第五十一話「私の魔法」「俺は無謀ってやかましいわ」
私の魔法をカイトは最高だと言った。
私が行使する魔法は『ガタノゾア騎士団』のように大規模な魔法を連発したり、オリジナルの魔法を使う訳ではない。誰にでもやれる、でも小細工だからと正々堂々な騎士には好まれない魔法だ。
魔法には火、水、土、風、雷、氷の基本六属性。そして光と闇の上位二属性があり、魔力の消費量や規模から初級、中級、上級、最上級、極級の五段階に分けられる。段階が上がっていくごとに詠唱も長くなっていく。
基本六属性は誰にでも使えるけどその人の気質などで得手不得手があり、上位二属性になると使える人は限られるし、上位二属性が使える代わりに基本六属性が使えなかったり不得手だという人もいる。
そして私は───生まれつき魔力が多い代わりに、基本六属性と上位二属性の全てを初級しか使えない。
初級は魔法を学ぶ過程で覚える簡単な魔法ばかり。上位二属性に至っては使用者が少ないので学ぶ機会すら限られる。魔力が多く、属性全てを使えるのに、戦闘で役に立たない小規模な魔法しか行使できないのでは宝の持ち腐れだと言われたこともあった。
それが嫌だったから、なんとか戦闘で役立てられるよう試行錯誤した。幸い、騎士団は戦闘をする機会に恵まれているから練習するには適していた。シム団長やアーゼス副団長に事前に話しておけば、もし失敗してもフォローしてくれた。偵察班の先輩たちにも相談して色々試した結果、
『この多い魔力を一点に叩き込んだら面白いのでは?』
ふと、そう思った。
初級魔法はその効果の低さから簡単な防御系の魔法で、というかちょっと体に魔力をまとわせるだけでも防がれるくらいに弱い。だから初級しか出来ない私の魔法を見たら相手は油断して、甘い防御で済まそうとする。
魔法の優劣はそこに込められた魔力の量で決まる。ただの初級魔法に対してそれを防げる程度の少ない魔力がぶつかれば勝つのは防御の方だけど、その初級魔法に込められた魔力が初級を越える量ならどうなるか。そんなの考えるまでもない。
『見た目は初級、でも込めた魔力量は上級。……ははっ、そうだ、これならっ』
そこからは全属性の初級魔法を調べあげ、習得する為に練習し、同時に問題点を洗い出しては改善した。
調子に乗って魔力を込め過ぎれば、いくら魔力量が多くても戦闘中に枯渇する可能性がある。それを避ける為に空気中の薄い魔力を集めて自分の魔力の代わりにした。
それから確実に私の魔法を当てる為の手段。やはり無駄撃ちせずに確実に当てたい。そこで私が目をつけたのは武器、主に投擲するタイプの刃物。
闇雲に魔力を込めて威力を上げた初級魔法でも結局は防御系の魔法で防がれる。それは魔法の発生源が、相手の防御の外側からで内側ではないから。なら発生源を防御の内側にすれば防御を突破する必要も無い。
相手に刺した投げナイフや短剣を起点に、雷属性の魔法を発動すれば体内に直接電撃を叩き込める。
氷属性の小さな針は見えにくいからこっそり当てられるはず、そうしたら刺さった箇所から氷属性の魔力を一気に広げて中から凍らせる。
バランスを崩すだけでいいなら相手の足元の砂に魔力を流し込んで操作するだけでも十分だろう。
『オウカちゃん、顔。悪い笑顔になってるわよ』
考えれば考えるだけ面白そうなことが浮かんできて、実戦でも見事に決まってきた頃からだったかな、アーゼス副団長からやや引き気味にそんなことを言われるようになったっけ。
そして私の魔法について聞いてきたカイトに説明すると、
『最高だ、そして大好きだ!!』
『はえっ!?』
『でっかい魔法でドカンとするのもロマンがあって好きだけどさ、俺はそういう致命的な小さい針って感じの方が大好きだ!!』
『ああ……そっちかぁ……』
そっちか、と自分で言っておいてそれがどういう意味で言ったのかも、その後なぜ落ち込んだのかもどうしてか分からなかった。けど落ち込んだ私を見てカイトが慌てて私を誉めちぎってきて、それが恥ずかしくて、でも嬉しくて、我ながら単純だなぁと思った。
『これでも自覚しないかあ……!!』
なんかシム団長とアーゼス副団長が頭を抱えていたけどあれはなんだったんだろう。
───それはそれとして、今はカイトを殺そうとした殺し屋への仕返しだ。上級並の魔力を込めた電撃を纏う短剣を持たせた、同じく上級並の魔力で形作った土人形を操って殺し屋を拘束すると同時に攻撃させる。
これで上級魔法を数回使ったようなもの。空気中の魔力も使っているから少しは魔力の消費を抑えているにしても相当な消費量で普通ならこれで魔力が空になるけど、私の魔力量はまだまだ半分も使っていない。
「この魔力……っ、どうりで硬いはずだ」
殺し屋が呟く。
「だが、この程度で止められるとは思うな……獣人!!」
「っ!?」
殺し屋が持ち、今は土人形で掴まれていた槍。それが再び、掴まれる前に見せたように赤い輝き出すと抵抗もなくスルリと土の拘束をすり抜けた。
「"獅子よ、焔を纏いし爪を以て掻き潰せ"───レグルス・ネイル!!」
更にその槍を地面に突き刺すと、殺し屋に迫る複数の土人形の周囲に湾曲した鉤爪が付いた燃え盛る一対の手甲が出現。瞬く間に土人形を滅茶苦茶に掻き、私の魔法は形を維持出来ずに崩壊。ただの焼砂となった。
「火属性中級魔法、それも武装型かぁ……あれって遠隔操作できるっけオウカ?」
「魔力を余分に使うけど出来るみたいだよ」
「んで、その余分な魔力が上乗せされた分、威力も上がってると。そんなのが維持されたままアイツの後ろに浮かんでる、そうなるとだ───」
カイトは持っていた銃を消すと、別の銃を召喚する。確か、しょっとがん……だっけ。あれを使うということは、そっか、大丈夫かな。さっき外しまくってたのに。
「前に出る。探ってみるわ」
「気をつけて」
やり取りは簡潔に。カイトは殺し屋へと駆け出して行き、対する殺し屋が『レグルス・ネイル』を交差させた状態で前に出し、槍を持ち直して構える。
「───ん、まあ……この手でやってみっか」
そう言いながら、カイトは接敵を阻む『レグルス・ネイル』に向けて引き金を引いた。




