18話 疲れをも癒す王子の輝き
指導担当であるケイミーとオスナの態度に、少しの違和感を覚えた私であったが、それが確証にまで変わることはなかった。
「講義の方はどうでしたか? 今日は一日座学と聞いていましたが」
だから屋敷に戻る途中の馬車。
シルヴィオ王子にこう尋ねられても、私はただ単に、
「えぇ、特に問題はありませんでしたよ」
と答えるほかなかった。
確信があるわけでもないのに、妙なことを報告して彼に不安を感じさせるわけにはいかない。
そもそも彼は、第一王子、つまりは次期この国の後継者にあたる。今日だって仕事が押して遅れて迎えにくるほど、忙しそうにしていた。
「シルヴィオ王子のほうは、どうだったんです?」
「俺の心配は要らない。これくらい、いつものことです。地方で揉め事があって、その裁定をしていただけのこと」
「そんなことまで担当しているのですね」
「はい、領土の関係の最終的な決裁は俺の所管になっているんです。争いごとは得意じゃないんですが……」
こう言い切って短くため息をつくと、シルヴィオ王子は馬車の背もたれによりかかる。
「こればかりは言ってもしょうがないな、忘れてください」
すぐにまた背筋を伸ばしてこそいたが、彼の様子を見て、私は改めて思う。
やはり相談するのはやめておくべきだ。
問題の規模だって違いすぎるし、こちらは気にしなければとくな問題でもない。
少なくとも講義は無事に行われ、研修は進んでいるのだ。
「とにかく今日は早くお休みになって、お疲れを取られてくださいな。寝る前に白湯を飲まれると、より早く回復しますよ。私の作るものでよければ、聖水もどうぞお飲みください。メイドにも評判なのですよ」
話を切り替えるとともに、ついついいらぬお節介を焼いてしまう。
すっかり口にしてしまってから、はっと気づくけれど、もう遅い。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。お水はもちろんありがたくいただきますが、俺の疲れならばそうそう心配することはない」
「あ、えっとそうですよね、シルヴィオ王子はまだお若いですし……」
しかし彼はそれに、ゆるゆる首を振る。
どういうことかと思っていたら、彼は腰に付けたポーチから、なにやら小包をとりだす。またクッキーかと思えば、違った。
「今日は疲れに効くと噂の薬湯の粉をいただいてきましたから」
「……薬湯、ですか」
思いがけないものにもほどがある。
少なくとも、今朝、オスナたちに氷の表情を向けていた彼と同一人物とは思えない。
少し顔を上気させて、得意げなのが伝わってくる。
「今日の湯あみには、これを使いましょう。アンナ様の分もいただいておりますから、ゆっくり入られるといい。メイドには指示をしておきます」
まったく、読めない人だ。
少なくとも、世間の人が思うように、ただただ厳格で立派なだけが彼ではない。それを私はこの数週間でまざまざと感じていた。
私は遅れてくすりと笑う。
まだ湯につかってもいないのに、すでに少し疲れがとれた気がしていた。
区切りの関係で、ちょっと短めです。




