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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第九十七話「動く要塞の竜」「世界が告げるもの」

要塞竜フォートレスドラゴンの襲来で王都に住まう人々は大慌てで避難を始めた。そのドラゴンのことを知らずとも、迫る魔獣が『災害級』だと言われればどれだけ危険か分かるだろう。


『サザール騎士団』を束ねるシム団長は、他の三つの騎士団───『アダマス騎士団』、『ガタノゾア騎士団』、『サイエス騎士団』の団長たちと手短に作戦会議を開き、どう対応するかを検討。


同時に討伐の準備を進めつつ、偵察班を中心として各騎士団から数名ずつ選んで、先遣隊として先に出発した。



『オウカ、今回は別行動しよう。『野狐』を使えばお前がサポートできる範囲はかなり広い。リソースを俺にだけ使うのは宝の持ち腐れだ、他のみんなに使った方が良い。何かあったら『デコイ』で知らせるからよ』



そう言って、私の返事も待たずにカイトは先遣隊に加わって行ってしまった。


彼の言うことは分かる。今は一刻も早く準備を終わらせて討伐に向かいたい。『野狐』たちを使えば準備にかかる時間は大きく短縮できるし、微々たるものであっても本隊全体をサポートするというのは継戦力に大きな影響を与えるだろう。


でも、この時の私は朝に感じた時以上の不安を感じていた。この戦いで何か……とても良くないことが起こると、私の中で世界がハッキリと告げていたから───。





出発の準備が終わったところで、シム団長が作戦会議から戻ってきて本隊全員に今回の作戦が発表された。



要塞竜フォートレスドラゴンは建材を鎧のように纏う性質から防御力が高く、それ故に長期戦が予想される。そして仮の砦を作って迎撃したとしても、その砦を破壊されれば新たな鎧になってしまうからこれは避けたい。


そこで、初手から最大出力による攻撃で意識をこちらに向けさせ進行ルートをずらし、王都の西側にある大きな峡谷に誘導。


巨体が動くには不向きな場所な為に反撃も減るだろうから、そこをあらゆる方向から集中攻撃して鎧を剥ぎ討伐するという、休憩は最低限の超過酷な作戦となった。


「全員、出るぞ!!」


シム団長の声と共に馬を走らせ、避難する人々に応援されながら、私たち本隊は本来よりも早い時間で出発。馬に体力増強の薬を飲ませて全力で走り、先遣隊と合流する場所に着いた時にはもう夜になっていた。


「早かったですね」

「優秀な部下がいるからな。ヤツは今、どうなってる?」

「そちらの、確かカイト……でしたか、彼を含めた数名が目標の見張りをしています。あとはこちらの地図を見て下さい。攻撃されないようにしながらも駆け回って周辺の状況を見てきました。それで作戦は?」

「かなりブラックな作戦だぞ」

「マジですか……」


先遣隊の何人かはまだ戻っておらず、一先ずは先遣隊の指揮をしていた『アダマス騎士団』の騎士に作戦が伝えられ、作戦開始は明日にして今日はこのまま野営することになった。


結局、その日はカイトは戻って来ることはなく、大丈夫だろうかと不安に思いながら一人寂しく眠りにつき、



「───シム団長!! 偵察していた者たちが要塞竜フォートレスドラゴンの攻撃に合い、死者が出たと報告がっ!!」

「なんだと!?」



そんな知らせと共に朝を迎えた。



報告によると『サイエス騎士団』が『ガタノゾア騎士団』と共同で開発した大型弩砲という兵器がブランドール砦にて試験的に運用していたのだが、要塞竜フォートレスドラゴンの出現で破壊されたかと思いきや、使用可能な状態で鎧となった建材の中に紛れていたという。


要塞竜フォートレスドラゴンの見張りをしていた騎士たちがそれに気づいた時、大型弩砲が勝手に動き出し、こちらを狙って魔力で形成された極太の矢を発射。直撃はしなかったものの、至近弾による爆発の衝撃で死傷者が出たと。


