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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第四十七話「やっぱ落ち着くな」「もっと撫でて」

「───じゃあ、カイトはずっとベルンの調査を?」


オウカが落ち着いて説明を求められた俺は正直に話した。なお、泣き止んだオウカは今度は尻尾ではなく両腕で俺に抱きついている。押し付けられる柔らかな彼女の胸の感触がとても素晴らしい。


「ああ、俺の一方的な決めつけだったんだが、ベルンの周囲を調べてみたら思ってたよりも真っ黒だったからな。それに証拠の隠滅もお粗末で、調べれば調べるだけボロが出た。そんな矢先に殺し屋による暗殺だ。まさか向こうが先手を打ってくるとは思わなかった」


あっ、ちょっと抱きつく力が強まった。オウカにとってあまり思い出したくない出来事になっちまったようだ。


「どうやって、殺し屋の目を欺いたの? あの朝、廊下に倒れていたカイトの体は偽物だったってこと?」

「まあ、見てもらった方が早いな」


俺は久しぶりに『保管庫』から拳大の球体を召喚し、それを床に投げる。


「っ!?」

「デコイ───お前の土人形(ドール)みたいなもんだな。違うのは、この通り見た目は俺と同じの肉人形ってところか」


パシュンと球体が弾けると白い煙と共にアサルトライフルを持った俺にそっくりの人が現れ、それを見たオウカは耳をピーンとしつつ目を丸くした。うん、かわいい。


「生気は感じる。鼓動の音も聞こえるのに、心が空っぽの人形……」

「ああ。血もあるし臓器も肉もある。意思のない生きた人形。そしてこれは生死に関係なく一定時間後に消滅する。これを身代わりにして殺し屋の目を欺いたって訳だ」

「そんなもの、聞いたことがない。この国に……ううん、世界にこんな精巧な人形はどれだけ探しても……」

「そりゃ俺の能力で召喚したものだしな」


最初は驚いたさ。まさかデコイが肉人形だとは思ってなかったからな。


『ファストナ』では最低レアの武器と共に出てきて、一緒に行動するそこまで強くないというか弱い味方のBot(ボット)で、ソロモードで使えば数的優位な状況に出来るアイテム……と聞こえはいいが、俺にはちょっと合わなかった。


俺のプレイスタイルは終盤までは極力戦闘を避けて、たまに漁夫の利で相手の武器をかっさらって、最後に残り三人になって俺以外の二人が戦ってる最中にまとめて爆発とか狙撃したりで勝つというスタイルなのだが、このデコイは敵を見つけると問答無用で撃ち始めるもんだから迂闊に使えないのだ。


(最後に俺と相手の二人のみって時に使ってみたけどデコイを投げるモーション中にあっさり俺が倒されたり、そもそも弱いから無視されたり、リベリオンなんていうデコイが敵側になるデコイメタのアイテムが出たりと、あまり良い思い出がないなぁ……)


時間になったのか青い粒子となってデコイの俺が消える。


「殺し屋が去った後、俺は殺されたことにして身を隠した。死んだ人間を警戒する必要なんてないからな。お陰で動きやすかった」


あとは森林でベルンに話した通り。


事前にシム団長と打ち合わせ、第二王女に詳細を伝え、第二王女を通して『獣王国』に協力してもらい、罠を仕掛けて獲物がかかるのを待った。ベルンが人目を避けて行動している場面もあったが、砦の一件の時にオウカが憑けさせていた『野狐』で筒抜けだった。


やっぱ使い魔いると色々役立つなぁ、俺も欲しいわ。いやその前に魔法適正をどうにかすべきか?


「とまあ、俺が一ヶ月なにしてかについては聞いての通りだ。協力ありがとな、オウカ」

「………ん」


オウカの頭を撫でると嬉しそうに目を細める。こちらが撫でやすいように耳を倒し、尻尾は彼女の感情を表すようにユラユラとご機嫌に揺れている。


「………………………」


オウカは初めて会った時と比べてかなり雰囲気が柔らかくなった。


最初はかなり警戒されて縛られたりしたが、シム団長の一声で次の日には仲間となり、最高の相棒となった。互いに能力とか思考が似た暗躍タイプ。騎士団の任務ではいつも組んでいたしプライベートでも彼女は俺を誘って、俺が個人的に活動している時以外はほとんど一緒だった。


『俺の相棒を───大切な人に手を出そうものなら───』


ベルンに向けて言った言葉は俺の本心であり、気付いたら口から出ていたもの。そしてオウカの涙にすごいダメージをくらって、こうして頭を撫でたり、二人で過ごす時間が何よりも至福だと思えるのはきっと……()()()()()()()()()()()


(でも、だからこそ───自分が最低な奴だって改めて思う)

「カイト……?」

「オウカ、頼みがある」


撫でるのを止めてオウカを抱き寄せ、耳元で囁く。


「か、カイト……? なにを……」

「俺を殺した気になってる殺し屋の居場所が分かった。今のうちに始末したい。力を貸してくれないか?」

「……場所はどこ」


空気が変わる。俺とオウカの間にあるのは甘い空気などではなく、任務前の作戦を練る段階のような緊張感がある張り詰めた空気だ。


「『貧困街』にある廃墟になったでかい教会だ」

「あそこか……その殺し屋は強い?」

「おそらくな。それに殺し屋のくせに槍を使っていた、本人もだがその槍を特に警戒した方が良さそうだ」

「分かった、私も手伝う」


俺とオウカは頷き、準備に取りかかる。


「目には目を……アイツのお陰で予定が狂った、依頼だとしても殺しに来るのならそれ相応の罰を与えないとな」

「カイトを殺そうとした報いを、必ず受けさせる……ッ」


当初の予定では殺し屋は夜に始末するつもりだったが、シム団長がオウカの仕事を早めに切り上げてくれたお陰で直ぐに行動できる。レンと勇者の試合までには終わらせたいね。


「カイト、準備できた」

「ああ。それじゃあ、行くか」

「うん」


そして俺たちは部屋を出る。目指すは『貧困街』。


何度か探りを入れたから、たぶん相手には気づかれているかもしれない。こちらの存在に気づいて警戒されている相手とは本来戦いたくないんだがオウカもやる気になっているし、俺が調べた通りならここで多少の無茶をしてでも対処しておきたい。


(いざとなったら、アレを使うか……)


『保管庫』に眠っている武器の中でも特級の武器。俺の信条には反するが、確実に始末する為だ。周りに被害が出たらその時はその時で殺し屋に責任をなすりつけよう。


「頼りにしてるぜ、相棒」

「うん、任せて。カイト」


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