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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
序章
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第八話「屍のようだ」「死んでねえ」

夜、シム団長に呼び出された私は会議室に向かった。


「オウカ・ココノエ、入ります」

「おっ、来たな。とりあえず座れ」


制服姿のシム団長がわくわくした様子で私に座るよう促す。でもその前に、もうシム団長の隣でやや眠たそうにしている鎧姿の女性に頭を下げる。


「アーゼス副団長、お疲れ様です。戻ってきたばかりですか?」

「ええ、少し前にね。貴女も今日はお疲れ様、最後の電撃はナイスだったわ」

「ありがとうございます」


『サザール騎士団』副団長、アーゼス・カトリエル。


女性でありながら実力のみで『サザール騎士団』への入団権利を勝ち取り、その後もこれと言った負傷もなく戦い続けて副団長までのしあがった英傑。シム団長とは同期で長い付き合いらしい。


容姿は同じ女性の私から見ても羨むほどで、月のような金色の瞳に、綺麗に手入れされた赤い髪を頭の後ろで一本に束ねていてる。私含め女性騎士からは母や姉のような存在としてとても頼りになる人だ。


ちなみにシム団長は緑色の目以外の特徴としては、大柄で最早筋肉の塊、髪はなく、長年の戦いで毛根ごと消えたと見える。


「なんか、失礼なこと考えてないか?」

「気のせいかと」

「んー、まあいいか。お前を呼んだのはカイトのことについてだ」


やはりか、と思った。


「シムからカイト君のステータスや入団させることについて聞いたわ。敵になったら厄介な存在になるのは間違いない、なら入団させてでも味方に付けておきたい。それが私の見解よ」

「シム団長のやり方に関しては……」

「止めても無駄」

「あ、はい」


アーゼス副団長という同期からもそう思われていて、かつ止める意志が無いということは、もう騎士団の中でシム団長を止められる者はいない。というか既にカイトの書類が王宮の執務室に紛れてしまっているから、止める以前に完全に手遅れである。


「カイトについてですが……シム団長に言われた通り、どのくらい動けるか確かめてみました。能力は私一人で見るには危険かと思ったので確かめるのはBランクだという【身体能力】のみにしました」


呼び出された時、カイトのことを聞かれると予測した私は予め一枚の書類を持ってきていた。それを二人に見せる。


「これが解析器でカイトの【身体能力】を詳しく調べた結果です」


その書類に書かれていたのは、


【身体能力:B】

【脚力特化型(他はCランク)】

【回避・逃走において脚力強化、強化時はAランクに上昇する】

【危機的状況下の際に脚力強化、強化時はSランクに上昇する】


「ハッハッハ!! これまた尖ったヤツが来たな!!」

「良いじゃない、特化型は私好みよ」


【身体能力】には二つの種類がある。


多少の差はあれど短所や欠点が特に無くどの分野でも力を発揮できる万能型。


そして、明確な弱みがある代わりに一つだけずば抜けた力を発揮する特化型。


万能型はどこでも一定の成果が出せるので人受けが良い。平民や冒険者のほとんどがこれだ。ランクがBともなればどんな局面でも対応できるだろうし、Aまでいくと大した弱点の無い高火力高耐久みたいな脅威になりうる。


対して、特化型は一つの分野でなら万能型を凌ぐ。しかしそれ以外では同じランクどころか低ランクの万能型にも劣るという弱みがある。その代わりに特定の条件で何かしらの強化を得られる。


カイトは普段の脚力はB、回避・逃走時にA、危機的状況下でSという特化型の中でも二段階強化という破格の強化を持つ代わりに他は申し訳程度のCランク。……でも、たぶん頑丈さは低めだと思う。威力控えめの魔弾(バレット)を受けてすごい痛がってたし。


「この強化条件と、脚力以外の低さを足し引きしてのBランクということね」

「オレがステータスを調べた時はここまで詳細にやってなかったからなぁ……」

「カイトから聞きましたが、彼のスタイルは遠距離からの攻撃が主で、相手が近付いてきたら直ぐ逃げるそうです。ここで脚力強化が入るので彼が戦闘中に行動する時の脚力は実質Aランクということになりますね」

「これ本当にBランクでいいのか? 解析器、壊れてないか?」

「正常ですね」


常時Aランクなのに実際はBランクなんて詐欺もいいとこだと思う。


「え、これ能力はまだ詳しくは分からないのよね」

「あの謎の攻撃が能力によるものなのは間違いないです。武器だけでなく、なにか役立つ道具も召喚すると言ってましたし、この特化型の【身体能力】とまだ不明の能力、あと彼の職業から総合的に見てもAランク冒険者に届くかと」

「本当に敵じゃなくて良かったなあオイ!!」


喜びと安堵で言うシム団長に私も頷く。


遠距離からあの威力の攻撃をされ、近付こうにもAランクの、追い詰めたらSランクの脚力でと、逃げて離脱することに命賭けてるような【身体能力】にどうすることも出来ずに取り逃がすのが目に浮かぶ。


魔法の適正が無く、能力と逃げ足の速さに目を瞑れば他は雑魚同然だけどその長所が破格すぎる。こんなのが敵として現れたらどうなるか、なんて想像したくもない。


「それで、カイト君は?」

「ちょっとした出来心で追い詰めた時に脚力強化を発揮して……そこまでは良かったんですけど、どうもその強化が初めてのことだったのか体力が尽きて気絶しまして……客室に運びました……」


思い返すと多少なりとも罪悪感を覚える。流石に五十発はやり過ぎたかもしれない。


「そうか、それなら今日はもう起きないだろうし、カイトの能力については明日オレとアーゼスとオウカで確認しよう。みんなへの紹介は……どうせ野次馬で見に来るだろうが能力の確認後にやろう」

「構わないわ、どんな子か会ってみたいし」

「私も。同じ偵察騎士として気になります」


決まりだな、とシム団長が頷く。


「じゃあここいらで解散!! 今日はご苦労!!」

「ええ、ご苦労様。オウカちゃん、耳、大丈夫?」

「~~~~~~っ(ブンブンブン)」


アーゼス副団長が何か言ってるけどよく聞こえないので全力で首を横に振る。


「ちょっとシム!! いつも言ってるじゃない、獣人は人より耳がいいから抑えてって!!」

「お、おうぅ……気をつけているんだがなぁ、こればかりはどうしようも……」


こうして最後はシム団長がアーゼス副団長にガミガミ叱られるという締まらない終わり方になるのだった。

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