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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第六十五話「忌むべき神像」「帝国の特務部隊」

ルイズにジェスチャーで小精霊を消してもらうよう頼んでから、岩陰から洞窟を抜けた先を見ると大きな空洞が広がっていた。歩いた距離を考えると空洞があるのは山の中心部か、そのやや下だろう。


そして空洞の奥側に赤い鎧の騎士が四人立っており、巨大な石像と祭壇らしきモノの前に集まって何か話している。薄暗くてよく見えないが、石像のシルエットが王宮の禁書庫で見たものと同じ代物だと直ぐに分かった。


「ウソだろ……聞いてないぞ、なんでこんなところに『悪魔神像』がある」

「悪魔、そんな……」

「ひっ」


俺の呟きにオウカは体を震わせ、ルイズは怯えてレンにしがみつく。


「カイトさん、あれは?」


怯えるルイズを落ち着かせるようぎこちなく抱き締めながらレンが聞いてくる。そうか、レンはまだ知らなかったか。

俺は神と名乗る不審者のうっかりミスで死んで転生した時にこの世界の知識を頭に詰め込まれたが、ルイズに召喚されてこの世界に来たレンにはそれが無かった訳か。知ってても自分からは話したくない話題だし、ルイズから聞くこともなかったんだろう。


「簡単に言えばタチの悪い宗教団体のシンボルだ」


悪の化身、悪しき超自然的存在、悪を象徴する超越的存在。神を冒涜し、人を誘惑するもの。そういうのを崇拝するイカれた集団が大昔に王国だけでなく大陸のあちこちに存在していた。


紺色また黒や赤色の肌。目は赤く、尖った耳と歯を有する裂けた口。頭部にはヤギのような角を生やし、とがった爪の付いたコウモリのような翼に、矢印のように鋭く尖った尻尾を持つ人型のそれを悪魔と呼び、それに似た石像である『悪魔神像』を作っていった。


「……神を否定し、人を蔑み、この世は悪魔に支配されるべきと断じる彼らは、悪魔をどうにかして呼び出そうとした。罪のない人々を拐っては生け贄と称して殺し、体を切り開いて中身を床一面にぶちまける……そんなことを平気でやっていたらしい」

「狂ってる……」

「ああ、そして熱心に活動していた彼らは世界中から目の敵にされ、徹底的に排除された。最後まで生き残った団体のリーダーは、自身を殺そうと迫る大勢の人々を見て『主はこの地にいませり』と言って自害した……」


悪魔を崇拝する宗教団体はそうして一人残らずこの世界から消えた。


リーダーの最後の言葉を聞いて、悪魔は存在していると考えた人々は崇拝者の家や拠点そして神像を全て破壊することで存在を否定し、悪魔とは恐ろしいものであり排除すべきもの、という共通意識が生まれた。

この意識は今も残っていて、不吉なことがあったりすると『悪魔の仕業だ』と言って怯える人もいる。


 ───そんな世界中の全ての人の恐怖の象徴が、まさか王国の、こんな山の内部に形を保って残っていたとは思わなかったが。


「神像がなんであるのかはひとまず置いておくとして今はあの帝国騎士だ。帝国の国教が悪魔崇拝に変わったなんて聞かないし、騎士の中に崇拝者の末裔でもいて密かに活動してたにしてもわざわざ王国まで来るのはリスクがある。さて、どうするか………ん?」


神像の前にいる帝国騎士を見て俺は喋るのを止めた。


「カイト? どうかしたの?」

「あー……」


()()()()……そうか、ならイケるかな?




■■■




「まさか本当にあったなんてナ」


あちこち破損しているがまだ形を保っている『悪魔神像』を見上げながら部下が呟く。


「予言者様が仰ったんだ、あって当然だ」

「でもよナザレ、あの人の予言たまに外すじゃんヨ。それで何度か無駄足になったことあったシ」

「予言は確定した未来ではないということを忘れたのかサルジェ。予言者様が見る未来は『起こるかもしれない未来』だと、その未来が不穏なモノならそれを排除するのが我らの役目」

