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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
78/170

第七十八話「団体の予約です、お姉ちゃん」「フフ、なら頑張って準備しないとね」


カイトさんを訪ねて隊舎まで行くと一人の騎士から手紙を渡され、しかも僕がここに来ることを分かっていたかのような内容であったことに驚いた。


(いや───これは分かっていたかのような、じゃなくて完全に分かっていたものだ)


いったいどういう経緯で知ったのかは分からないけれど。僕がサリィさんから薬草の品薄について調査をすることと、カイトさんを頼ろうと隊舎に来ることが彼には分かっていたんだ。それ以外に手紙を用意した理由がない。


更には来るのを分かっていながら、オウカさんとのデートを優先するのは彼らしいというかなんというか。……あの人デートの後に合流してくれるのかな、うーん、期待はしないでおこう。


それから、


(この『教会下暗し』……灯台の間違いって訳じゃなく、この文字通りの意味なんだ。教会の下に、何かがある……)


調査するなら夜中とご丁寧に書いてある。これはもしかしなくても、忍び込むなら夜中にってことだよね。


「お見通しってこと、かしら……。それにしてもこれは……」


ルイズを手紙を見て気づいたらしい。


「うん、場所まで書いてるし、カイトさんは僕たち以上の情報を持ってそうだ」

「デートってことはやっぱりあの二人は付き合ってるのねっ」

「あ、そっち?」


いや、確かにカイトさんとオウカさんが付き合ってても驚くよりは『やっぱり』としか言葉が出ないし、デートしてても違和感は無いけどさ。


「お似合いよね、カイトさんとオウカさん。どっちから告白したのかとか、いつから付き合ってたのかも聞きたいわねっ」

「うーん……次に会った時に、二人に聞いてみたらどうかな」

「そうね、そうするわっ!! ……お互いどんなところが好きになったのかしら、性格というか流儀が似ているのも付き合う切っ掛けになったのかもっ」


デートと聞いてルイズは少し興奮している。


女の子は恋バナが好きと聞くし、こういった話題とは今まで無縁だったから、ここぞとばかりに色々と妄想し始める。


(ルイズには同年代の友人がいない。『ギルド』に行けば彼女を可愛がる先輩の女性冒険者はいるけどみんな年上で、色恋よりは肉と金を選ぶ人ばかり。恋バナする機会に飢えてるのかなぁ……)


いつもは年齢のわりには落ち着きのある大人びた彼女だけど、たまに見せる少女特有の可愛らしさだったり、ツッコミ気質で年上(特にユキナさん)に対してもハッキリと言うことは言うところだったり。


自分の都合で僕を召喚したことへの罪悪感で一人涙を流すような、心優しく、魅力に溢れた、小さな女主人。


()()()()()()()


(……()()()()()()()()()()()()()()()。だから僕は、彼女の為なら───)




『───全テヲ■セ、全テヲ■セ───』




「ッ、喝!!」


怨念がこもったソレが何か理解して叫びながら自分の頬に拳を叩き込んで黙らせる。


「ひゃわあああああ!? えっ、ちょっ、何してるのよレン!?」

「つっ~……いや、その、顔に虫がとまってつい……」

「だからって拳はやらないでしょ、手で払うとか思い付かなかったわけ!? ああもうっ、こんなに赤くなって……」


見せなさい、と有無を言わさず詰め寄ってくるルイズ。


ルイズの身長は僕よりも低く、僕の肩くらいの高さなこともあり、どちらかが相手の身長に合わせる必要があるんだけど……。


「ルイズ、近いよ……」

「黙りなさい。まったく、どんだけ強くやったのよ。一先ずは回復……いえ冷やしてからの方がいいかしら……」


今回は頭を掴まれ、半ば強制的に前屈みにさせられた。お互いの息がかかるくらいに顔を寄せてきて、なんだか恥ずかしい気持ちになる。


「お願い、この馬鹿の頬を冷やして───『ウィズ』」


ルイズの呼び掛けと共に、冷たい風を纏った羽が生えた小さな球体が現れて、僕の頬にくっついた。


「氷属性の、小精霊……?」

「そうよ。契約した時にウィズって名前をつけたの。微弱だけど癒しの力を含んだ冷気を放つ精霊で、冷やす必要がある食料とかの運搬にはこの子のような小精霊は必要不可欠なの」

