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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
99/170

第九十九話「あー、煙草吸う?」「だからいらん」


要塞竜フォートレスドラゴンの討伐作戦。


その幕開けを告げるのは、各騎士団主力の騎士たちによる一切の出し惜しみは無しの、全身全霊で最大火力で放つ超一点集中爆撃となった。


『ギュゥゥゥゥ!!』

「おー、よしよし。怖かったなあコン」


その爆撃は私が得意とする『野狐』を起点に遠隔から魔法を発動する戦法を利用した。


『野狐』を一匹、霊体化した状態で要塞竜フォートレスドラゴンの横面の近くまで行かせて待機。次に先輩方が放った数多の魔法を別個体の『野狐』たちが、待機していた『野狐』がいる位置に転移させた───実際は他者の使い魔との一時的な仮契約とか、ちょっと面倒なことをしたんだけど、分かりやすく言うとそんな感じ。


……ちなみに言っておくけど『野狐』のみんなは基本的にビビリだ。


だから最初は、大型魔獣に近寄るだけでも怖いのに、目の前でとんでもない魔力が込められた大爆発を起こされると分かっていて、霊体化しながら単身で突撃するなんてこと、誰もやりたくないと拒否していた。


のだが、


「自らあの役目を買って出た時とは真逆じゃないか。自分に任せろ、と一声鳴いた時の勇ましいお前はどこにいったんだ?」

『ギュウウッ、ギギュウウウアウ!!』

「それとこれは別だって? はは、確かに目の前であんな爆撃されたら誰だって怖いかー」


全身を使ってカイトの首に巻き付いて怖かったよと震えるコン。


この子だけが、作画変わった? って思えるほどのキメ顔で怖い役目を引き受けた。勇気あるなあと感心してたんだけど、まあ、やった結果は見ての通りだね。


 ───さて、そろそろ引っ剥がそうかな。


「じゃあコン、もう離れようか」

『ギュッ!!』

「ぐえ」


首根っこを掴んだ途端、コンが抵抗してカイトの首に巻き付く力を強める。


「コ〜ン〜?」

「ま、まあ落ち着けってオウカ、やっぱコンにだけ厳しいんだなお前……」

「厳しくない」


なんとかコンを引っ剥がす。


カイトにくっつくのは駄目とは言わないけど、ずっとべったりなのは駄目ってだけ。ずっとくっついて良いのは私だけなんだから。これ相棒の特権。



「目標、こちらを避けるように進路を変えました」

「良し、一班は下がって回復!! 二班は前へ、進路修正に備えろ!!」



一方、遠くでは四つある各騎士団から火力が高い者を選出して構成された三つの混成班と、それの全体指揮するシム団長、各班に一人ずつ加わって現場指揮する各騎士団団長が、目まぐるしく動いている。


「なるほど……火力全振りにした班三つによる三段撃ち、それで無理矢理にでも目標地点まで進ませるのか」

「カイト、三段撃ちって?」

「ん? ……ああ、こっちじゃ聞かないのか」


聞いたことがない言葉にカイトはちょっと間をあけてから何か納得した様子で教えてくれた。


強力な攻撃は連発出来ない。


だけど攻撃と補給を交代しながらやれば連発は可能で、攻撃頻度や補給に必要な時間を考えれば三段……つまり三つの班がちょうどいい、と。確かにシム団長がやっていることはそれと同じだ。彼の故郷ではこの戦法を三段撃ちと呼ぶらしい。


「初撃で要塞竜フォートレスドラゴンの鎧が結構削れた。進路修正の度に爆撃を繰り返せば、あの守りは残らず剥がれ落ちるだろ」

「うん、そして丸裸になったところを全員で一気に叩く」

「変に難しくなく、やることが単純シンプル。シム団長らしい作戦だ。……いくら交代制だとしても、毎回全力攻撃を求められ、常に移動し続ける相手の様子を伺う為に休み時間を極力削り、回復がほぼ物資頼りになることも含めて」


うん、と私も頷きながら回復しようと下がった一班の面々に、待機していた補給班が慌ただしくポーションを配っているのを見る。


ポーションを飲んだら馬に乗って次の攻撃地点まで移動、補給班は次に来る二班の補給に備える。バタバタと速さ重視で、人も馬も休む時間なんて僅かしかない。……これは個人個人の高い実力と、有事の際にと少しずつ貯め込んできた膨大な量の物資に頼った、ただのゴリ押しだ。


