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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第八十四話「ここまでは予定通り」「悪い人だねカイトは」

異法による暴走には段階がある。


先ずは第一段階。これは直前に感情が大きく振りきれることで、感情を異法の力に変換された際に力が強大になりすぎたあまり制御不能となり、体の一部が変化し半狂乱状態となる状態。


獣のように凶暴になるけどまだ他者の声に反応できる程度には意識はある状態で、主に精神面で未熟な若者が戦場で陥りやすく、気絶させたり異法の力を使い果たせることで元に戻れる可能性がある。


だがその状態でも手も足もでないほど強力な存在となる為に対処が困難で、多くの命を犠牲にしてなんとか元に戻すよりは、少数の命で道連れにして殺してしまった方が被害が少なくなる。



次に第二段階。第一段階の状態から更になんらかの要因で感情が膨れ上がることで、異法がその者の感情を体言するかのように全身を怪物のように変化させ、完全に人ではなくなってしまう状態。


異法を扱う者にとって最悪の末路とされ、この状態になると第一段階のように元に戻すことが不可能となる。


たった一人でも第二段階に陥ると、街一つ簡単に地図から消してしまうほどの存在になってしまうので、最優先討伐対象として討伐しなければならなくなる。


もちろん犠牲者無しでは討伐できず、軍隊を総動員しても半分生き残れるかどうかというくらいだ。そうなっては困る為に、第二段階になる前に第一段階に陥った者は元に戻すことはせず、即刻討伐するべきとされている。



 ───そして今回、僕は()()()の第一段階へと陥った。



「ゥ……あア───」


気がつくと僕は壁に背中を預けて地面に座っている態勢だった。


「そっ……か、僕は、また……」


酷い頭痛に耐えながら意識を失う前の記憶を呼び起こして大方察した。


カイトさんと戦って、いきなりルイズが現れてカイトさんの銃が彼女に向けられた時、僕の中で何かが切れたんだ。


大きくなった感情はそのまま異法の力に変換され、制御出来なくなるほどの力になってそれに呑まれ暴走。第一段階に陥った……。


「そうだ、ルイズは……?」


立ち上がって辺りを見回す。


地下室は半壊し、天井が崩れ落ちている。そして離れたところに蒼く輝く大剣を握ったまま、瓦礫の上に倒れているカイトさんを見つけた。


あの大剣と僕の『月夜祓(つくよのはら)』が衝突して周りもろとも吹き飛んだってことかな。銃と爆弾しか無いと思ってたけど、あんなものまで持っていたなんて。


(勇者が使っていた聖剣や魔剣と比べて格は下のように見える。でも普通の武器じゃない、宝剣の類い……?)


この人は本当に底が見えない。


出鼻をくじかれ、彼の流れに持っていかれて受けに回された。攻めに転じても謎の防御手段で必殺の一撃であっても殺せない上に、暴走状態の僕を衝撃で吹き飛ばして気絶させられる威力を持つ大剣を持っている。


彼の能力は銃や道具の召喚なのは分かっている。でも召喚する物の性能や用途があまりに多種多様で、こちらの対策が間に合わない。


(頭を怪我しているようだけど軽症だ。息もある。直に目を覚ますかな)


