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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第五十話「ちゃんと当ててよ」「狙撃なら当たるのに……」

お互いに見合っての戦闘は俺が一番やりたくないことだ。


今は元がつくが偵察騎士としての意見でもあるし、俺の戦闘スタイルとしても合わない。俺にとっての戦闘とは相互に敵対する二つの勢力による暴力の相互作用などというリスクがあるものではなく、ノーリスクで相手に戦闘をさせる前に戦闘不能にして目的を達成する為に行使する行動をさす。


情報収集をし、事前に罠を仕掛け、策略にはめる。そして無抵抗で無警戒の相手を意識外から仕留め、交戦状況を作らない。それが俺のやり方。


「当たるかよ」


しかし、全てがその通りにいくほど世界は甘くはない。


騎士団にいた頃も俺の力不足で失敗したことがある。先輩方は気にするな、と笑ってくれたが何人か怪我をさせてしまった。それは俺にとって転生してからの大きな失態で、数ヶ月たった今でも忘れられない。


前世では滅多に見ることはない痛々しい傷を見て俺は大きなショックを受けた。あんなものは見たくはない、彼らにあんなものを負って欲しくはない。だからこそ、もし俺にとっての戦闘が失敗もしくはそれが出来ない時───真っ向勝負をすることになった時の為に、それに対応出来るようにした。


「む……」

「避けるかっ」


体力強化などの基礎的なトレーニングはもちろん、あとは俺の脚力特化型である【身体能力:B】の【脚力強化】を活かす為に、反射神経ないし反応速度の強化トレーニングをやりまくった。相手の攻撃を認識し回避するまでの間にタイムラグがあって攻撃を受けたら折角の【脚力強化】が無駄になるからな。


「これ結構自信あったんだけどなぁ……」


殺し屋の漆黒の槍による突き。先ず薄暗い空間では見えづらい色が厄介だが、槍を持った右手を引きながら距離を詰めてきた殺し屋を見て、突きが来ると予測した俺は、


【脚力強化:B→A】


自身の脚力が強化されるのを感じながら、突きが来ると同時に小さく横に跳びリボルバーで発砲する。回避と攻撃の一体技だったが、これも殺し屋は素早く身を引いて弾道から逃れた。


「聞いていた通りの素早さだ。並みの戦士では相手が目の前から消えたように見えるだろう。そしてその武器で頭を抜かれる」


最初の不意撃ちと、今ので撃った二発を殺し屋はしっかり避けた。俺が召喚する銃はこの世界にはない遠距離武器だ。


魔法というものがあるからこそ、遠距離武器の開発は進んでいないこの世界では唯一無二の鉄の武器。それを初見にも関わらず殺し屋は避けた。そして先程の殺し屋が言った、聞いていた通り、という言葉。これが意味するのは、


「お褒めに与り光栄だ、依頼主に色々教わったようだな。余計なことしやがる」

「ああ、依頼主ベルンはお前について詳細に語っていた。それが全てではないだろうが対策するには十分な情報量だった」


あのクソ野郎、性格は置いといて実力とか見る目だけは優れてるのが腹立たしい。


「それは小さくとも高い威力の礫を飛ばす武器、魔法のように追尾したりせず一方向にのみ進む。槍の突きと同じく、点の攻撃だ」

「ご明察。そして礫が来るタイミングは俺の手を、指の動きを見れば分かる、とか言ってたんじゃないか?」

「ああ、お喋りな男だった」


ニヤニヤ笑いながら俺のことを話すベルンの顔が目に浮かぶ。うん、あとでアネットさんに連絡してキツい拷問を追加してくれるよう言ってやる。


「ホント、イラつく野郎だった───な!!」


銃口を向ける。殺し屋は動きだし、迂回するように俺の横を抜けて後ろに行こうとする。させまいと俺は体の向きを変えながらリボルバーの残弾四発、全てを走る殺し屋を狙って撃つ。


「やはり動いてるものに対しては当てにくいようだな。しかし凄まじい威力だ、頭に当たったら即死だな」

「あー、もう俺の偏差撃ち下手くそー!!」


虚しく外れた弾丸は石材の壁にめり込みひび割れ、殺し屋が再度俺に急接近してくる。



「───土人形(ドール)



その時、俺と殺し屋の間に割り込むように石と砂で作られた人形が両手を広げて立ちはだかった。


「この程度の足止めで……っ」


殺し屋の槍が赤く輝き、そのまま土人形へと槍を突き刺そうとする。


「受けて、掴め」


対する土人形は槍で体を貫かれると、即座に両手で槍を掴む。更に胴体が変形して無数の腕となって殺し屋の体に絡み付く。


「私がいることを忘れないで」


土人形を作り出した張本人───オウカはそう言いながら土人形を追加して、殺し屋を取り囲む。追加した方のそれぞれの手には短剣が握られている。


「このまま動けなくして、刺し傷で一杯にしてあげる」

(あれ、オウカ、なんか怖くなってね?)


その声に違和感を感じて振り返る。後ろから美しく長い金髪と尻尾を揺らし、俯きながらフフフと笑みを浮かべて近付いてくるオウカは、妖しい魅力を放ちながらも少しずつ背筋が凍るような恐怖感があった。


「あのー、オウカさん? いつもと様子が違うぞー?」

「私はいつも通りだよ、カイト。でもね、その殺し屋はカイトを殺そうとしたんでしょ? 死んだふりをして隠れてたのを直ぐ教えてくれなかったカイトのこともちょっと許せないけどその殺し屋はもっと許せない、だから───」


教会の屋内に風が吹く。すきま風ではない。これはオウカから流れてくる、魔力を含んだ風だ。あっ、察し。


「死ぬほど後悔させてから二人で殺そ?」

「ひぇ……」


顔を上げたオウカの瞳に光はなく、暗闇の奥の心で何かを噛み躙っていた。それは間違いなく、地の底から湧き、地を這うドロドロの溶岩のような、私怨百パーセントの怒りだった。


「む、う……」


うわ、殺し屋までちょっと引いてるよ。こわっ、うちの相棒こわっ!?


土人形(ドール)……刺して」


オウカが手を開いて、グッと握る。その動作と連動するように殺し屋を取り囲む土人形が持った短剣が素早い動きで突き進む。


「チッ」


迫る土人形に危機感を感じたのか殺し屋は逃げようとするが、武器である槍が掴まれているから引き抜けない。逃げるならば槍を手放すしかない。そして土人形が持っている短剣は、恐らくはオウカの得意なアレだ。


電撃(ショック)


短剣が帯電する。


オウカは相手に直接魔法を当てるのではなく、魔法で生み出すのではなく、物を介して行使する魔法を好む。以前彼女から説明された時、俺はますますオウカとの出会いを喜んだし、確信した。


コイツとならどんな盤面でも壊せる、と。


「さあ───盤外外道と金毛狐妖、俺たち二人の手練手管をご覧あれってな。あとオウカ。ちょっと冷静になれ」

「いたい……」


とりあえず怖いので、コツンとオウカの頭を叩いて正常に戻しといた。

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