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21話 勝手に話を進めないで。

翌朝、私は執事カルロスとともに馬車に揺られ王城へと上がった。



シルヴィオ王子は本当に遅くまで仕事をしていたらしい。

許可をもらって覗きに行けば、倒れるように寝ていたから、身体が限界だったのだろう。



カルロスの判断もあり、とりあえずこのまま休んでもらうことにしたらしい。


「では、私は重臣の方々に事情を説明申し上げてまいります。ではアンナ様、またご夕刻に」


鍛錬場前で背の高い彼の後ろ姿を見送りながら、主人も大変ならその執事も大変だなと思う。


だがそんな姿を見たおかげで、なお気合が入った。


私の方も昨日は夜遅くまで、メイドらとともに作業に勤しんでいたからまだ少し疲れは残っていたけれど、泣き言は言っていられない。


自分を鼓舞して、今日の鍛錬へと臨んだ。


「では、本日からは魔力の強化だけではなく、実際に聖女の魔力へと変換する練習を行いましょう」


努めて穏やかな声音、指導担当のオスナがこう説明をする。


用意をされていたのは、いくつかの花瓶だ。


そこには枯れかかった花々がいくつか、こうべを垂れるようにして挿されている。そのうえどの花びらも、先端から少し茶色がかってしまっていた。


「こちらは、先日の夜会で飾りとして使われた花々です。本日はこれを蘇らせていただきたい。魔法の名前は『活性魔法』。最終的にはその魔力をヒール魔法に応用いたします」


オスナは詠唱すべきスペルを伝えてくれるが、私はすでにそれを知っている。


「高きところにおわします水の神々よ、我が願いに応え、聖なる力を授けたまえ」


聖女の魔法に必要なのは、詠唱だけでなく心からの祈りだ。この花々たちがこのまま萎れてしまわないよう、私は願いを捧げる。


実際、きちんと気持ちは入っていた。

どれだけ美しかったものも盛りを過ぎれば、それでおしまい、用なしになったら捨てられるだけというのは悲しすぎる。


どうやらその思いが通じてくれたようだった。


手のひらのうえに生み出した聖水を、花瓶へと注ぎ入れれば……

元気をなくし頭を垂れていたカスミソウの花が、その背筋を反り返るようにして張っている。


「……驚きました。もう、ここまで操れるのですね」

「はい、少し自主練習をしていましたから。少ない量ならば生み出せます」


その後、まぐれでないことを証明するため、いくつかの花へ同じように魔法をかけて見せると、オスナはそのたびに拍手をくれる。


「この分なら、かなり早めに進むことができそうですが、どうしましょうか」

「もちろん、やらせてください」


わざわざゆったりとやる意味はない。

私は断言して。次なる鍛錬項目へと臨んだ。


より安定的かつ出力を高めることが必要とのことで、場所を王城の庭へと移して、広範囲に『活性魔法』を使う練習を行う。



そうしているうち、昼がきたので休憩をとることとなった。


ちょうどベンチがあったので、私はそこに座り、持参していた弁当を食べることにする。

中身は、昨日の夜の残り物を中心とした軽めの食事だ。


メイドたちは、より立派な物を用意したいとのことだったが、私にはこれでも十分贅沢なくらいだった。


なにより残り物をだすことは、どうしても避けたかった。もったいないというのもあるし、自分に重ねてしまうところもある。


「アンナ様は今日もご持参でございますか」


ちょうどパスタをフォークに巻き付けていたところ、オスナに声をかけられ私は顔をあげる。

その顔に浮かぶは、まるで優しさだけで作ったみたいな柔和な笑みだ。


「えぇ、昨夜の残り物がありましたから」

「それはそれは。聖女になられたというのに、ご立派な心掛けでございますね」


こうして話していても、その笑みは崩れない。しかし、やはりその笑みはほんの少しを繕い切れていなかった。


今日は特に、無理をしているように感じる。

ひっそりとそれを警戒していたら、そのときはいきなりに訪れた。


「アンナ様のような方は、そういない。もっとお話がしたくなりました」

「……お話、ですか」


「はい、どうでしょうか。もちろんあなたがシルヴィオ王子の妃となられる方だとは分かっています。でも、僕もあなたのことがもっと知りたい。ちょうど訓練にも余裕ができました。こっそりとで構いませんから、このあと紅茶でもいかがでしょう」


それは、まったく突然のお誘いであった。


彼は私の隣に座ると、やはり目がなくなるほどの笑顔を絶やさずにこう言う。


少し甘えたような声音にくわえ、ルックスや立場を考えても、オスナは魅力十分の美青年だ。

そんな青年にこう声をかけられたなら、年上の女性たちがころりと落ちるのは想像に易い。


……だが、本音が見える私には通用しない無用のものだ。


「お断りいたします。私はシルヴィオ王子の妃ですから」


きっぱり言うとオスナはぴくりと眉を跳ねさせる。

それから、少し迷ったように、やはり微笑をうかべる。


「それは分かっていますが……、王子はあなたを妃として扱っていないのでは? ご存じでしょうが、シルヴィオ王子は冷酷なところもあります。それに、女性をあれだけ寄せ付けず、24まで恋愛話の一つも出てこないお方ですから」

「勝手な想像で話を進めないでもらえますか。十分に、大切にしていただいております」


「……それはあなたが聖女だからというだけで、本当の愛ではないんじゃ――」

「あなたこそ、私を利用するために取入ろうとしているのでは?」


シルヴィオ王子のことを悪く言おうとされている。

それだけのことに、ぐわっと心の奥から思いが溢れて、私はつい一足飛びに核心へと踏み込んでしまった。




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