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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第九十四話「求め、欲して」「真実を一つ識る」

「ただいまー」

「お帰り、メシなら用意してあるぞ」


オウカが部屋に帰ってきたのは日が落ちてすっかり外が暗くなった頃だった。出迎えるなり抱き付いてきたのでヨシヨシと頭を撫でると、彼女は嬉しそうに尻尾を振る。


「ルイズはどうだった?」

「すごい集中力でジズの指導を受けてた」


ジズというは、前にオウカから聞いた騎士学校から付き合いのある同期だ。今は『ガタノゾア騎士団』に所属している男で、ルイズのことを話したら快く指導する役目を引き受けてくれたとのこと。


大方、ルイズの『異端』が目当てだろう。彼は魔法の中でも『召喚魔法』を専門に研究しているらしいから、自分の研究に役立てようとしているのかもな。


「一番の問題はルイズちゃんの魔力量。『異端』を召喚、この世界に留まらせる為の維持、それから戦闘で魔力を持っていかれることも考えると、それに必要な量はかなりのものになる。でも今の彼女にはそれが無い」

「なるほどな、今の時点でなにか工夫できることはあったのか?」

「今、召喚できる『異端』のジュリアンが体の大きさを自由に変更出来るみたいなの。そして体を小さくしたら、その分だけ必要な魔力は少なくなる……まあ、それでも普通の『召喚魔法』よりは消耗するみたい」


へえ、最初に引き当てたにしては良いヤツだったみたいだな。そういう融通が利かないヤツだったら、そんな工夫も出来なかった。


「小さくなっても強さはBランクくらいはあって維持できるのは十分、戦わせると五分が限界。それを超過するとルイズちゃんの生命力を吸われて危険なことになる」


あー、そういえば、初めて召喚した時は吐血したんだったな。加減が分からずに暴れさせて、魔力どころか生命力まで一気に持っていかれたからだったとかそんなところか。


「でも解決すべきことがハッキリしているだけ良かったか。魔力量が増えれば、そのジュリアンで存分に戦わせられるんだろ?」

「増える方法はあるけど直ぐに倍になったりはしないよ」

「分かってる。コツコツ地道に、な」


食堂から持ってきた二人分の料理を食べながら今日あったことを話す。


哨戒任務のことを聞かれたが、ランクは言わずに熊と猪が出たとしか言わなかったのに、直ぐ何があったか理解して怪我は無いかと詰め寄られた。あと、服を剥かれかけたので全力で止めた。


「んで……レンは『冒険者ギルド』で昇級の手続きに追われたみたいだ。Aランクとなるとこれまで以上に責任がつきまとう。アイツなりに要望もあるだろうし、双方での意見交換は不可避だ」

「正式な発表はまだ先なんだよね。レンくんがAランクかぁ、二つ名とか付くのかな」

「それも込みで、ギルドマスターと話し合ったんじゃないか? 本人は嫌がりそうだけどな」


なんてことを言いながら食べ進め、二人揃ってごちそうさまと完食。部屋にはキッチンが無い仕様なんで、空いた食器は食堂まで持っていく必要がある。


「そうだ、俺はこれから外出して朝帰りになるから先に寝てていいぞ」

「えっ……」


食器を重ねながら、寝間着に着替える為に寝室に入ったオウカへと伝える。すると寝室から出てきた彼女から、あまり聞いたことがないほどに、物凄く悲し気な反応が返ってきた。


「カイト、一緒に寝ない、の……?」


耳が垂れ、尻尾は微動だにせず、フルフルと震えながら聞いてくるオウカ。


「いや、その捨てられた小動物みたいな顔されてもな、俺にもまだやることが色々あって……いや分かった、分かりました、また埋め合わせするから、なんでもお前の言うこと聞くから。今夜だけは許してくれ、なっ?」

「…………………。…………………分かった」


長い間があった後に渋々許してくれた。


「次の休み、覚悟しておいて」

「はい……」


肩に置かれたオウカの手のなんと重いことか。

ごめんな、ほんっとにごめんな。


「じゃ、じゃあ……行ってくる。食器は持っていくから」

「ん……気を付けてね」


枕をギューッと抱き締めながら小さな声で見送るオウカ。その姿はまるで仕事に行く親を寂しく見つめる子供のようで、


「……………はぁ」


これで許してくれるとは思っていないが、謝罪の意味も込めて、俺はオウカを抱き寄せてその頭にキスをした。


「あっ───ふふ……なんだかこれ、好き……」

「そうか? なら良かった」


まだ意味は分からないか。でも少しは機嫌が直ったようだな、良かった良かった。


「じゃあな」


このままだと名残惜しくなるので俺は半ば逃げるように自室を出るのだった。





「……プリセットBに変更」


【プリセットB『レイダー』に変更します】


いつも羽織っていたマントに、胸当て、肩や肘を保護するプロテクターなども全て取っ払い、動きやすさ重視の姿になる。


この『黒羽(スキン)』は他のそれと比べて、細かくオプション変更できるから好きなんだよな。見た目とこの仕様に一目惚れして課金からの即購入したのを思い出す。


(……王宮の構造、近衛騎士がやっている夜間の見回りの巡回ルート、今の時間も人がいるエリア、そしてお嬢に教えてもらった隠し通路───今だけはこれら全てを疑い、信用しない)


別にお嬢を端から信用していない訳じゃない。


彼女とは良い関係を築けている。


隠し通路だって彼女が直々に案内してくれたし、口から出る言葉の全てに嘘はない。そう、()()()()


