第五十二話「びっくりしたんだからね」「いや本当にすまん」
選んだのはショットガンの中でも威力が高い代わりに連射性能が低いポンプショットガン。
ヘッドショットなら一発で相手をキルできる中級者向けのショットガンで、弾数は五発と少なめだが一発の威力が高いのでそこまで不足感はない。リロードは一発ずつ補充する方式で、この動作がポンプショットガンの連射性能の低さの理由だ。リロードできるタイミングがあればこまめにリロードを狙い、無理なら別の武器に切り替えた方がいい。
レア度は紫色のE───序盤から終盤まで使える、頼りになる秀才レアリティ。魔法で言うなら中級から上級ってところ。いつもの青色のRよりも一段階上なんで、当然性能は高い。
(まあ、ゲームならともかく、ここは現実だ。どのレアリティでもヘッドショットが決まれば確殺だからレアリティの意味があるのかって話だが……)
先ずは一発、撃つ。両手で持って構えたポンプショットガンから破裂したような発砲音が響き、殺し屋の『レグルス・ネイル』に命中する。銃口から放たれた散弾が燃える手甲に衝突し、火花を散らして弾かれた。
「硬いな、ちょっと凹ましただけか」
「その武器……さきほどとは違い、面の攻撃できたか」
殺し屋の『レグルス・ネイル』には無数の凹みが出来ていた。そして弾かれた散弾はぶつかった際に急速に熱せられたからなのか真っ赤になって壁に食い込んでいる。
「ふっ……!!」
散弾を防いだ『レグルス・ネイル』が空中を移動して殺し屋の背後に行くと同時に槍による突きが来る。射程が短いショットガンだが、剣士よりは間合いで勝る。だからこそ攻撃を認識し、回避するには、殺し屋との距離感は十分にあった。
回避行動ではなく屈んで突きをかわし、同時にハンドグリップを前後に往復させて使用済みの弾薬を排出、そして新しい弾薬を装填。手早くリロードを済ませて殺し屋の胴体へ発砲。即座に移動した『レグルス・ネイル』が阻み、殺し屋の動きを邪魔しないよう後ろに移動、殺し屋の追撃、足を狙った薙ぎ払いか。
「ここは、───ッ!!」
回避であるならばその移動先がどこだろうと脚力が強化される。俺は縄跳びの感覚で薙ぎ払いを前に跳んで回避し、リロードしながら更に距離を詰める。
殺し屋は後ろに下がりながら『レグルス・ネイル』を操って左右から反撃を仕掛けてくる。良いな操作できるの、めっちゃ便利じゃん。でもあれで引っ掻かれたら痛いじゃ済まないな。俺も一旦下がるか?
「───烈風」
「おっ」
そこにちょうどいいタイミングで後ろから強い追風が吹き俺はそれに合わせて地面を蹴る。
「いいチョイスだ、相棒!!」
追風に押され、強化された脚力も相まって俺は殺し屋を軽く飛び越える。そして身を翻して無防備となった脳天を狙いを定める。三度目の正直だ、こちらに気付いた殺し屋が見上げ、俺はニヤリと笑いながら発砲。
「ちぃ……っ!!」
殺し屋は『レグルス・ネイル』の防御が間に合わないと悟ると全力で横に跳ぶ。反応するのが早かった。俺が撃った散弾は全て命中することはなく、しかし肩と背中に何発か当たった。
「やっと当たったな。カス当たりだが、結構痛いだろ」
「………っ、………」
「『レグルス・ネイル』との攻防一体、確かに厄介だがお前が槍で攻撃する時は退けていた。攻撃の邪魔になるからだ。そして防御してから退かすまでの移動速度は一定、上からの発砲に対して防御ではなく回避を選択したのは、恐らく今以上は早く動かせないから」
片膝を付く殺し屋に、消費した弾薬分、新たに弾薬を召喚してポンプショットガンに装填ながらゆっくりと歩み寄る。
