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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第六十九話「夜戦だ夜戦!」「寝かせろやもう!」

夜、あまり寝付けずにいた俺は水を飲もうと部屋を出て一階の広間に降りた。


これは俺の体験談なんだが、前世ではこういう寝れない時には決まって何かしらに遭遇したり、急な来訪者が現れたりで俺から静かな夜の一時を奪われてきた。その時と同じ感覚を今も感じている。


高確率で何かが来る───そんな予感を抱きながら、ギシギシと木の音が鳴る階段を降りていくと広間が妙に明るいことに気付く。


これは、蝋燭の火の光だ。


「おや、こんな夜更けにどうしたんだい?」

「誰かと思ったらアンタか」


広間に行ってみると、ユキナがテーブルに置かれた燭台の蝋燭に火を灯し、一人静かに酒を飲んでいた。確かサミュエルが料理と一緒に酒瓶を持ってきていたっけ。


「予感がしてな、こういう時は寝ないと決めている」


俺はそう答えながら向かいの席に座ると彼女は、そっか、と言ってまたコクンと酒を一口飲む。

というかそれコップじゃなくて猪口じゃねえか、こっちの世界にもあるんだな。


「体験や経験からくるタイプの予感というものかな。そういうのは信用した方がいい。良くも悪くも何かが起こり、自分の行い次第で結果の良し悪しが変わるものだ」

「なら起きて正解だったな。……水じゃなくてもいいか、一杯くれよ」

「うん、いいよ。一人で飲むのも寂しいなって思ってたところなんだ」


どこから取り出したのか空いた猪口を俺の前に置いて酒を注ぐ。


「……薄めなんだな、これ」


ギリギリ酒として呼べるくらいにはアルコールの度数が低いそれから香るのは葡萄の香り。うん、甘口の赤ワインというか、ワインっぽさがあるジュースだな。あと猪口を使うなら日本酒なんだが、これでワインを飲むのは初めてだ。


「アンタはどうしてこんな時間に一人酒を?」

「私もカイトくんと同じ、かな。予感というよりは…………胸騒ぎだけど」

「ああ、ヤバいパターンだったか。だから起きて備えてたんだな」

「みんなが起きるまでの時間稼ぎでもと思ってね」


直ぐに動けるようにユキナは鞘に納まった刀を抱くようにしていた。まあ、時間稼ぎと言うが彼女の力なら、オウカたちが起きる頃には単独で解決出来そうだが。


「相手は?」

「この村にいる、私たち以外の全て」


……やれやれ、【設定変更】───スキン『黒羽』とオプションの迷彩マントの色をプリセットAに変更、あとは夜戦用の武装と道具を召喚と。


【プリセットA『ワーク・ナイト』に変更しました】

【夜戦用の武装と道具一式の召喚をします】


「それはなぜ?」

「確証はない。でも、そうだね。理由としてあげられるなら───」


ユキナがチラッと入り口を見る。俺は入り口の扉にある覗き窓を僅かに開けて外の様子を確認し、


「『悪魔神像』の発見したこと。それが彼らにとっては嬉しい誤算であり、同時に私たちが邪魔だと判断する理由なんだと思うよ」


最初に会った時とは明らかに雰囲気が違う。目を殺意で血走らせ、松明と剣を持った大勢の村人がこの建物を囲っていて、俺はそっと覗き窓を閉じた。

おお、こっわ。某ゾンビゲームのワンシーンを思い出したわ。


「仮に彼らが崇拝者の末裔だとして、騎士団の人はどう対処する?」


呑気に酒を飲みながらユキナが聞いてくる。どう対処する、ね。


……寝てる奴らを叩き起こして逃げて『ギルド』や騎士団に連絡してあとは任せるか、もしくは打って出るか。手加減できなさそうな剣士がいるが相手は皆が嫌う悪魔崇拝者だ、何人か殺したところで責められはしないだろうが……