「いち……早く報告しようと、足に自信がある自分が……今、動ける者で死傷者たちを担いで、退避……しています……」


息も絶え絶えで合流場所まで走ってきたのは、先遣隊として先に出発し、夜通しで見張りをしていた偵察班の騎士の一人だ。


「カイトは!? カイトは無事なの!?」

「……彼なら、無事です。身体能力が特化型で脚力強化持ちですから、攻撃された後からでも回避が間に合いました……自分はそれで彼に助けられたんです。あとシム団長、彼から伝言です」

「おう、聞かせろ」

「『目標を追跡しながら兵器の破壊を試みる』と」


それを聞いていた全員が息をのんだ。


「無茶だ!! あの兵器は高い威力を発揮しつつそれに耐えうる強度を追求したものだ、たった一人で破壊だなんて……」

「……勝手に動き出したのは、要塞竜フォートレスドラゴンが発する魔力が原因だろう。砦の建材を纏う為に魔力を常に発し続けている。恐らくその魔力が兵器に流れ込んで充填されているんだ」

「完全に動く砦だな。そんなのを相手に、アイツが一人で?」


信じられない、と皆が言う。


砦を相手に単身で挑むのは常識が通じない化け物か愚か者がすることだ。


そしてカイトは化け物でも愚か者でもない。


自分がどれだけ無茶で無謀なことをしているか、理解できないような人じゃない。


「ねえシム、私たちも早く移動しましょう。今はカイト君の無事を祈るしかないわ」

「そう、だな。……それにアイツがなんの考えも無しに突っ込むような馬鹿じゃないってことは、オレたちがよく分かってる」


ここであれこれ言ってても意味がない、とアーゼス副団長がシム団長に言う。そして『サザール騎士団』の全員が頷いた。私も、今すぐにでも飛び出して行きたい衝動を必死に抑えて、無策で行動しない彼が無茶無謀なことをしたのには何か考えがあるのだ、だからきっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。


「先遣隊のお陰で目標が今どのあたりにいるのか予測出来ている。まあ、かなりのデカさだから直ぐに見つかるだろうがな。オレたちはオレたちでやることをやるだけだ、派手にぶちかます!!」

「退避中の負傷者の回収は私が行くわね。医療班から何人か、一緒に来てくれる? それから貴方も疲れてるとこ悪いけど、退避先の場所まで道案内をお願いするわ」

「了解です……!!」


シム団長が本隊を、アーゼス副団長が医療班数名を率いて、それぞれ移動を開始する。


(カイト……大丈夫だよね?)


思わず空を見上げて要塞竜(フォートレスドラゴン)を追跡しているであろう相棒の顔を思い浮かべる。


 ───違う、隊舎で彼と別れた時から感じている不安の正体は彼との別離ではない。それだけは分かる。私の中の世界が告げている『良くないこと』……これは、私に対してだけ、ううん……これはもっと広範囲で、多くの人々に対して起こることだ……


獣人としての直感が不安の正体に当たりをつけ、恐怖で背筋が震える。


(させない、私が守るんだ……騎士団の皆は私にとって家族も同然だから。もう皆に守られる妹でも娘でもないし、あの日に助けられた孤児でもない!! 私はオウカ・ココノエ。『サザール騎士団』の騎士なんだから!!)


恐怖に心が負けないよう歯を食い縛り、そう心を奮い立たせて、私は本隊に遅れないよう馬を走らせた。




■■■




「くっそ、どんだけ頑丈なんだよあのバリスタは……」


シューッと長時間熱した鉄のように真っ赤に輝く銃身部分のみを切り離す。


「レールガン五発撃ってやっとバリスタ一つ破壊か。いやまあ、五発中四発ハズしたから、これは俺が下手なだけなんだけどよ」


新たに召喚したメタリックな長い銃身を取り付けて引き金近くにあるボタンを押してガッチリ固定。ガチャンガチャンと内部で機械が動く音がして、最後にピコーンと銃そのものが僅かに赤く光る。


