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19話 思わぬ謀略?



翌日から、ケイミーは私の前に姿を見せることもなくなった。

オスナによると、本当に担当から降りたとのことらしい。


聖者の指導担当という役割は、そう簡単に辞められるものなのだろうか。そうは思えど、そうだというのだから仕方がない。


私には、ほかに確認するすべもない。


「ではアンナ様。こちらへどうぞ。ここではまず魔力量や質を測っていただきます」


そのため、オスナからのマンツーマンによる指導が行われる。


すでに数日の座学を終え、今日からは実践に入ると聞かされていた。



場所も講義室から、鍛錬場へと移ってきている。


さまざまな武器が置かれているだけでなく、剣の稽古場や、弓の的など、さまざまな施設が揃っていて私は圧倒される。


そんな大部屋の端に用意されていたのは、いわゆる魔力測定器だ。


いくつかの魔石から作られたそれは、魔力を込めた際に発される光の強さや色から、およその魔力量や質の判別がつく。


「たしか魔力量が大きければ光が強くなって、色が白や透明に近いほど質が高いのでしたよね」

「はい、その通りでございます。お手数ですが、よろしくお願い申し上げます」


こう促されて、私は恐る恐る、それに触れた。


この検査からはもう10年以上遠ざかっている。

内心ドキドキとして、目を瞑りながら触れる。


開いてみると、なんのことはない。白色でこそあるが、光は強くない。


魔力の質は、聖女の力が目覚めたおかげだろう。かなり良化しているが、一方で魔力量はそう多くないようだ。


「さすがに美しい魔力の質をしていますね。ただ量が多いとは言えませんから、鍛錬が要りそうですね」

「……そうですか」

「でも、そこはお任せください。そのために僕はここにいるのですから。魔力のうまい伝え方をお教えいたしますよ」


オスナは、私を覗き込んで、にこりと笑いかける。


9割9分、彼の笑顔はうまくいっていた。

けれどやはり残りの1分にだけは、嘘が混じっているように、私には映った。



訓練も残すところ今日を入れて3日。最終盤にさしかかっている。

ここ数日は長い時間、彼と過ごしてきたからこそ、違和感は確信に変わり始めていた。


「アンナ様、どうかされましたか?」

「……あぁ、いえ、続きをお願いします」


そんな引っかかりには関係なく、講義は行われる。


魔力量を増やすための単純な基礎練習から、実際に魔法杖へ魔力を伝えるような実践編まで幅広く実施し、夕刻を迎えた。


終わり際、オスナに勧められて再度の魔力検査を行う。


「すごい、たった一日でこれだけ…………!」


すると、午前に測った時より、うんと光の勢いが増していた。

眩しくて目を細めなければならなくなるほどだ。


「さすが聖女に選ばれるだけのことはありますね、アンナ様。素晴らしい才能だ……、こんな早さで上達するとは思いませんでした」


オスナがこう感嘆したように漏らす。今度は、純度100。

心底、驚いた顔をしている。


が、なにも私だけの力ではない。嘘の笑顔を作っていようが、打算で親切にされていようが関係ない。


彼が指導者として真に優秀だからこそ、この力を引き出すことができたのだ。



こうして、一日のプログラムが終わる。あとはシルヴィオ王子を待って屋敷へ帰るはずだったのだけど……


「アンナ様、お迎えにあがりました。今日は私がお供をいたしますゆえ、ご承知おきを。王子の命でございます」


やってきたのは、執事であるカルロスであった。

高い上背を窮屈そうに折って、深々と礼をしている。そこまでする必要はない、と言っているのだけど、もはや身に染みついているらしい。


「カルロスさん。シルヴィオ王子は、まだお仕事ですか?」

「左様でございます。そのため、私めがお迎えに上がるようご指示をいただきました」


「……待つというわけには?」

「そうはまいりません。まだ時間がかかるとのことでございました。夜の食事にはどうにか間に合わせる、とのことでございました」


どうやら、数日前にも増して、かなり忙しくされているらしい。

業務内容も詳しくは知らないうえ、国の情勢などにも関わる話だ。

助けになれないのが歯がゆいが、わがままを言って、ここに残っても迷惑をかけるだけだ。


私はカルロスとともに馬車に乗り込み、王城を後にする。



カルロスは、相変わらずの無表情っぷりであった。

まるで置物を乗せて帰っているみたいに、目を瞑り背を限界までピンと張って、整然と座っている。


いつもはシルヴィオ王子と同乗しているから少し変な気分だった。

ただただ彼の彫り深い顔を見ていたら、不意にその口が開く。


「……アンナ様。実は妙な噂を耳に挟んだのですが」

「妙な噂……? というと、なんでしょうか」

「アンナ様が、先ほどの魔導士・オスナと恋仲なのではないかというものです」


それは、あまりに突拍子のないものだった。


私の頭から、言葉が全てかき消える。それを取り戻してから、私は尋ね返す。


詳細を知っておかなければ、なるまい。


「……いったい誰からそんな出まかせが?」

「それは不明ですが、王城内の使用人がこそこそと話をしていたのを小耳に挟みました。その様子では、全くご存じないようでございますね」


こくり、ただただ首を縦に振る。


「大方、誰かが仕組んだのでしょう。聖女に選ばれた上、あのシルヴィオ王子と婚姻を結ぶことができる。アンナ様、あなたを羨む者は多いですから」


よぎったのは、初日以来顔を見せなくなったケイミーの顔だ。

少なくとも、本来やるべき仕事を放棄した彼女に、噂を工作する時間はたっぷりあったに違いない。


むろん確証はないが。


「それに、あのオスナという男にも気をつけたほうがよろしいでしょう」

「彼がどうかしたのですか?」

「魔法の腕は確かで、指導も上手いと聞いていますが……出自は地方貴族、それも落ち目にある伯爵階級なのです。

兄弟の中では彼が出世頭とのことで、成り上がることばかりを考えていると、一説では聞いたことがございます。故郷に錦を飾りたくて必死なのでしょう」


「なるほど……。よく噂をご存じなのですね」

「はい、こういった噂から権力関係が動くこともあります。捨ててはおけませんから、いつも把握するようにしているのです」

「そうでしたか。ご忠告ありがとうございます」

「いいえ、当然のことをしたまでです、それに、面倒ごとになると私の仕事が増えて困りますから」


……結局、そこに帰ってくるのね。

少し呆れつつも、これが彼なりの心配であることはシルヴィオ王子への態度を見ていても分かる。


受け入れて、


「カルロスさんにお手間はかけさせません」


と答えつつ、私はオスナの笑顔に感じた違和感のことを思い出す。

ケイミーの行動と併せて考えれば、なんとなく話がつながった気がしていた。





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