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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第七十四話「Don't Think. Feel」「発音良いですね!?」




『───なんで、なんでっ、なんでそうなるんだあああああああああああああああ!!』



何度も机に頭を打ち付けているのだろう。扉の向こうからガンガンと何か叩くような音と共に叫び散らかす、我らがスキンヘッド団長。


「くらうって、これの事だったんですね……」


そして隣で耳をおさえてうずくまるレン。


「今回のはけっこう大きかったな。でも良かったな扉越しで。これが直撃だったら天井に穴を開けていた」


レンに気づかれないようこっそり付けていた耳栓を外しながら言う。


この様子なら暫くは耳がよく聴こえなくなるだろう。扉越しであろうと耳元で音爆弾をくらうようなものだからな、シム団長の大声は。


まあ、あれだけ叫ぶのも無理はないか。むしろ俺たちの報告を聞いてる時は顔に出さずにいられただけ、流石は団長と拍手したい。




『神像に、悪魔崇拝者の末裔か……。アーゼスがぶっ倒れるはずだ、アイツは子供の頃から悪魔の話が大の苦手だったからな。悪いことをしたら悪魔に食べられるぞってな』


隊舎に行きシム団長に報告すると僅かに目を見開いただけで一見平然としていた。


『それでシム団長、俺たちがやったことは……』

『向こうはお前たちを殺そうとしてきた。それも大人数で、だ。崇拝者のイカれ具合は誰もが知っているし、死兵の恐ろしさは理解している。多少の小言は出るだろうが咎められることはないはずだ』

『……だといいんですけど。一応、呼び出される準備はしておきます』

『おう。そして冒険者レン。貴殿の迅速な報告のお陰で、崇拝者が活動を再開させるのを阻止出来た。感謝する』


そう言って、シム団長は座ったままではなく、わざわざ立ち上がって頭を下げた。レンは分かりやすいくらいに狼狽える。


『い、いえっ、僕は『ギルド』の取り決め通りに早く報告しようとしただけで……』

『上級の冒険者になってくるとな、ランクと実力に物を言わせて、独断でやったり放置したりと取り決めを守らないヤツが出てくる。その点で言えば、その若さで増長しないお前は好印象だ』


確かにレンは主人であるルイズの為に勇者を相手に怒れるくらいには優しい心を持っている。とんでもない力を持っていながら、それで他者を威圧することもない。その為か『ギルド』の受付嬢たちからは高い評価と人気を得ている。


『……さて、二人は帰っていいぞ。ゆっくり休め』




 ───あとはオレに任せな、と頼りがいのあるお言葉と共に笑いかけてくれた時のカッコよさは、残念なことに今の悲痛な叫びで吹き飛んでしまった。


「休め、ね。それは有りがたいが、どうせ当事者から話を聞きたいとかで呼び出されるんだろうな」


隊舎を出てオウカを迎えに行くのも兼ねてレンの家に俺も向かうことにした。その帰りには『ギルド』に寄って、サリィとアーゼス副団長の様子も見に行かないとな。


「呼び出しって、王宮からってことですよね」

「ああ。正直、面倒だから部屋にこもって寝ていたいんだが、相手が王族だと基本的には断れないんだよなあ……」


出来れば行くのは避けたい。


国王と宰相の承認があって入ることが許される『サザール騎士団』に、俺は()()で騎士をやってるようなもの。国王と宰相が人の顔を覚える気がないタイプなら誤魔化せるかもしれないが、何か対策の一つでもあった方が良いかもしれない。


……この際、俺も冒険者という体でいくか?

