第七話「やーい紙装甲」「んだとコラァ!!」
【身体能力:B】は人間にしては高いランクだとオウカは言った。
それは当然だと思う。俺はただの人間ではなく、その上位種の転生者なのでランクが高い。しかし上位種の中ではこのランクは低い方だと思案する。
試しに【設定変更】でランクをあげようとしてみるも残念ながら変更出来なかった。
俺が出来るのは『ファストナ』で出来たことのみ。そしてこのゲームにステータスの違いは無く設定画面にキャラ性能を上げる項目は存在しない。つまりこのランクは変えようがなく、上位種としての恩恵と『偵察兵』という職業の恩恵でこのランクになったと考えられる。
他のゲームでも前衛職より後衛職のステータスが低めに設定されているのをよく見るだろう。前衛は敵の目の前に立ち続けるのだから、ステータスが高くなければ敵の攻撃を耐えられないし、後衛は敵から離れた位置で攻撃や援護と臨機応変に動く為に守りが弱くなったとしても身軽な方が動きやすい。
この世界もそういうルールの下にあると、俺は考えた。
『偵察兵』はそもそも戦闘職というよりは支援職。
ステータスは低いはず。
【保管庫】改め【場違いな人工物】で召喚する銃や道具の性能が【身体能力】の高さによって変動なんてしない。そもそも能力や銃が強力だから、そこまで【身体能力】を高くする必要はない。
まあ、何が言いたいのかというと、
「なあオウカさん!! ちょっと痛いだけって話は嘘だろ!!」
「えー? そんなことないけどー?」
「クッソ腹立つくらいにとぼけるんじゃあないよ!!」
ものすっっごく、当たると痛いのである。
オウカの周囲で作られる無数の魔力の球体が豪速球かってくらいの速さで、同時に何発も、俺に向かって飛んでくる。
そのほとんどがストレート、しかしそれに紛れてジグザグだったりカーブだったりバレーの天井サーブのように急上昇して真上から急降下だったりと、変化球があるからタチが悪い。
発射されたオウカの魔弾はもう百発はいったと思う。頭や胴などの受けたら致命的なところへの直撃はまだしてないが、肩や手足には数十発はくらっててこれが痛いのなんの。ドッジボールで俺一人が集中攻撃されてるような気分だ。
しかも飛んでくるのがただのボールじゃないのも厄介だ。
ボールなら体に当たった時点で勢いを失いながらも跳ね返る。だけど魔力で作られた玉は当たったとしても跳ね返らずに、そのままの勢いで直進するせいで体が持って行かれるのだ。
それで何度もバランスを崩して転倒し、追撃を受けるというのが何度もあった。
(なーにが、この際当たってもいい、だバカ!! 数分前の俺を殴りたい!!)
「まだ元気みたいだし、とりあえず立てなくなるまで続けるね」
「ふっざけんな!! もう十分だろ───」
「はい追加の魔弾」
ひぃぃぃぃぃぃ───!!!!
■■■
魔弾───空気中、もしくは自身の魔力で玉を作り、それを射ち出す初級魔法。
色々と応用が利くこの魔法でカイトの身のこなしを観察し始めて分かったのが、先ず【身体能力:B】は本当だということと、本人が自覚している通りまだ完全に発揮できていないということだった。
(不恰好だけどよく避けてる。途中でフェイントとか入れるとそれに対応しようとして他がちょっと疎かになりがちだけど、そのミスだって繰り返しやるごとに動きを改善させて動きに無駄がなくなっていってる……)
序盤は大慌てで逃げるも当たって、思考する余裕が無かった。なのに五分くらいすると早くも余裕が生まれ、動きの改善を計り、わめきながらも私と会話まで出来るようになった。
「っ……もうその手には、乗らねえよっと!!」
「おお……」
そうか……慣れるのが早いんだ。
転倒狙いの足、死角からの不意打ち、前後左右へ同時に攻撃、回避先への置き、他にも思い付く嫌がらせをカイトは全て回避することに成功。これには私も思わず声を出してしまった。
(『偵察兵』でBランク……これほどまでに最高の人材は滅多に無い、能力無しでここまで動けるなら合格かな)
非戦闘職や後衛職はその役割故に【身体能力】のランクは低い。魔法専門の騎士団もそれ自体はCランクが大半、団長でもBランクで、そのランクの低さを補う為に魔法という手段を選んだ。それで最前線で戦えるのだから彼らの魔法はとんでもないことになっている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……っ」
それはさておき、カイトの体力も無くなってきたようだ。次で最後にしてあげよう。
「カイト、これで最後にするから聞いて。魔弾を今よりもちょっと速く飛ばす」
「はあ!? 待ってくれ、アンタの言うちょっとを俺は信用出来ないんだが!?」
「代わりに威力は落とすから。危機的状況だと思って、直撃しないよう全力で避けて」
カイトの返事を聞かずに魔力を集める。
数は五十、それを同時発射。発射のタイミングは統一せずに、逃げ場を無くすよう広範囲にばらまく。
「ちょ、おま……」
カイトが何か言おうとしてるけど気にせず。最後の試練、という訳でもなく単に彼が慌てふためく姿が面白かったから、また見てみたいなぁというだけ。
「そ~れ、発射~」
「こんのお馬鹿さんがぁぁぁぁ!!」
■■■
弾幕が迫る中、俺はふと思ったことがある。
前衛後衛の職が【身体能力】のランクに影響するとして、前衛同士と後衛同士で同じランクであったとしても何か差があるのではないか、と。
同じ前衛職でも剣士と盾持ちでは体力や腕力に差があるだろう。体格だって違うはずだ。武器や防具の性能の補正を無しにしても、それでも差があるはずだ。
なのにランクが同じなのはどういうことか?
なにをもってそのランクになったのか?
それを考えて一つの結論に至った。
『総合力』だ。
有り余る体力がある。
岩を砕ける筋力がある。
なにものにも怯まない気力がある。
腕力に自信があるが足が遅い。
攻撃するよりは防御が得意。
力はないが技術力で対処できる。
そういった長所を持つ者や、他より優れたものを持つけど明確な弱みがある者もいる。その長所短所を足し引きした総合的な能力からランクは決められるのではないか?
だとしたら俺の長所は、他より優れたものはないかを考えて、
『でも驚いた、一回のバックステップでそこまで行けるんだ』
「───これじゃね……?」
活路を見出だすとしたらそれしかなかった。