「先ずは確認だ。あとは流れで。立てなくするだけでいいからな」

「うんうん、確認は大事だね」

「そう言いながら鯉口を切るな戦闘狂。あと物陰に隠れてろ、合図する」


もうヤル気満々な彼女にツッコミを入れながら俺は扉を開ける。


「こんな夜更けに皆さん揃ってどうしたんですか?」

「こんばんは、カイトさん。悪いとは思ったのですが用がありまして」

「用ですか……サミュエルさんにはお世話になりましたし、俺たちに出来ることであれば引き受けますが」


先頭に立つサミュエルがにこやかに言ってくる。でも目が笑ってねえんだよな。あとつり上がった口角に、やや抑揚がない話し方が怪しさ満点だ。


ただならぬ様子の村人とは正反対で、会った時と変わらず一見穏やかな様子の彼。なんだろうな。この張り詰めた空気と見るからに正気ではない彼らの雰囲気にのまれてSAN値チェックどうぞってGMに言われそうだぜ。


「今はお一人で?」

「ええ、さっきまでユキナと頂いた酒を飲んでいたところです。調子にのって飲み過ぎてしまったようで部屋に戻りましたよ。あれでは直ぐには起きないでしょう」

「そうですか、あの酒は飲みやすい代わりに加減が難しいですからね。……では他の方を起こすのも悪いですし、カイトさん、少し付き合ってくれませんか?」


他の奴らの様子を確認した上で俺を連れていこうとしに来たサミュエル。


「実は近くに魔獣が出たようなのです。数は少ないのであなたと我らで倒せるでしょう」

「なるほど、だから皆さんお揃いだったんですね。しかし、私も少し酔っていますのでちゃんと戦えるかどうか不安ですね」


外に出ながら周りを見回す。あれれー、なーんで村人たちは微動だにせずに建物の方を見てるのかなー?


「そうだ、サミュエ……」


声をかけようとしてグサッと背中に何か刺さった感覚がして振り返ると、村人の一人が持っていた剣で俺の背中を突き刺していた。


「……申し訳ないのですが、あなた方には贄になってもらいたいのですよ」

「っ───なるほど、この村は、悪魔崇拝者の……」


剣が引き抜かれ、俺は膝をつく。


「はい。末裔です。世界中から目の敵にされる中、先祖は山の中に神像を隠し村を隠れ蓑にして暮らしていました。ですが雷雨で神像への道は閉ざされて、人の手ではどうしようも出来ずに時間だけが過ぎていったのです」

「それで何度も世代交代を繰り返し、次第に神像のことすら忘れていたところで今日という日を迎えたと……」


全く、そのまま忘れていれば良かったのにな。崇拝者としての血筋かね。

まあいいや、正直に言ってくれたし、俺もきっちり初撃を受けたから正当防衛という大義名分も得た。


「俺たちを始末したとして、後々ここに来る調査団はどうする」

「悪魔への信仰を忘れてしまっていた我らにはもう救いなどありません。せめてもの償いとして一人でも多くの贄を、我らが主に捧げるまでです」


総出で迎え撃っての無理心中でもするつもりかよ。


「生憎と……俺は、まだ死ぬ訳にはいかないんでね……」

「あなた一人で何ができ───待ちなさい、確かに刺したはずなのに……」


サミュエルが俺の背中を刺した剣を見る。本来ならその刀身に血がべったり付いているはずなのだが、俺には防御手段であるシールドがある。


「血が付いていないっ?」


汚れていない刀身に目が向いている隙に、はい、ドンドンと。

マントの下に隠していたピストルでサミュエルの膝を撃ち抜く。


「合図、だねっ!!」


扉を蹴破って隠れていたユキナが飛び出してくる。


「俺の戦いが見たかったんだろ? 好きなだけ見せてやるから、やり過ぎるなよ」

「善処するよ。私だって戦いたくてウズウズしてたんだから!! 彼らが建物をに入らないようにすればいいんだよね?」

「そうしてくれ、あとオウカたちが起きてきたら説明も頼む」


はーい、とユキナは子供のような返事をしながら建物に近い村人を優先して次々と足を切り落としていく。


見ると村人たちが状況を理解して動き出している。我先にと建物に近づこうとする者と、ユキナに武器を向けて突っ込む者、そして動けなくしたサミュエルと俺を包囲する者。


「ぐっ、ア、アァッッ……!!」

「そこで寝てなサミュエル。特に頭は低く、だ」


松明で明るいし道具はいいとして、武器は夜戦用でなくてもいいか。なら追加で召喚するのは───反動も威力もマシマシの特大拳銃ハンドキャノンにしよう。


「さあ、派手に踊るぞ!!」

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