「しっかしデカイな、流石は『災害級』。武道館を二つ重ねたくらいはあるか? 砦やら城が好きで鎧みたいに纏うとか最早ヤドカリじゃねえか」


俺の目の前には、崩壊した砦をそのまま背負ったかのようなとてつもなく大きな四足歩行の竜が、一歩進むごとに地震かと思うほどの揺れを起こしながら山々を越えて悠然と突き進んでいた。


竜単体の見た目は……強いて言えば、コモドドラゴンが近いか? 肉食恐竜の中で一番有名なTがつくアイツみたいな顔をした四足歩行の恐竜だ。それが武道館に武道館を乗せましたみたいな、冗談みたいな大きさでズシンズシンと歩いている様を見ていると、テレビで特撮ヒーローに出てくる巨体メカを見ていた子供の頃みたいに、なんだか興奮してくる。


いや興奮してる場合ではないんだけどな。


「残りのバリスタは十……一歩一歩の速さと移動距離は覚えたから、振動が届かない遠距離から置きエイムでどうにかなるが、問題は───」


上空から降り注ぐ数多の極太の矢を見る。


「あれに狙われたら中々振り切れないってことくらいだな」


昨夜、夜通しでヤツの動向を見張ってた時、俺と一緒にいた騎士たちの多くが至近弾でヤられた。


なんとか俺が助け出せた一人に頼んで本隊にこのことを報告しに行かせ、俺は単騎で極太の矢を発射するバリスタの対処をすることにした。あの矢は追尾性があり避けても避けても、どこかに当たるまでこちらを追い続けるもんだから、その対処に手間取って中々バリスタ本体の破壊に移れなかったのだ。


それに破壊力も兵器としては十分過ぎるほど高く、生半可な防御や迎撃では無意味ときた。なんてモンを作ってくれやがった、と開発した奴らに文句を言いたい。


「でもまあ、バリスタの破壊は()()()がやるべき仕事であり、試練を乗り越える為に必要なこと。後のことは考えず全力で破壊活動させてもらおうじゃねえか!!」


迫る極太の矢に対して敢えて前進する。


「分かったことは、どれだけ追尾性があってもそこまでふざけた軌道はしないということ。つまり───」


即死級の攻撃に肉体が『死』を予感。それがトリガーとなり、俺の脚力が二段階上昇する。


【脚力強化:B→S】


周りの木々を足場にして立体的に動き、極太の矢の軌道を変化させ、生まれた隙間を通り抜ける。矢は弧を描きながら俺の背中を追ってくる。


「そう、その軌道こそが、俺が今からやることが成功すると断言出来る何よりもの証拠となる!!」


大きな岩を踏みつけ、跳躍。Sランクにまで強化された脚力で俺の体は大きく飛び上がり、要塞竜(フォートレスドラゴン)の前足の付け根辺りにある、まだ破壊していないバリスタの真上に着地。まだ追ってくる矢を睨み付けてタイミングを合わせて、


「ここで、跳ぶ!!」


矢が当たる直前で再び跳躍。俺の予想通り、矢は曲がりきれずにバリスタへと命中し、大爆発を起こした。



『───────────!!!!』



聞いてて不気味に感じる要塞竜(フォートレスドラゴン)の悲鳴が響く。


「おっ、ラッキー。爆発で鎧の一部が剥がれたな。このやり方ならバリスタを破壊しつつ鎧も削れる。心労がすごいから正直やりたくないが、レールガンでやるよりは時短になるからな。仕方ない」


懐から取り出した一錠の薬を噛み砕いて飲み込む。


簡単に言えば興奮剤だ。五感がより研ぎ澄まされ、思考がちょっと荒っぽくなる代わりに、乱用しようものなら副作用で廃人になるから気を付けてなければいけない。


あまりこういうのには頼りたくないんだが、前に出る心労を軽減するには最適だ。


「……ッシ、そんじゃあ板○サーカス・異世界バージョンの開幕といこうか!!」


さっきよりも多くの極太の矢が発射されるのを見ながら、俺は要塞竜(フォートレスドラゴン)とのスリル満点の攻防戦を始めるのだった。

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