(知りたいのなら俺が直々に調べるべき……今はこの感覚を、なによりも信用する)


そして俺は王宮内部への侵入を開始した。


ここからは全て俺の五感と転生して得た能力が頼りだ。


前世でも、こんなリスクがあり過ぎるような馬鹿なことはやったことがない───バレたら死ぬと、そう思った方がいい。


【脚力強化:B→S】


「ハッ───」


……この時の俺はよほど集中してたんだろうな。もしくは内心では目茶苦茶ビビってて必死だったのか。


バレたら死ぬと本気で思い込み、今の状況を危機的なものと体は判断したようだ。脚力がえげつないくらいに強化されてやがる。


(へえ、これでSに。……脚力を強化する条件である危機的状況がどこまでの程度を差すのか、検証しないとな……)


十メートルはある塀を軽々と飛び越えたことにちょっと興奮する。


周囲に近衛騎士がいないことを確認して音をたてずに扉を開けて屋内へ。


目指すは国王がいる最上階の部屋。





「…………なーんか、変だな」


廊下を走り、階段を駆け上がり、途中から脚力を活かして飛び越えて、そして最上階に上がったところで思わず呟く。


見張りが、一人もいないのだ。ここに来るまでの間も人がいる気配が全くしなかった。


あまりにも静かすぎる。


(非常時に備えて待機している近衛騎士やメイドがいない。国王がいるはずの部屋の前にも誰もいない、どういうことだ?)


立派な装飾が施された扉の前まで来て、まさか俺がここに来るのがバレているのではと一歩引いた時、


「ッ!?」


ガチャっとドアノブが回った。


(待ち構えていた!? チッ、逃げ───)

「どうか、お待ち下さい。貴方を捕らえたりはしませんので……」


僅かに開けられた扉の向こうから話しかけられた。


声は女性のものだ。優しくも、どこか怯えているような声音。


お嬢はこんな丁寧な話し方はしない。ましてやカトリーナでもない。そうなると、答えは───



「……レティシア女王陛下、ですか?」

「はい。貴方のことはジブリールから聞いています、偵察騎士カイトですね。どうぞ、中へ」



完全に扉が開かれ、部屋から出てきた女性───この国の女王であるレティシア様はそう言って俺を部屋に入るよう促した。


……部屋の中は結構広かった。


とても豪華で、装飾や家具はどれも超がつく一流の職人が出掛けたものだろうし、防犯にも気をつかって部屋のあちこちに魔法が仕掛けられているに違いない。


おまけにこの身体に突き刺さるような、圧を感じる鋭い複数の視線は彼女の護衛か。天井に、収納棚の隙間、壁にかけられた絵画と……まあ三人はいるか。


「目力が強すぎて、場所を悟られることだけが唯一の欠点ですが……とても優秀な子達です」


俺の目の動きに気付いてレティシア様は苦笑いを浮かべる。


「大丈夫ですよ。こちらから何もしなければこの者は敵対しません、外で待ってて下さい」


軽く手を叩いてそう言うと視線が感じなくなった。ただ部屋の外、扉の向こうからは変わらず圧力が押し寄せてくる。……うん、強烈な欠点だが、脅して有利に話し合いをするなら有効な手の一つだ。


「……俺がここに来ることが分かっていたんですか?」

「護衛の一人が、日中この王宮を観察している男がいると知らせてくれました。そしてジブリールから、たぶん今夜忍び込んで来る、その男は自分の味方だというので折角なので会ってみようかと……」

「わざと警備を手薄にした、と」

「はい」


遠目から人の出入りを見てただけなんだけどそれで気付かれるとは思わなかった。あとお嬢め、なんで俺が今夜忍び込むと分かったんだ? お嬢の『根』に触れた訳でもないのに……。


「……それで、貴方はどういった用件でここに来たのでしょう。非武装なところを見ると、王族の暗殺という訳ではなさそうですが」


俺の頭から足まで見てレティシア様が問う。


「アレクシス国王陛下に直接会って話をしたかっただけですよ」


俺は素直に答えることにした。部屋の外からレティシア様の護衛が、嘘は許さんと圧を放っていて、脚力強化がまだ継続してるくらいに身の危険を感じてるからだ。


「先日拘束された勇者の後ろ楯として、数々の悪行を許しただけでなく、臣下の不満を金で黙らせた。そんな人物がまさか何もないなんてことはないはずだ」

「それは……」

「それから国の外で起きている、帝国と連合の戦争についても……まるで興味がないように、開戦してから一度も国王からの発言は一つもないと聞く」


国王の妻であるレティシア様なら何か知っているはず。それを知りたい。それが気掛かりだ。手が届きつつある答え欲しさに、俺がこれまで彼に抱いてきた疑問を彼女にぶつけていく。


「俺は転生者です」

「っ!?」


何かを得るには対価が必要。だからこそ、俺は素性だって明かす。


「分かるでしょう? 勇者と国王のせいでこの国には少なからず不満があります、そして不満は自分の手でどうにかしたい性格です。だからレティシア様、教えていただけませんか?」

「不満は自分の手で、ですか。厄介な性格ですね……」


我ながらそう思う。


「───分かりました、貴方の疑問に答えましょう」


そうしてレティシア様は窓から見える城下を眺めながら答えてくれた。









「…………なにぃ?!」

「「「レティシア様!!」」」


彼女から語られたのは衝撃的な内容で、思わず素が出てしまった。そしてその声量に護衛の方々が反応してあっさり組伏せられたのは、ここだけの話だ。


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