「なるほど、人がずっと氷属性の魔法で冷やしてたら疲れるしね。すごいね、きみは」


誉めながら小精霊を指先でつっつくと、嬉しいのだろうか、チリンと鈴のような音を発してユラユラ左右に揺れた。


殴った頬が冷やされ、痛みが引いてきたのを感じながら、さきほど聞こえた声を思い出す。


(参ったな……勇者と戦った日からだ、また異法が騒ぎだしてきた。まだ第一段階にも満たない、必ず『法剣士』が一度は経験して踏み台にしていく程度の雑音だけど……)


とっくの昔に、その日の内に踏みつけて乗り越えたあの声がまた湧いて出てきた。ぶり返すというのは聞いたことがない。


「…………。さて、本格的な調査は夜にして、軽く薬草を扱ってる店を回って話を聞いてみようか」


でも、ぶり返したのならまた越えるまで。今はやるべき事に集中しようと、思考を切り替える。


「それはいいけど先ずその腫れた頬を治してからよ。わたしの従者なら、どこに行っても恥ずかしくないくらいに身嗜みには気をつかいなさい。従者の怪我を放置する酷い主人だと思われたらどうするのよ」


人差し指を突きつけながら、そう言って僕を近くのベンチに座らせるルイズ。その言動に僕は笑いながら言った。


「ははっ、なんだか言い方が親みたいだね」

「あなたみたいな子を産んだ覚えはないわよッ!!」




■■■




「───ったく、あの依頼主、目を合わせるなり仕掛けてきたぞ。高価ではあったけど対策しておいて良かったな」

「うん、壁紙とかカーペットの模様も魔法効果を高める細工がしてあったし、かなり手が込んでた。……その、払わせておいてなんだけど、お金……大丈夫?」


豪華な一室から出て小声で愚痴を溢すと隣の相棒も頷く。


「いや、俺はあまり金は使わないからな。ただ貯まるよりは景気よく使った方がいいだろ。だから気にすんな。それよりあの野郎、お前の体をなめ回すように見てたよなァ……」


まるで蛇が這うように、じっくり、ゆっくりと女性の体を見てニヤリと笑うあの顔。思い出すだけで殺意が沸いてくる。


「正直、不快だった……」

「なあ今からでも依頼破棄しに殴りに行かね?」


相棒が自身を落ち着かせるように体を腕を使って抱える。その行動は恐れを表すと心理学の知人から聞かされていた俺は、さきほど受けた仕事を放ってこの拳を叩き込みたい衝動に駆られる。


「ダメだよ、これは騎士団が正式に受けた依頼。私たちが勝手に破棄出来るものじゃないんだから」

「分かってるよ。言ってみただけだ。…………さぁてと、もう気乗りしないがその正式に受けた依頼の担当を志願した身として、最低限の仕事はしないとな」

「やりづらい相手だけど、なにか策はある?」

「片方はたとえ知ってる人でも敵なら容赦しないタイプだ。気を抜いたらあっさり負けることになる。もう片方は、本人には悪いがそこまで脅威じゃない」


アイツには生半可な小細工は通用しない。


依頼主に指定された場所からして、俺たちの戦い方には不向きで真っ向勝負するしかない。そして実力的にアイツには俺と相棒で仕掛けるのが一番良いが、それでも勝負になるのは数分くらいでその後からはアイツの独壇場。


勇者を倒した実力の持ち主を相手にどれだけこちらが攻められるか……。


「まあ、依頼主からは阻止して捕らえろ、なんて言われてるが俺たちはそうする気は毛頭ない。適当なところで切り上げて、本業に移ればいい」

「それで彼らは詰み?」

「いいや。他にも二手三手は必要だ。でもそっちは別口に頼んであるから俺たちがやる必要はない」

「そっか」


俺たちは目的地である建物の前で立ち止まり、互いにグータッチする。


「許可は貰った。お出迎えの準備に取りかかろうか、オウカ」

「うん。魔改造の時間だね、カイト」


真っ向勝負するしかなくても、ちょっと手を加えれば有利不利の度合いは変わる。これから行うのは戦場的不利状況を無くす為の準備だ。完全に無くすことは出来ないだろうが、戦闘時間を少しでも延ばせればそれでいい。


「アイツらとの食事会、謝罪も兼ねて奮発して豪華にするか」

「それが良いと思う」

「だな。……悪いな、レン、ルイズ。ほんの一時だけ、悪い大人の仕事に付き合ってくれよ。あとでいっぱいウマイもん食わせてやるから」


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