一先ず生きていることに安堵する。しかし、いくら探してもルイズの姿はない。でもその代わりに手足がボロボロの人形が地面に転がっていた。


「これ……ルイズの姿に似せてある。等身大人形って言うのかな、まさかカイトさんが銃を向けたのはルイズじゃなくて、この人形?」


薄暗い地下室で、押され気味で、精神的に余裕が無かったあの状況で、僕はこの人形を本人と勘違いしたのか。


「……まんまと騙されたわけだ。勘違いしても無理はない───なんて思わない、これは僕の未熟さが招いた結果だ」


恐らく、三度目はない。


理由は分からなくても二度も第一段階を経験したこの体が理解している。


もしまた同じことが起きれば、僕はその瞬間から人の道を外れてしまう、と。


「それだけは嫌だ。僕はルイズの従者、ルイズを守る刃だ。この手で彼女を傷つけたくない。もっと、強くならなくちゃ……強くなって……人として最後まで生きるんだ……」


自分に言い聞かせるように言って振り返る。


視線の先には大きな扉。確かこの先に薬草が品薄となった答えがあると、カイトさんは言っていた。


「一人で行くか、でもルイズとロルフが今どんな状況になってるか気になる……」


カイトさんを叩き起こすか? と考えているとぽてんと肩に何か乗った感触がした。


『キュイ』

「わっ……きみはオウカさんの使い魔の『野狐』?」

『キュウ!!』


肩にいたのは小さな子狐で、僕の言葉に可愛らしい声で鳴きながら頷いた。


『キュッ』


子狐は顔を上げ喉元を見せる。見ると首に何か捻った紐のようなものを巻き付けていて、テシテシとそれを前足で叩く。えっと、取れってことかな?


「これは……細く折った紙?」


広げてみるとそこにはこの世界の字で、でも見覚えのある書き方でこう書かれていた。



『ルイズとロルフはこちらで保護している。俺たちの依頼主であり、薬草品薄の元凶の勇者一行が奥にいるからさっさと倒しに行け。女二人が邪魔するかもしれないがそっちには視線を合わせるな、勇者だけを見て戦っていろ。あとで俺も加わって女二人を抑えるんで、景気よくあのクソ野郎を吹っ飛ばしてくれよな』



(最初から裏切る(その)つもりだったんじゃないですかカイトさぁん!!)


何が上からの命令には逆らえない、ですか。従ってますよという体で僕たちと戦っておいて、ちょうどいいところで裏切る気だったよあの人。というか元凶って勇者なんだ!? いや、なんか言われてみるとしっくり来るけども!!


「……裏切るつもりだったわりには、結構本気で待ち構えていたような気がしないでもないけど、ルイズたちは無事ってことだよね」


きっと僕との戦闘でカイトさんが倒された時に備えて、予めこの手紙を用意していたんだろう。そして『野狐』は手紙を届けるための配達員だったってわけだ。


「お役目ごくろうさま。僕は奥に行くよ」

『キュウ!!』


指先で頭を撫でてあげると『野狐』は嬉しそうに鳴いてから姿を消した。


「…………うん、心残りは無し。行くとしよう」


あとでカイトさんにはたくさんの文句を言うとして今は勇者だ。


「この扉、何か仕掛けがある……魔法で施錠してあるのかな。仕方ない……」


奥へと続く大扉へ近づき、そこそこの力を込めて『月夜祓(つくよのはら)』を振るう。刃が当たった瞬間に少し硬めだけど弾力性のある不思議な手応えと共に弾かれた。


「やっぱり、魔法か。衝撃を一旦吸収した後にそのまま返す感じだね。なるほど、威力が大きければ大きいほど手痛いと……でも、そんなのは関係ない」


さっきの一刀はどんな形であれわざと失敗するようただ振っただけ。これから使う強化異法の発動条件と言えばいいのかな、次の一刀を強化するための失敗だ。


「"捲土重来"……これこそ、汝を打ち破る真の一刀なり」


刀身が紅く染まる。


狙うは防御魔法が施された扉の表面。


扉そのものか、表面か。どちらにせよ扉に傷をつければこの衝撃を返す魔法は解除できる。



『───いい、レン? 魔法はね、発動の際に展開される魔法陣に綻びがあると魔法が発動できないの。結界や、城壁を強化するような設置型魔法の最大の弱点と言えるわね』



以前、ルイズから教わったことを思い出す。


要は機械の配線のようなものだ。どこか一本でも切れていたら作動しなくなるように、魔法陣も小さな綻びがあるだけで魔法として発動できなくなる。


(そして起点になってる魔法陣は大抵は隠してある。でもその隠そうとする力や、魔法陣から出る力───即ち魔力の濃さと薄さからだいたいの場所は分かる!!)


