる。

使用人をしていると、腰痛や手荒れは、防ぎようがないものだしねぇ。


きゃあきゃあ、とまるで奇跡でも見たみたいに二人は騒ぐ。

彼女らの姿を見てカルロスは軽くため息をつきつつも、今回ばかりは自分も効果を実感した側だからだろう、咎めはしない。



そんな彼らの姿を見られるのは、ポーションを作った身としてのみならず、元使用人としても喜ばしい光景だった。


過去、自分がメリッサに駒のように扱われてきたこともある。

自分が令嬢として屋敷にいる以上は、そうした奴隷と主人のような関係ではなく、心の通じ合える関係をはぐくみたい。


そう思っていたから、こうして親しみをもって笑顔を見せてくれるのは、ありがたい限りだった。


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