一応冒険者である証のギルドカードはとっくの昔に発行して貰ってある。軽くメイクもすれば別人にだってなれるしな。


「カイトさん、何か悪いこと考えてません?」

「んー? ああ、まあな」

「否定しないんですね……」

「お前も俺くらいになれば悪いことばかり考えるようになるぞ。物は使いよう。時には悪知恵が自分を救うことだってあるからな……あっ、オッチャン、二本くれ」


匂いに釣られて鶏の串焼きを売ってる露店に立ち寄る。見ると炭火焼きだ、魔法や魔道具で焼くのが一般的なのに炭火焼きだ。ナイスこだわり。


「おお、騎士さんが客とは珍しい」

「ここの串焼きは絶品だと知人に聞いてな。金欠なのに匂いにやられたよ」

「ハッハッハ!! そりゃ残念だったな、ほれ二本で銅貨四枚だ」


串焼きを二本受け取り、俺はオッチャンに銅貨ではなく金貨二枚渡す。


「おいおい、これだと多いぞ」

「後で取りに来るから、これと同じのを作れるだけ用意してくれ。隊舎に持っていって宣伝ついでに配るからよ」

「本当かっ!? そりゃ有りがたい!!」


オッチャンは上機嫌になって調理に取りかかった。


「金欠の人が良く金貨二枚も出せますね。十分に大金ですよ」

「人脈を広げる為の話術だ。それに金欠がウソなのは向こうも気づいてるはずだしな、見ろよ」


少し離れてから肩越しに露店の様子を見る。



「フハハハハ!! なーにが金欠だあ、買うの躊躇ったり所持金を確認したりせずに真っ直ぐ来やがって、買う気満々だったじゃねえか。金貨二枚分なんてのは初めてだけどよう、それで客が増えるんならやらねえ訳がねえ!! 大儲けしてやらあ!!」



うん、盛り上がってるな。


「先ずは顔を覚えてくれるような、そして相手が得をするような何かをする。商売人にはこれをするだけで好感度はかなり稼げて、ちょっとしたお願いを聞いてくれたりするぞ」

「さっき言っていた悪知恵ってやつですか」

「まさか、処世術と言ってほしいな。ほら、お前の分だ」

「物は言いようですね。頂きます」


二人で串焼きを食べる。


……表面の皮がパリッとしていて中身は赤みがありながらも火が通ってて柔らかく、どんどん肉汁が溢れてくる。うん、美味い、こりゃ何本でも食えるな。


でもこれ見た感じ、鶏というよりは牛っぽいが、ただの鶏じゃなくて鶏型魔獣の肉か?


「カイトさん、あれだけの死体の山を見たのによく肉を食べれますね」


串焼きを味わっているとレンがそんなことを言ってきた。


「っ───……ビックリしたあ、俺よりも年下のヤツが言う台詞とは思えないぞ」


ゴクンとまだろくに噛んでいない大きめの鶏肉を飲み込んでからレンを見る。


「僕がいた世界では早くても一回は子供の時に死体を見ます。それくらい危険で、死と隣り合わせの世界なんです。でもカイトさんは違う、カイトさんがいた世界はそんなものではないでしょう?」


レンの目の色が変わった。


「危険とはかけ離れ、事故や事件はあっても目の前で頻繁に死体を見るようなことをしていたとは思えない。なのに、どこか見慣れたような……そんな余裕さをなぜか持っている。僕にはそれが分からない」