異法と似て非なる、この世界の魔法。その力の源たる魔力はしっかりと感じ取れる。


(観える……扉の中心から全体に魔力が行き渡っている、つまり魔法陣はこの中心。そして"捲土重来"によって強化したこの一刀で───)

「は、ああァァァ!!」


振り下ろした一刀は先ほどの弾力性のある手応えを感じながらも、弾かれることも、勢いが衰えることもなく扉の表面を浅く斬り進んでそのまま振りきる。


扉に施された魔法を破ったことを確信する。


魔力が一番濃い場所からはもう魔力を一切感じない。狙い通り、防御魔法を斬り破り、魔法陣を無力化できたようだ。


「でもこの強化異法、あまり好きじゃないんだよね。発動条件の一撃の失敗が辛すぎる。威力だけなら"天撃腕(あまうつかいな)"に匹敵するのはいいけど、よほど余裕がない限り戦闘で攻撃を失敗するなんて命取りだ……」


ユキナさんに使ったらどうなるか、なんて想像がつく。


前に手合わせしてもらった時に彼女は"天撃腕(あまうつかいな)"を知った。だから次に手合わせする時にはもう完璧に受けるか、流されるようになっているはず。あの技を対処出来るようになったなら、同威力のこの強化異法だって使ったところで意味はないってことだ。


それに殆んどの攻撃を抜刀で対処されるから"捲土重来"の条件である攻撃の失敗は直ぐに達成できるけど次に繋がらない。


「良い使いどころ模索しようかな……」


そう言いながら扉に手を当てる。


「む……っ」


元々重いのか、劣化のせいか、かなり力を込めて押すことでなんとか開いた。両側の壁に取り付けられた松明で照らされた通路が奥へと続いている。


「待ってますよ、カイトさん」


最後にまだ目を覚まさない彼に声をかけて僕は奥へと走り出す。



……また、勇者と戦うのなら、やはり『炎環ノ水月』にするべきか。通路を走り抜けながら考える。


武闘会の時のような怒りが今はない。あの時に思いっきり怒ったからだろうか、もしくは直接対峙した時にまた怒りが込み上げてくるのだろうか。いや、二度目の暴走をした後だ。怒りの感情を使うのは少し怖い。


そうなると『蒼白ノ水月』か、()()()()()で戦いつつ、感情が高ぶった時には強化異法の他にも攻撃異法や防御異法も使って上手く心を制御するのが得策か……。


「無念無想、泰然自若、明鏡止水───そこまではいかなくとも何事にも揺るがない心でいたい。揺らぐな、そして強く在れ。最後まで人として……『弟切(おとぎり) (れん)』として在り続けろ……!!」


通路を抜けた先。カイトさんと戦った地下室よりも更に広い空間に出る。



「───やあ」



その人は初めて会った時と同じように、聖剣と魔剣を手に不敵な笑みを浮かべながら僕を迎えた。


「待っていたよ、レン。見たところ、以前よりも消耗している……どうやらあの騎士は最低限の仕事はしたようだ」

「ええ……随分と手こずりましたよ、以前のあなたよりもね」

「───へえ……?」


僅かに苛立ちを見せるカムイ。


「それよりもあなたのの後ろにある物の説明をしてもらえますか。あんなに溜め込んで、いったい何を企んでいるんです?」


カムイの後ろを指差す。その先には、大量の大きな木箱が積み重なっており隙間からは薬草がはみ出ている。あまりにも多い。これらを全て市場に出せば品薄なんて直ぐ解決するほどにある。


「薬草の品薄の原因はあなただったんですね」

「なんのことかな、これは教会側が保管しているだけさ」


まあ、素直に認めるわけないよね。


「質問しても無駄なのは分かりきってますし、やはりここは……戦いの中でその剣に問い質すとしましょうか」

「おや、もう少し問答してもいいだろうに気が早いな、これだから冒険者は苦手なんだ。野蛮すぎる。ただ、今の俺は君を早く倒したくてウズウズしていたところでね……」


歩を進めて距離を詰める。


「加減はしませんよ」

「その台詞、そのままお返しするよ。武闘会のような縛りは今はないのだからね!!」


カムイが叫び、互いの得物が衝突する。


こうして僕とカムイの二度目となる戦いが誰にも知られない地下で始まった。……そしてこの戦いが実は仕組まれたものだったとは、僕も、カムイでさえも知らなかった。

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