「だぁー、もうそれは聞きあきたっテ」


ナザレと呼ばれた騎士が、俺の名前を呼ぶな、と先に注意してから改めて説明する。そして注意された騎士のサルジェが嫌そうに手を振って話を遮った。


「ハイハイ、分かってますよ相変わらず仕事熱心だナ。それで隊長、神像を見つけたまではいいけどこの後はどうするんでス?」

「私ぃ、こんなとこ早く出て水浴びしたいなぁ~」

「お前はもう少し真面目にやれ、シャシャ」

「やーんナザレ厳しぃ~」

「───っっっ」

「ナザレ、気持ちは分かる。分かるけどここは冷静にナ? ナ?」


女騎士のシャシャに一発殴ろうかと身を震わせるナザレをサルジェが宥める。失敗したなあ、連れてくるんじゃなかった。喧しくてかなわん。


「俺たちの仕事は『悪魔神像』の有無、そして悪魔の存在の確認だ。神像は見つけた、あとは悪魔だ。シャシャ、何か感じるか?」

「ぜんぜぇ~ん。それっぽいのは掠りもしないでぇ~す」

「そうか」


やる気が無さそうに答えるシャシャ。

……ううむ、彼女の優れた探知能力でも感じないとなると他の俺たちでも無理だな。仕方ない、手探りで調べるしかないな。


「でも隊長ぉ、悪魔は感じないけど人が近付いてくるのは感じたぁ~」

「───っ!?」


シャシャの言葉に俺と、ナザレとサルジェが即座に鞘から剣を抜く。


「数は」

「一人ぃ~、洞窟からぁ~」

「なんだ敵かア?」

「全く、サルジェとかいうどっかの誰かが山を崩したから」

「いや名前言ってるヨ」


ナザレとサルジェの言い合いがまた始まろうとした時、



「……こりゃついてないぜ、まさか帝国騎士がいるなんてな」



そう言って洞窟から出てきたのはシャシャが言った通り一人の人間だった。


現れたのは黒服に黒マントを羽織った黒髪の青年。その隣には周りを照らす光源が一つ、あれは恐らく上位属性である光属性の小精霊、彼の使い魔か召喚したもののどちらかだろう。


そして何よりも……頭を掻く彼の右腕に付けられた白い腕章を見て、俺たちは彼の所属を理解した。


「剣を抱く聖女の紋章……王国の精鋭である『サザール騎士団』!!」


その直後、ナザレとサルジェが駆け出す。


「目撃した奴は即消すのみだゼ!!」

「合わせろサルジェ!!」


二人は左右から挟み撃ちしようと分かれて青年に迫る。


「いきなり仕掛けてくるとか、やっぱ帝国はそれしか頭に無いんだな。ソル、元気に頼むぜ───閃光(フラッシュ)!!」

「目眩ましかっ!!」


青年の隣に浮かんでいた小精霊が輝きだし、空洞内を目映い光で照らす。光源無しでここにいたことで暗闇に慣れていた俺たちにその光は眩しすぎた。


「う、ぎゃア!!」

「目が……っ」

「ひぇ~ん眩しぃ~!!」


俺はなんとか腕で影を作って防いだが、閃光に反応出来なかった三人がもろに見てしまい視力を一時的に奪われてしまった。喧しい上に役にも立たないとか本当になんで連れて来たんだろうな俺は!!


「ソル、上で待機」


光が収まると青年は大きく後退することで距離をとりながら、空洞全体を照らすように小精霊を天井近くに移動させる。


「まあ落ち着いてくれよ、確かに俺は『サザール騎士団』に所属しているが仕事熱心じゃないんだ。ここに来たのもズル休みしようとしてた所を団長に見つかってよ、山が崩れて洞窟が見つかったから暇なら行ってこいって命令されて、面倒だから適当に中を見て回って適当に報告するつもりだったんだ」


自分から仕事熱心じゃないって言ったぞアイツ。

しかも適当にって、それでいいのか王国の精鋭。


そんなことを思っていると青年はジロジロと俺や、目をやられてうずくまっている馬鹿三人を見てからニヤリと笑った。


「……ガザリア帝国軍『赤枝騎士団』所属、特務部隊『マクール』」

「っ!? お前、なぜそれを───」

「知っているのかについては黙秘させもらうぜ『マクール』の隊長、セルゲイ・マクール・オルダ?」


その青年は楽しそうに、あるいは嬉しそうに。笑みを浮かべながら、俺の名前を呼んだ。

コイツ、所属だけでなく俺の名前まで……いったいどこで知ったんだっ? どこまで知っている? ここに来た目的までは知られてないと思いたいが、もしそうなら、


「さっきも言ったように俺は仕事熱心じゃない。話し合いで解決できるならそれに越したことはないだろ? ここは一つ取引しようじゃないか、俺たちはここで会わなかったことにしよう」


王国に知られるのは不味い。相手は一人だ、俺だけでも直ぐに始末でき───え、取引?


「なんだと……?」

「取引だ。俺は弱いからよ、戦いは避けたい。応じてくれると嬉しいんだけどな」


そう言って、青年は地面に座り両手を上げて戦意がないことを示した。

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