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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第七十九話「ルイズちゃんに嫌われたくない」「俺はもうレンに警戒されてるぞ」

この『オースティナント』という世界には二つの宗教がある。


一つが『神教』。この世界を創ったとされる唯一神からの教えを説き広める団体。

その神は、セグナという男の姿と、アニマという女の姿を使い分けていたとされ、そのせいなのか神は二柱であると勘違いした者が出てしまい、唯一神派と二大神派に分裂して一悶着あったとかないとか……。


そして、もう一つの『魔教』。悪魔を崇拝する者たち。血と狂気にまみれた団体を今の人々はそう呼んでいるようだ。

大昔に根絶されたと思われていたけど、『マルカ村』での一件があったこともあって世界のどこかにまだ末裔が残っているのでは、と思っている。



宗教が二つとは言っても『魔教』は最早存在しないものと判断され、忌避される、恐怖の対象だ。よって学園では、あんなものは宗教に非ず、国教である『神教』のみである、と教えられている───そうルイズが得意気に説明してくれた。


「ちょっと待って、ルイズ、学園に通ってたの?」

「これでも名門アレイスター家の才女として注目されてたのよ? ……まあ、知っての通り『召喚魔法』の才能が期待以下だったから、あっという間に落ちぶれたけどね。おまけに勇者のせいで何もかも失って、学園は自主退学という体で追い出されたわ」


あまりにも短く散々な学園生活だったわぁ、と遠い目をしながら彼女は言った。


「でも、早く終わって良かったと思ってる。学園は世界の縮図。貴族が威張り散らし、平民は頭を押さえ付けられる、実力よりも権力が支配するこの世の中とそんな変わらない、あんなところにいて何がいいのかしら」


実力よりも権力。……それは、僕がいた世界でも一緒だったな。


生まれながらの勝ち組という名の置き物。本人はたいした実力もないのに、家の権力が強いからと何事にもその人が優先される。そうして甘やかされて育った、戦場を知らない無能たちが上官となって僕らのような剣士をゴミのように使い潰す。


まるでゲームのように得意気に、退くな、進めと、子供でももう少しまともな策を考えるだろうに、愚策を繰り返し強制し無駄死にせていく。


「まともな権力者は案外少ないものだよ」

「そっちも大変だったようね……」

「どの世界も同じなんじゃないかな。人間というのは、業が深い生き物だから」

「世界が違っても人がやることは変わらない、か。過ぎた贅沢は毒にしかならないわね。脂肪とか贅肉と同じよ」

「まあなにも無いよりは、あるに越したことはないけどね。お金とかは」


なんてことを話しながら、僕はルイズとロルフを連れて、月明かりに照らされた王都の大通りを歩いていた。


「良い夜だ、心が落ち着く」


腰に差した『月夜祓』に手を当てながら呟く。


「月が好きなの?」

「好き……とはちょっと違うかな。『ニホン』では、月の光は清い力を持っていると言い伝えられているんだ」


古くから清い力、浄化の力を持つとされてきた月。その光がある夜は闇に潜む悪しきモノを祓い、静かな浄闇の夜へと変える。


月が出ている夜だけは異法を使う人々全てが心を落ち着かせられた。暴走して魔に堕ちることがなかった。その為、月は『法剣士』にとって最高のコンディションで戦える勝利の女神のようなものとして扱われている。


月夜の下、魔を祓う───故に『月夜祓(つくよのはら)』。


僕の異法武器はそういう意味を込めてで名付けた。この刀に銘を与える時に真っ先に思い浮かんだのが月だった。そして決まった時は周りから安直だと笑われたけど、言葉には力があるように、名付けたことで生じたものがあった。



『……月の名を冠するのならそれは月と同じ。その刃の輝きは月の光、その一刀にて闇夜を斬り魔を祓わんとするならば───揺らぎなき水面の如き心で、月の輝きを眼に映せ……』