その目は───初めて会った日に見た、真夜中を照らす月のように美しく狂気を感じながらもとても鋭く、


「完璧にではなくとも、慣れたのはこっちの世界に来てからって訳ではないですよね。……カイトさん、貴方は───貴方の世界でいったい何を、していたんですか?」


全てを刺し、貫き、押し通る刃のように、俺の心に踏み込んできた。


「何を、ね……」


レンの家へと歩を進めながら俺は生前の、転生する前の───『七ヶ岳 海人としての記憶』を思い起こす。


「そうだな……一言でまとめるのは少し難しいな、でもあえて言うなら……」


思えば、友達が百人出来た辺りから、か。俺の人生が決定的に変わったのは。



「───悪~い奴らの掃除、かな」



ああ、アレは(たの)しかった。愉快だった。俗に言う沼にハマったってヤツだ。


出会いを繰り返していくと、どうしても目につくのが出てくる。それを退けた。死体を見慣れているとレンに思われるのは、たぶんそれが原因かもな。


「……っ、貴方は───」


今、コイツの目に俺はどう映っているだろう。この細めた目はともかく、つり上がった口角は隠せてないな。隠してもないが。


「どうも俺は、日影に潜んでネズミのように()()()()()()を駆けずり回るのが性に合ってるようでな。お陰で危ない目にもあったが……」

「辞めようと思ったことはあるんですか?」

「初めの頃はな。でも普通に生活するよりも、リスク以上のリターンを取れる仕事(こっち)を選んだ」

「どうして……」


レンが理由を尋ねてくる。……おっ、レンの家が見えてきたな。玄関の前でルイズとオウカがじゃれつくロルフと戯れている。相変わらず綺麗で、可愛い相棒だ。


「それが自分にとってプラスになるのか、ならないのか。それが俺の判断基準だ。何にプラスになるのかは何でもいい。利益がある。家族を楽させたい。友人と友好的になる。───守りたいと、そう全力になれる誰かがいる」

「あ…………」

「お前だって、守られる側を選ぶことも出来たはずなのに戦う側を選んだ。いや、選ぶしかなかったのか? でも選択肢を提示され選ぶ時はあっただろう。その時、いったい何がお前にその刀を握らせた?」

「僕は…………」


レンは腰に差していた刀を見る。しかしそこから言葉が続かず黙ってしまった。


「お前が何かを抱えているのは分かっている。まだ二十代後半の若造だが、それなりには人を見てきたからな」


そう言いながらレンの頭をワシャワシャと掻く。


「わわっ!?」

「抱えているのがどんなモノかは分からないが、もし頭の中が滅茶苦茶になって迷いに迷った時はそこで考えるのはやめて、なんとなくでもこれは良いと感じた方を選んでみろ。それを繰り返せば回り道になってもいつかゴールに辿り着ける」

「考えるな、感じろ、ってやつですか。というかいい加減やめて下さい」

「ははは、悪い悪い。ほれ、ご主人サマが待ってるぞ、っと!!」

「イッッ!? 急に叩かないで下さいよ!!」


強めにレンの背中を叩いて、ルイズのもとへと行かせる。オウカの方もルイズに手を振ってからこっちへと歩いてくる。


「オウカさん、ルイズのことありがとうございました」

「どういたしまして。ゆっくり休んでね」


お互いに声をかけて、また今度と別れを告げた。


「報告お疲れさま。どうだった?」

「あとは任せな、だとよ。でも王宮に呼び出されるかもしれないからその準備だけしておこう」

「そうだね。じゃあ帰ろっか。あ、でも『ギルド』に行ってアーゼス副団長たちの様子を見に行かないとだよね」

「ああ、さっさと済ませて俺たちも休もうぜ。もうくたくただ」


早く隊舎に戻って寝たい。明日は昼まで寝るコース確定だ。


「うん、私も疲れた。───カイトには悪いけど、今夜には済ませなきゃ……」


おっと。今、なんか聞こえたな?


なにやら不穏なことを言っていたような気がしないでもないが、深く考えないことにした。というか考える余裕は無かった。あまりにも疲れ過ぎて、早く帰りたい一心だったからだ。


そうして俺たちは『ギルド』に行ってユキナにも呼び出されるかもしれないことを伝えておき、まだ寝込んでいたサリィは彼女に任せ、残っていた体力を総動員してアーゼス副団長を背負って隊舎に戻った。


差し入れにと配った串焼きを食べる先輩方に労われながら部屋に入り、湯に浸かりたいなあと思いながらも睡魔に勝てずベッドに倒れ───



「カイト、同室許可申請が下りたから今日から私もこの部屋に住むね。ルームメイトってやつ!!」



とんでもない爆弾が降ってきた。

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