「だからこそ……オウカ、お前の領域はこの戦いにおいてとても重要だ。補助魔法による全員の消耗軽減と物資節約と与える影響は大きい。流石、俺の相棒だ」

「っ───私は先輩方みたいに大規模な魔法は撃てないけど、少しでも役に立ちたくて……騎士団は家族みたいに思ってるから」


私の頭を撫でながら笑いかけてくるカイトに、顔が熱くなるのを感じた。彼に褒めてくれるのがとても嬉しくて、でもちょっと恥ずかしい。



「カイト!! あそこに魔獣を複数確認した、恐らく要塞竜フォートレスドラゴンを見て逃げてきたんだろう、近づかれたら面倒だ、対処を頼む!!」



不意に先輩から指示が飛んできた。指をさした方を見ると、木々の間を走り抜ける赤毛の猪が五頭ほどいる。


「あれは赤毛猪レッドボアだな。……了解、ちょっと爆発音がするんで、それだけ伝えときます!!」


オウ、と先輩が手を振って、カイトは全体的に赤い長めの銃を召喚して構える。


たぶん爆発音がする云々は、あの銃にその効果があるからなんだろう。赤く染まっているモノの大半は爆発するタイプだ、と教えてもらったことがある。


「手伝う?」

「いや、この距離なら大丈夫だ」


カチッと引き金を引く。


銃口から僅かな火を発して赤い弾丸が放たれ、二頭の赤毛猪レッドボアの頭と胴をそれぞれ撃ち抜く。そして内部から爆発した。


身内が突然爆発したことに驚いたのか、残りの三頭は走る足を止めて一度は散り散りになるも再び集まり、背中合わせになり周囲を見回す。


「何か起こった時、群れた赤毛猪レッドボアは必ず背中合わせになって警戒する。そんな習性、俺にとっては良い的だ」


いつの間にか赤い銃から大筒のような何かへと武器を変えて、カイトはニヤリと笑いながら、大筒から伸びた取っ手を握り締める。


「オウカ、耳塞いどけ」

「っ!!」


バシュウと大筒から飛び出した円錐状の物体は後部から火を吹き出しながら上昇。そして大型弩砲の矢のように、上空で向きを変えた物体は赤毛猪レッドボアへと目掛けて落下していき、


「うわぁ……」


二頭を撃ち抜いた時以上の大爆発で固まっていた三頭は文字通り消し飛んだ。うん、すごい爆発音だった。


「っし、やはりジャベリンは良い。……対処完了です、先輩。あとはいつものように高所で状況を見つつ邪魔そうな魔獣の対処、あとはコレでちまちま撃つんで、シム団長に連絡頼んます」

「火力については文句ないけどよ、間違っても外して誰かを巻き込むんじゃねーぞ?」

「あんなデカブツどうやれば狙いが外れるんですか」

「ハハハ、違いねえ」


先輩が笑って去って行き、カイトは重そうにヨイショと大筒を担ぎ直す。


「じゃあオウカ、俺はここより高いとこに移動する。何かあったらコンで連絡してくれ」

「うん、分かった。気をつけてね」

『キキュ〜』


私とコンに見送られてカイトも駆け足でここを離れて行った。


あの不安感は、まだ私の胸の奥に居座っていた。




■■■




「っ───…………」




後頭部から眉間まで撃ち抜かれ、豪華な絨毯を血で汚しながら、うつ伏せに倒れる恰幅のいい男。


「これで五人……」


それを見ていたメイドは男に近寄り、持っていたサイレンサー付きピストルで頭にもう二発撃つ。衝撃で頭が揺れるがそれだけで、男から何か反応がある訳でもない。ただの確認だ。


部屋の外では他の執事やメイドが避難の準備で慌ただしく動いている。


もう、彼ら彼女らが仕える主は死んだとも知らずに。


「ゲームでは微妙だったが、こっちだと反則だな。このスキンは……」


メイドが発する声は男性のもの。そしてクルリと体を一回転させると、僅かに発光して黒服の男性へと姿を変える。その現象に魔力は使われていない。


()()()()()の役目が簡単だったな。顔も知らない誰かが一人、変装して紛れ込んでも誰も気付かない。『非常事態』という状況が俺にとっては一番好みだ……っと」


部屋の外から複数の足音が近付いてくるのが聞こえる。


「一人、また一人。確かにそこにいるのに、実際はもういなくなっている。クク、ちょっとしたホラーだな。───なんて、手段なんか選ぶあたりまだ完全になりきれてないな、俺は……」


足音は扉の前でトントンとノックされる。


『───父上、準備が整いました』

「コホン。……うむ、全員外で待っていろ。直ぐに行く」

『分かりました』


約一ヶ月この屋敷の主の声の出し方や話し方を練習し、扉越しならあまり違和感がないくらいには真似られるようにしていた男は、人の気配が遠ざかるのを感じてから再度体を一回転させる。着ていた黒服は近くに転がる死体と同じ高級な革製のジャケットになり、体格も、顔も、背丈も、なにもかもが瓜二つとなった。


「王都を出ていくのはこれで全員始末した。他は出ていかずに残ることを選んだから、一先ずはこのまま役を演じて適当なところで離脱。そうだな、続きは夜にやるか……」


うん、と頷き男は部屋を出る。


男がかつて知人から教わった『役になりきる』という演技指導。そして()()()()()()()()()姿()()()()という性能を持つ『シェイプシフター』という怪人のスキン。この二つを駆使して、誰にも気付かれずに始末すると決めた対象に引き金を引く。


王都にいるはずの騎士団は全員出払っている。『災害級』という大型魔獣を相手にするには全戦力を投入するのは当然だろう。万が一に備えて『冒険者ギルド』にも手を回してはいるだろうが、騎士団に比べればその戦力は僅かなものだ。


「騎士団の代わりに都市の見回りをしているのは、よほど善良な冒険者のみ。やってそうなのは、アイツくらいか。……邪魔だな、上手く誘導して向こうに行かせるのが一番なんだが、さてどうするか……」


男は思考を巡らせながら、悠々と廊下を進む。


屋敷の主の姿となった男を偽者と気付く者はおらず、息子夫婦と執事とメイドたちは書斎で何が起こったかも知らないまま馬車に乗り込んで出発する男を見送り、あとに続いてそれぞれ馬を走らせるのだった。



「やっぱりあの要塞はアンタの差し金か」

「『泰山公』が手懐けた中でも特大のを連れてきた。驚いたか? 同士よ」

「ああ、前振りもなく顔出ししたのも含めてな……」



馬車の中で、なぜか先に乗っている人物との対面に、男は声を出して驚かなかった自分を誉めた。

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