「……三度、三度撃つまでの流れでよく見抜けたものだ」
「俺が剣士なら攻めあぐねていただろうさ」
言いながら、撃つ。銃口を向けた時には『レグルス・ネイル』が殺し屋の前に出てきて散弾を防ぐ。
「近付いていいのか? もう、こちらの間合いだぞ」
「その魔法を退かした瞬間に撃ってやるよ」
もう一度撃つ。防がれるが、構わず近づきながら三発目を撃つ。
「退かせるもんなら、な」
「ふっ、確かに……こちらの攻撃よりもそちらの礫が速いか……だが───」
そしてもう一歩、俺が殺し屋へと踏み出した時。
「忘れたか、この槍がお前の心臓を突いた時を」
槍が赤く輝く。殺し屋は『レグルス・ネイル』を退かすことなく、片膝を付いた体勢から突きを繰り出して、
「『透過』……それがこの槍、魔武器の能力だ」
「カイト!!」
まるでそこに何もないかのように、殺し屋の槍は『レグルス・ネイル』を貫通、いや通り抜けて俺の心臓を突いた。
「この槍はあらゆるものを通り抜け、標的を殺す。あの夜、お前の部屋で待ち、来た瞬間に扉越しから心臓を突いたのだ」
槍が引き抜かれ、後退りながら殺し屋から離れると駆け寄って来たオウカが俺を抱き止める。突かれた場所を手で抑えながら、自慢気に槍の能力を話す殺し屋へと視線を向けた。
「……攻防一体の動きも、俺の推理も、今の一刺しを確実にする為の布石って訳か」
三度。殺し屋の槍が赤く輝いたのは、その三度だけ。
俺がリボルバーでの偏差撃ちを見事に外し、殺し屋が俺に急接近したのを見たオウカが土人形を間に割り込ませた時。これは土人形の後ろにいた俺を狙って突こうしたのだろう。
次に、オウカの土人形に槍が掴まれた状態から逃れた時。これは単純に能力で拘束を文字通りすり抜けた。
そして槍で攻撃する時は『レグルス・ネイル』を退かすのを見せ、そうしなければ槍での攻撃はしない又は出来ないと思わせてわざと追い詰められてからの、魔法越しから必殺の突きを繰り出した。
「三度目の正直か。見事にやられたもんだ」
「カイト、しっかり……っ」
オウカに体重を預けてゆっくりと座り込む。やべ、また泣かせてしまった。
そんで殺し屋は立ち上がり、槍を手に近付いてくる。さっきとは立場が逆転した形だな。
「たとえ依頼主が消えようと、その依頼は達成する。今度こそ終わりだ」
「終わり、終わりか、ああ───そうだな、ここで終わりだ」
「……?」
俺の言い方に何か感じたのか殺し屋の足が止まる。
「見事だよ殺し屋、いや……元帝国軍の軍人さん」
「なっ!?」
「えっ!?」
これには殺し屋だけでなくオウカも驚愕した。
「元が付く、だがこの王国に帝国の、しかも軍人が二年も殺し屋を生業にしてるのは俺も予想外だった。でも少し考えれば、そういう手もあるのかって感心したもんだ」
「なぜ、私の出身を……っ」
「調べあげた。王都を出入りする時は門番から必ず身分とか確認され、記録される。だが都市の外側である『貧困街』に門番はいない。だから防壁の門よりも侵入しやすい。それにここの住人は他人に興味がない上に、知らない顔を見ても『貧困街』の新入りか、くらいにしか思わない。身を隠すにはうってつけだ」
俺は立ち上がり、不敵に笑う。
「味方を作ったのは迂闊だったな。お前と仲良くしていたヤツは、俺とも仲良しなんだ。あの野郎、自分が一番大事でな。金貨を渡したらべらべらと話してくれた。ああ、それから……」
俺は槍で刺された場所から手を退ける。
「お前の槍は届いてねぇよ」




