表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/43

12話 特別な人【シルヴィオ王子Side】

「あなたは、やはり甘すぎる」


アンナの部屋を出てから廊下を少し歩いたところ、数歩後ろからカルロスがこう苦言を呈すので、シルヴィオは苦笑してしまう。


普通、執事がここまで面と向かって主人に意見はすることはない。

しかし、カルロスがかつてシルヴィオの世話係であったこともあり、彼は遠慮なくものを言うし、シルヴィオもそれを咎めない。


そのため、このぼそりと繰り出される小言は20年近く聞き続けていた。



経験上、そのほとんどが正論だとは分かっているが、今回も聞くわけにはいかない。


「いや、あれでいいのさ」

「なぜです? 私には理解いたしかねます。聖女にメイドの仕事をさせるのもそうですが……。魔力の使用を許してしまって、今度本当に聖女が倒れた、というような事態になったらどうされるのです」

「そこは、アンナ様も加減してくれるさ。それから、カルロスも気をつけて見ておいてくれ」

「……しかし」


なおも、抗おうとするカルロスだったが、シルヴィオが立ち止まり振り返ると、ここで言葉を切る。


「アンナ様はどうも、いわゆる名家育ちの女性とは違う。どういう生き方をされてきたのかは隠そうとされているが、窮屈な生き方を強いられてきたのは間違いない。それこそ、あのメリッサとかいう妹のせいかもしれない。

自分からなにかを望むことなどほとんどないし、誰かになにかをしてもらうことにまったく慣れていない」

「……それがなにか問題でしょうか。私には自立された女性としか思えないのですが」


「最初きたときから、アンナ様は自分を隠している。俺にはそう見えるんだ。

 年上だから、聖女になったから、と役割に自分を当てはめて、できるだけその通りに振る舞おうとされている」

「つまりアンナ聖女様は、本当の姿を見せていないと?」


「あぁ、あくまで予測に過ぎないけどね。外で聖女として、年上として振る舞うのは、いいさ。

 でも、家の中でまでそれじゃあ窮屈だろう? 俺だって、ずっと王子として振る舞うのは疲れる。それと同じことだ。

なんであれ、せっかくアンナ様が自分を出してくれたんだ。それなのに、ここでそれを止めたら、また借りてきた猫みたいになってしまう」


シルヴィオは目を瞑って、少し間、遠い過去に思いを馳せる。


アンナが弾くピアノに魅入られて、彼女と軽く会話を交わした日のことだ。


上手いという意味なら、他の方のほうが優れていた。それこそ、彼女の姉妹たちの方が譜面どおりに弾けていた。


けれど、なぜか彼女の奏でる音色だけが自分に響いてきたのだ。

シルヴィオはまだ少年だったのだけど、その演奏会のあと、アンナと少しばかり話したことも覚えている。


演奏から感じた通りだった。しばらく忘れられないくらいには、控えめながらも芯を感じる優しい声だった。


今に思うとあれは、初恋と呼べるものだったと思う。

以来、他の女性に対して同じような気持ちになったことがないから、よくは分からないけれど。



ともかくシルヴィオはアンナに、あの日のようにあってほしかった。せめて自分の前では、もっとアンナらしくあってほしい。


その願いは、カルロスがなんと言おうと捨てられない。


「……まさかですが、猫みたいだからミケみたいだからという理由で、あの方に肩入れしているのですか?」

「まさか、そんなわけないさ。まぁたしかに似ている部分もあるけどね。カルロスに語るような話じゃないってことさ」


シルヴィオはふっと笑って、再びゆっくりと歩き出す。


執事に対して、仄かな初恋を熱く語りたい趣味は残念ながら持ち合わせていない。


「まったく、あなたという人は変わっていらっしゃる」

「なんとでも言うがいいさ。それで、俺が不在の時はアンナ様のこと頼んだよ」

「…………かしこまりました」


不承不承という声ながら、彼はなんだかんだで優秀な執事だ。

言われたことは守ってくれる。そこには、シルヴィオも信を置いていた。



誰になにを言われたって、構わない。

歳の差も、出会ってから今まで空いてしまった空白の時間も、なにも関係ない。



ただシルヴィオにとって、アンナは誰より特別な人である。

その事実は変わりようがない。




【恐れ入りますが、下記をお願いします】


・面白かった、楽しかった


・続きが気になる




などと少しでも思ってくださった方は、画面下部の☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援して下さると嬉しいです。


ブックマークも歓迎です!(╹◡╹)



よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