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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第五十三話「語り暴く黒衣」「灯り嘆く狐炎」

「なんでこうして殺し合いしてるか思い出せよ、殺し屋。心臓を刺して殺したはずの俺が生きてるんだぜ? 一度失敗しているのに、なんで二度目なら成功すると思ってんだ?」


槍で刺された場所───マントとその下の胸部を守るプロテクターには穴も傷もない。あの槍の、あらゆるものを通り抜けるという能力があるのだから傷が無いのは当然だが、俺が平然としていることが殺し屋は理解出来ないようだ。


「扉越しから槍が突き出てきたのをはっきりと見た、そしてお前が去った後に扉を確認したら穴はあいてなかった。これだけである程度の考察はできる。あー、俺は直ぐに分かったけどな。すり抜けというか、壁抜けはよくやるから」


という訳で……うん、その位置だと腕か。


「───がァッ!?」

「……jack pot(大当たり)


殺し屋の右腕が吹き飛ぶ。


「殺し屋がバカ真面目に、真正面から殺し合いなんてしない。だがお前は帝国人だ。帝国人は自分の実力に疑問をもたず自信家、小細工や罠をしかけるよりも戦いを好む脳筋。旧くから伝統として続く、その馬鹿馬鹿しい意識がこの結果を生んだ」


数日前から教会周辺の物件を押さえ、そこに『ファストナ』のクリエイティブモードやミニゲーム御用達である自動射撃人形、通称ガーディアンを配置した。見た目はマネキンで、持たせる銃はこちらで設定可能。指定した射線上に誰かがいると自動で射撃を開始する。


古びて老朽化し、ところどころ崩れた教会。こんなに隙間だらけなら射線は通し放題だ。あとは俺が適当なところでガーディアンを遠隔で起動させて、殺し屋が射線上まで来るように後退ればってな───いやぁ、上手くいって良かったわ。


(ガーディアンに持たせた銃はボルトアクションのサイレンサー付きスナイパーライフル。流石に都市内で銃声を響かせたら騒ぎになるからな。威力は低いが、それでこの結果なら十分だろ)


槍を持った片腕を失い、空いた手で血が吹き出る肩口を押さえる殺し屋。維持していた『レグルス・ネイル』はいつの間にか消滅し、地面に倒れる彼を俺とオウカが見おろす。


「ぐ、ぬぅ……殺せ……」

「その潔さは、帝国人の美徳かな。王国貴族のみっともない足掻きを眺めるのも好きだが……そのつもりだ」

「待って」


ポンプショットガンから再度リボルバーに持ちかえるとオウカが俺を止めた。


「カイト、この人は本当に帝国の……?」

「ああ、それは間違いない」


殺し屋と仲良くしていたヤツからの情報と()()()()()()()で確認済みだ。


「名前はリアン・キエラ。所属は帝国軍の中でも特殊なとこで、言ってしまえば殺し屋のまんまだ。国外の要人を暗殺してまわるのがコイツの仕事。んで、少しずつ王国内部から要人を消そうと画策する上司の命令で、退役という形にして帝国を出て無所属になり王国に潜入、殺し屋としての高い能力を裏社会に知らしめて名を広めた……」


懐から取り出したメモ帳を見て殺し屋についての情報を話す。


「その情報を、アイツが吐いた……? いや、いいやっ、そんなことまで知っているのは」


おっと、それ以上は言わせない。


「なあオウカ、確認したいのはそれだけか?」

「帝国軍の所属していたのが分かればいい。……彼の始末は私にさせて」

()()()がコイツとは限らないぞ」

「分かってる。でも、そうだとしても帝国軍は敵だし、なによりも所属していたという事実だけで私が手を下す理由としては十分だから」


目に怒りと殺意の光を宿す彼女は普段の様子とはかけ離れていた。まあ事情を知る身としては無理もないかと頷くしかない。今の様子なら、殺し屋が余計なことを言っても聞く耳を持たないだろう。


「手短に頼むぜ。まだこのあとにやることがあるからな」

「分かった」


俺は数歩下がり、オウカが手に持った短剣を殺し屋へと近付ける。


「ま……待て、お前、は……」


殺し屋が何か言おうとしてる。俺はオウカへと視線を移し、見えてないのを確認してからメモ帳をしまって別の物を取り出して殺し屋に見せる。


「今までご苦労さま、理想郷に行けるといいな」

「───────」


これを見て殺し屋はどう思ったのだろうか。

死が迫る中で見た物の意味を理解出来ただろうか。


「……っ、アア!!」


オウカは短剣を殺し屋の喉に突き刺し、そのままゴキンと捻った。


一度灯った怒りの炎は簡単には消えない。彼女は短剣を引き抜くと続けて何度も殺し屋に刃を突き立てた。喉だけでなく全身に、何度も、何度も、飛び散る返り血でその綺麗な身が汚れるのを気にせず、執拗に、気が済むまで。


そして突き刺すのが二十を越えた辺りで次第に怒りの炎は消え、嘆きへと変わり、カランと手から短剣が落ちた。


「うっ、うぅ……」


静かに涙を流すオウカの頭を撫でながら、俺はマントの端で彼女の頬に付いた返り血を拭き取る。


「そこで泣くあたり、お前に復讐は向いてねぇよ。心が怒りよりも、嘆き悲しむ方に寄り過ぎてる。優しすぎるんだ。今回はすぐに鎮火したけど、いざ復讐相手を前にした時、お前は怒りよりも先に涙を流すだろうな。返して、返して、ってよ」

「……でも、怒りがあるのは確かなの。この炎があるから、私はそれを実行できる。先に涙を流して、あとに怒って奴等を血で染める。いつかこの手で、帝国を奴等自身の血で汚してやる……」


その言葉にはちゃんとオウカの意思がこもっており、聞く側としては軽く押せば潰れてしまうような弱々しい宣言だった。やはり向いてない。彼女には合ってない。俺が見たいのは、そんな顔じゃない。


(───とか思いつつ、俺がやろうとしてることは間違いなくコイツを泣かせることになる訳で。はぁ、今からオウカを計画に組み込むのも無理だし、説得も無理か。オウカにとって王国(ここ)が今の守るべき居場所なんだし)


頭に浮かんだ案を諦める。んー、まだ時間はあるか。


「ほら、こうしてやるから泣き止んでくれ。落ち着いたら身綺麗にして、また大闘技場に行くぞ」

「……ん」


抱き寄せるとオウカは頷いてキュッとくっつく。


むぅ、今日だけでかなりオウカと身体的接触した気がするな。だいたい俺が悪いから文句なんて言えない、というか文句なんて無い。またしても押し当てられる柔らかな胸の感触が素晴らしい……これ、本人に言ったら怒られるよな。


(……心臓近くでゲージ全部消しとんだ、やはり部位によって減る量が変わるんだな)


俺の視界の左下。そこにはゲームで見慣れた表記がある。


水色のゲージと緑色のゲージだ。

緑は体力。数値は100。これが尽きると死ぬ。まあHPだな。

青はシールド。数値はこれも100。これが尽きない限り傷は負わない。


ゲームでは頭とその他で受けるダメージが異なり、頭に当てた方が一番ダメージを与えられたが、この世界では頭以外に心臓や首といった急所に相手の攻撃を受けると大ダメージを受けてシールドがごっそり削られる。


このシールドこそが、二度も殺し屋の槍から俺の命を救ったものの正体。


(あー、一度目のあの夜の時も防げてはいたけど、転生して初めてゲージ消しとんだものだからびっくりしてショック死しかけたってのは、言わないでおこう……)

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