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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第四十六話「カイトのバカ」「ここでも言うか」

レンくんと勇者カムイとの試合を国王は了承した。だが勇者への経緯の説明が必要であることと大闘技場のフィールドの整地を兼ねて、試合開始の予定時間は二時間後に始まることになった。


観客たちは大闘技場の外に出て並ぶ屋台などで時間を潰し、大闘技場内の警備をしていた騎士も休息時間を得て外出していく。そんな光景を横目に、私とシム団長は場内のとある一室に向かっていた。


「シム団長、ジブリール様からの話って……」

「まあ予想通りだと思うぞ」

「ですよね」


長い廊下を歩き、私たちは王族用の控え室の扉の前で止まる。


「今いるのはジブリール様だけなんですよね」

「ああ、勇者への説明に国王が直々に向かっている。女王陛下も付き添われて一緒に行っている」


レンくんの要求で会場はかなり沸いた。


騎士団団長を下し、見たこともない魔法と見事な刀捌きで勝ち進んだ若き準Aランクの冒険者。対するは王国に召喚され圧倒的な力で世界の危機を救ったものの、ここ最近はマイナス評価が積み重なっている勇者カムイ。その二人による試合は確かに最後の締めくくりには相応しい。しかもレンくんは最後の一戦の報酬で得られる優勝者としての特権を、この試合の要求に使ったことで試合はほぼ確実に行われる。


なぜなら、特権もなく要求してもそれを了承するかは勇者次第。拒否したとしてもこれは強制でもないし、逃げたと思われないように言い訳するのも簡単だ。でも、優勝者の願いを国王が叶えるという特権を使えば、まず国王がその要求を無視できない。無視したら観客からの反感を買いかねないし今後も願いの内容では無視されるなら出場する意味がないと思う人が出てくるからだ。


だから勇者に試合に出てもらうよう言うしかなく、ここで勇者が断ったら、人々から見た今の勇者の評価から考えて……国王からの頼みをも拒否してまで試合に出たがらない臆病者だ、なんて言われるだろう。それは勇者も嫌なはずだから、了承するしか道がない。


(でもあの勇者なら二つ返事で了承しそうなんだよね、あの性格だし……)


勇者は自分の力が一番優れていると信じて疑わない、聖女と第一王女におだてられて意気揚々と来るだろう。観客の安全を考えて最大出力で魔剣と聖剣を使わないといいけど……。


「入るぞ」


コンコンとシム団長が扉をノックする。直ぐに、いいっスよー、と気の抜けた返事が聞こえて扉を開けると、


「────ぁ……」

「よう、オウカ」


王宮と変わらない豪華な内装の室内。


テーブルを挟んでジブリール様の向かいの席に座っている黒マントの青年が私に向けてそう言った。


「……………………」


ずっと、会いたいと思っていた。


隊舎の中で死んだと騒ぎになった時は酷く荒れたし実は死んでいなかったと知った時は流石にキレた。


何度か手紙でやり取りして、こちらの怒りを教えた後の返信は決まって最初に謝罪と、大切な相棒だという言葉で、それが私の心を溶かしつつも早く直接会いたいという思いが強くなっていった。


その会いたかった人が、今、目の前にいる。少し申し訳なさそうに、でもこうして再会出来たことを喜んでいる顔で。その優しい笑みに、立ち上がり歩み寄ってくる彼に、私は溢れる感情に身を委ねるまま駆け寄って、



「カイトのバカぁ─────!!!!」

「ぶふぉうァ!?!?」



私の尻尾による渾身のフルスイングをカイトの腹部に叩きつけた。


「まあ、これはカイトが悪いな」

「オウカさんもあんなことがあってまだ無自覚なのもすごいッスね」




■■■




「……流石は、モフモフで、触ると押し返される弾力のある尻尾。腰が入ったフルスイングと尻尾の圧力が相まって中々の威力だぜ……」


オウカからの制裁でしばらく悶絶していた俺は両手で腹を抑えながら呟いた。


「オウカへの連絡が遅くなった結果だ。だから言っただろう、オレよりもオウカに先に連絡した方が良かったんじゃないかってよ。あの日からのオウカの荒れ具合は凄かったんだからな」

「アタシも言ったッスよー、大切な相棒ならその日の内にでも連絡するか多少のリスクがあってでも直接会っておいた方が良いって言ったのに、計画優先して話を聞かなかったカイトさんが悪いッス」

「全くもってその通りです……」


ぐうの音も出ないとはこのことだ。


「カイト、私より計画を優先したんだ……そっか……そっ……か……」

「あ、いやっ、違うんだオウカ、違くはないけど違うんだ」

「初手違うは違うんスよ」


現在、オレの隣にはオウカがぴったりとくっつき、尻尾が腕に絡み付いている。モフモフな毛の圧力で締め付けられていてそろそろ手が痺れてきたが、ここで振りほどくとより悲惨なことになるという直感とオウカへの罪悪感からそれは出来ないのでこうして大人しく罰を受けている最中だ。


「オウカ、警備の任務は切り上げて今日はもう好きにしていいぞ。カイトの計画についてはオレがジブリール様から聞いておく。そっちは本人から聞いとけ」

「はい、ありがとうございます。ジブリール様、私はこれで失礼します」

「はいはーい。ま、早めに仲直りするッスよ」


言うが早いかオウカは立ち上がって俺を引っ張りながら部屋を出る。


「あのー、オウカさん?」

「黙って」

「……はい」


今は俺に発言権が無いらしい。


「……転移」


オウカがパンと手を合わせると足元に魔方陣が展開され、次の瞬間には大闘技場から隊舎へと移動していた。この両手を合わせる動作だが片手は現在地を、もう片手には行き先を示し、手を合わせることで二点を繋ぐ───みたいな意味があるらしい。


隊舎の中に入り、そのまま俺の部屋へ。暫く空けていたからなんだか懐かしさを感じる。気にしていた煙草の匂いも消えていて、あれ、なんか女物の服とか道具がちらほら見えるけど、確か俺がオウカにプレゼントしてたヤツでは?


「……なあ、オウカ───」


なんで俺の部屋にあるのか聞こうとした時、トンとオウカが俺の胸に顔をうずめてきた。


「お、おい……?」

「……っく、ぅう…………」


いったい今度はなんだと思って、俺は激しく後悔した。自分がした行いを責めた。


「やっと、会えた……っ、私、ずっと会いたかった……」

「…………………」


……ああ、本当に最低だよ俺は。オウカをこんな風にしたんだから。この姿を見て俺の胸が締め付けられるように苦しくなるのは、まあ、俺にとって彼女の存在がそれだけ大きな存在なんだってことなんだろう。


「悪かった……大丈夫、もうあんなことはしない……」

「ゆるさない、ばかっ……う、うぅ───」


幸い、他の騎士は大闘技場の警備でみんな出払ってる。隊舎にいるのは俺とオウカだけ。ここで起こることを知る者は他には誰もいない。だから今は、ただ彼女の悲しみを受け止めることだけを考えていればいい。


「……俺も、オウカに会いたかった」


そして、本格的に泣き始めたオウカを、俺は強く抱き締めるのだった。

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