第六十話「泣いてる?」「心の中で、な」
しばらく会っていなかった俺と同じ上位種の若者とその主人である少女に俺はギルドに来た理由を簡単に説明した。
「───という訳で、先送りになってた仕事を片付けにきた。さっき粗方済ませたところだ」
「確かに冒険者の先輩で良くない話をいくつか聞いたことがあります」
「そうね、和を乱す人がいるとこちらにとっても迷惑よねってレンと話したことがあるわね」
そういえばと冒険者の悪事について話すレンとルイズ。やはりどこかで聞いてたか。やらかした冒険者の数がまあまあ多かったから、全く話を聞かないなんてことはないとは思っていた。
「……あの、カイトさん、これから都市の外に出るんです、よね?」
なにやら恐る恐るといった感じで聞いてくるルイズ。
「ん? ああ、そうしようかとオウカと話してたが……なんかさっきから俺に対してビクビクしすぎじゃないか? 俺なにかやったか?」
「そ、それは……」
「それは?」
「以前、レンがロルフを連れてきてギルドの前で騒いでた時に……」
ああ、あったなそんなこと。近くにいたオウカと俺が駆け付けたんだった。
「あの時にわたしに声をかけてきたカイトさんがちょっと怖くて……」
「へ?」
「しかもわたし、話しかけられた時に思いっきり怒鳴ってしまって、まさか『サザール騎士団』の人だとは思わなくて、怒鳴ったことに怒って、わたしを捕まえるんじゃないかと……」
「……………」
えーと、つまり……
「家に招いた時はそうでもないけど、ここにいるとその時のことを思い出してしまうくらいには怖かった、と……」
「うぅ……すみません……」
「カイトさん、ルイズは考えすぎなところがあるので今はこうですがいつかは」
謝るルイズにレンがフォローする。
これは、あれだな。強面の人に声をかけられたのがめっちゃ怖くて、それが忘れられなくなって軽くトラウマになった子供みたいな感じか。……いや待て、他にも怖い思いしただろうになぜ俺がトラウマになる? ……まあ、なっちゃったもんは仕方ないか。
「気にするな。怒鳴られたのはびっくりしたがそれで捕まえるほど短気でもない。どうやら場所限定なようだしいずれ克服するだろ。気長に待つさ」
心の問題は急かしても良いことはない。より悪化するだけだ。こういうのはこちらからあれこれするよりも、今どうなっているかよく理解して向こうから歩み寄ってくれるのを待つ方がいい。
「話を戻すか。ルイズ、なにか言いたかったことがあるんだろう?」
「は、はい。わたしとレンが今日ギルドに来たのは依頼達成の報告と、もう一つあって……」
なるべく怖がられない声音を意識して話しかける。別に怖かったと言われたのが地味にショックだった、とかじゃないからな? 本当だからな?
(ねえカイト、もしかしてちょっと傷ついた?)
(……別に)
オウカそのにやけた面、隠せてねえからな。……そしてルイズはさっきよりはビクビクせずにもう一つの用とやらを話してくれた。
「───記録に無い洞窟、か」
ルイズの話によると二人とロルフは勇者戦の後、直ぐ冒険者としての活動に戻り依頼で遠方の村に行っていたという。依頼自体は達成してあとは村で一泊してから王都に帰るだけだった。しかしその夜にレンが何か感じ取ったようで、朝になってから村の近くにある山に調査に向かったところ洞窟が出現していたらしい。
「なるほど、村長に聞いても何も分からず、もしその洞窟がダンジョンの入口だったのならそこから魔獣が出てくる可能性もある。確かにこれは報告しないといけないな」
未確認のダンジョン発生ともなれば調査団を派遣して難易度や内部の魔獣の把握など色々とやらないといけない。
もし洞窟がダンジョンで確定した場合、ダンジョン攻略の拠点はその村になり、ダンジョンを攻略しようと冒険者が来るしその冒険者を目当てに商売人も集まってくる。村人たちも受け入れ準備で大忙しになるだろう。
仮にダンジョンじゃなくても、それが安全だと分かるまではある程度の戦力を配置して警戒しなくてはいけない。だから調査団はいつも大規模なものになる。
「ならギルドに報告して調査依頼の申請を」
こういうのは早い内にやった方がいい。俺はレンを連れて受付嬢に声をかけようとした。その時、あっ、とオウカが声をあげた。
「あれ、ちょっと待ってカイト。今のギルドに調査団を派遣する余裕無いと思うけど」
「……………………え?」
余裕が、無い? なにそれ、どゆこと?
「名簿を見た時に確認したんだけど高ランクの冒険者はほとんど出払って、それにさっきカイトが景気よく悪事を暴露したから直ぐに動かせる戦力がだいぶ減ったよこのギルド……」
……あー、うん、理解した。
高ランク冒険者の力を借りたい人は多い。だから基本忙しい。
国の内外を駆け回る彼らはギルドを介さずに依頼人から直接受注するのもあってギルドに顔を出すことは滅多に無い。呼び戻すことも出来るが、それは緊急時のみだ。
そして、俺がやった冒険者の処分。これが追い討ちをかけた。
出払ってる高ランク冒険者の次に戦力になる冒険者も含めて俺は大勢の冒険者を処罰対象にした。
これにより今のギルドの現存戦力は大きく減り散らかした、してしまった。
「つまり、今のギルドには頼りになる戦力も人員も無い? けっこう処分する人数は控えたのに?」
「そうなるね」
「oh……」
これは……俺がやらかしたか、ん? そもそもこんなタイミング良く起こることってある? 俺はただギルドの為に悪いヤツがいたから晒し上げただけなんだが!? 普通に仕事してただけなんだが!?
「……はあ、仕方ない。やれるところまでやろう」
「とりあえず報告はするとしてあとはどうする?」
そう聞いてくるオウカに俺は、決まってんだろ、と返す。
「可能なら早期解決、だ。レンたちも村人たちを早く安心させたいだろ。調査団の派遣が無理ってなっても、派遣前の事前調査ってことにして俺らでその洞窟に乗り込むことは出来る」
「そうしよっか。ダンジョンだったら直ぐに騎士団にも報告するってことで」
「ああ」
調査だけなら俺とオウカで事足りるがダンジョンという可能性も考慮すると戦力が不足している。だがここにレンという強力な前衛と、補助役としてルイズに彼女の護衛のロルフがいれば十分だろう。
「レン、ルイズ、直に現場を見た二人には調査の協力を依頼したい。報酬は俺が出そう。頼めるか?」
「僕は構いません。村人たちにはお世話になりましたから、その恩返しとしても」
「わたしもです」
よし、じゃあ出発する前にまた色々と準備しないとな。
「俺とレンでギルドマスターに報告、オウカとルイズで遠出の準備を頼む。報告が終わったら直ぐに合流する」
手早く役割分担をして二手に分かれ、俺たちは動き出した。
「……なあオウカ、俺ってそんなに怖いか……?」
「やっぱり傷ついてるじゃん……」