名付けを終えた僕の脳裏に過ったその言葉に従って、僕は『蒼白ノ水月』という心を安定化させる境地を会得し、異法を使う上で大きなアドバンテージを得ることができた。


誰よりも魔に堕ちにくく、誰よりも優れた強化異法を以て、誰よりも速く前線を駆け抜ける。


……思えば、あの頃の僕は調子に乗りすぎていたのかもしれない。この驕りがあの結末を招いてしまった。


「……うん、色々と、善くも悪くも、なにかある時は夜空には輝く月があった」


色々と、の部分は本当に色々とあってなんて言おうか迷った。ルイズは年下だし、あまり血なまぐさい言い方はしない方がいいと思った。だけど、


「そう……まあ、あまり言いたくないことは言わなくていいわ。わたしが年下だからって気をつかって過激な表現を言いそうになったからぼかしたんでしょう?」

「よく分かったね」

「昼間の自分を殴ったのだって、あの時はわたし信じたけど、実際はあなたの中で何かがあったとわたしは見てる」

「本当に、よく分かるね……」


この小さな主人には、僕の考えはお見通しのようだ。本当に僕よりも年下なのかと疑問に思ってしまう。


「アォン」

「ロルフも分かるそうよ」

「なんでぇ?」


歩きながら僕の足にすり寄ってきたロルフ。まさかルイズだけじゃなくロルフにまでお見通しだなんて、そんなに分かりやすいかな僕って……。




「───着いたわね、教会に」

「だね」


暫く歩いて僕たちは目的地である教会の前で一度立ち止まった。王宮ほどではなくてもかなり大きい。ただ教会と呼ぶよりは、大聖堂と言った方がしっくりくる


「聞き込みで、夜中に荷馬車が何台も教会の方に行ったのを見たって人がかなりいた。その荷馬車には暗くてよく見えなかったけどどこかの商会らしきマークがあったって」

「恐らくその荷馬車に集めた薬草が入ってるんだと思うわ。そしてその薬草がなぜか教会に運ばれた……」

「カイトさんもその話をどこかで知って教会は怪しいと思って手紙に書いたんだろうね」


教会の門は開いている。というかこの門が閉まっていることはほとんど無い。

我らの神は寛容、いつでも迷える教徒を迎え入れる、みたいな意味があるって前にルイズが言ってたっけ。


「『教会下暗し』……言葉通りなら、この地下なのかしら」

「うん、どこかに地下に行ける場所があるはず。探してみよう」


周囲に人はいない。いたとしても教会の中だろう。先ずは敷地内を調べようと、僕たちは門をくぐる。


「………ん? この音は───」

「なにか聞こえたの?」

「風の音だ……」


敷地に入って直ぐ、不自然な風の音が聞こえた。隙間風のような、ヒュオオオというやや響く音だ。教会の中からじゃない。敷地のどこかに風の通り道があるんだ。


「ロルフ、この風の音がする場所分かる?」

「ワン!!」


ロルフが走り出し、そのあとを追う。


「地下への道が分かったの!?」

「これまで何度か教会の前を通ったことがあるけど、一度もこんな風の音はしなかった。ここまでちゃんと聞こえるとなると教会の中はあり得ない。確実に外、この敷地内に音の発生源がある。きっとそこが地下へと続く道だ!!」

「いや、わたしにはそんな音聞こえないんだけ───って、アレ、ほんとに聞こえるわね……」


教会の建物をぐるっと回って裏側まで来たところでロルフが止まる。そこには石材を使って作られた雨よけの屋根と壁で囲われた、地下へと続く横に広めの階段があった。


「思いっきり風の音がしてるわね……」

「建物の裏側なのはこの音を表側まで聞こえさせない為なのかな。先ずはここを調べよう。ルイズ、いつもの」

「分かってるわ───『ソル』と『スウィン』、今日もお願い」


召喚したのは神像があった洞窟の時にもいた、周囲を明るく照らす光属性の小精霊、ソル。

そして音による探知で行く先の安全性を調べる、蝙蝠のような翼をつけた闇属性の小精霊、スウィン。


『────!!』

『~~~~!?』


浮かんで並んだ光と闇の小精霊たちだったけど、お互いのことに気付くと直ぐにルイズの周りで追いかけっこを始めた。ちなみに逃げてるのはソルで、追いかけてるのがスウィンだ。


「まったく、この子たちはいつもいつも……」

「ハハハ、本当にスウィンはソルのことが好きだねえ」


いい加減鬱陶しくなったルイズが鷲掴みにして追いかけっこを強制的にやめさせた。


「スウィンはこの先の探知、ソルは光源。はい急いで!!」

『『────っっっ!!』』


怒られた小精霊たちは大慌てで自分の仕事に取りかかる。


「はぁ……行きましょう、レン」

「うん。僕が先に行く、ルイズはロルフと一緒に降りてきて」

「ワフ!!」


僕とルイズで依頼を受ける時のいつもの布陣で、先行したスウィンが何かを探知した時にいつでも動けるよう、慎重に階段を一段一段降りていく。そして同時に強まっていく、少し鼻にツンと来る草葉の匂い。


「薬草の匂いね、それに運びいれる時に落として気づかずに踏み潰したのかしら。石段のあちこちが緑色になってるわ」

「見たところまだ新しいしのもあれば、だいぶ時間が経ったのもある。何度もここに薬草を運ばなきゃ出来ない跡だ。教会はなんのために薬草を集めてるんだろう……」

「降りてみればきっと分かるわよ。───っと、スウィンが何か見つけたみたい、階段降りきった先はかなり広いわ、それから大きな扉があって…………………え?」

「ルイズ?」


スウィンから何らかの方法でこの先の情報がルイズに送られたんだろう。その内容を知ってルイズの足が止まった。その顔は信じられないといった様子で、彼女の赤い瞳が揺れている。


「待ち構え、られてる……」

「誰に? そこには誰がいるの?」

「わたしたちがよく知ってる二人よ。……今日はデートしていたはずの、ね」

「っ!? ……なるほど、つまりあの手紙は───」


繋がった。繋がってしまった。

僕たちが調査依頼を受けた後からのこと全てが。


「まんまと誘き出されたわけか。……そっか、あなたの仕込み、ですか……カイトさんっ」




Exactly(その通り)!! いやぁ、やはり厄介だな、その瞬時に答えに行き着く頭の回転の速さは。一瞬の隙を見逃さない、刹那の中に活路を見出だす剣士なら必修科目なのかなソレは?」

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