第四十5話「これはカイトの匂いっ」「……えぇ?」
突然の最終戦中止、そして第二王女による僕の相手だったベルンさんの不正暴露。混乱する観客に対して第二王女は詳しい説明で応えた。
慎重に調査し、裏を取り、罪が確定的となったのが数日前。そこから『獣王国』と連絡をとり連携して伯爵を拘束したのが今朝で、伯爵家を徹底的に調べ上げて証拠を入手したのがついさっきである、と私兵からの連絡を受けたのだと言った。
伯爵という、それなりに高い地位の者を捕らえるだけでなく勝手に『獣王国』に引き渡すのは如何なものか、捕らえるなら自分たちに言って頂ければ、などと一部騒ぎ立てた貴族が騒ぎ立てたけど、
「ご安心を。既に話を通し、納得して頂いております。この場にはいませんが宰相からも了承を得てますので」
第二王女は隣にいる国王と女王を一瞥してからそう言うと貴族たちは黙るしかなかった。
(問題があれば実行する前に国王とかが止めてるだろうし、国のトップが納得してるならいくら下が喚いたところで無駄ってことか……)
国王がそう決めたなら、と貴族たちが口を閉ざしたのを確認して第二王女は話を続ける。
「港湾都市『アルスト』はゼンダー伯爵家とタチアナ子爵家が管理していましたがもうできません。今後については宰相の方で人選をし、管理者として『アルスト』に送りますがこれは仮のもので『獣王国』との話し合いが落ち着いた後、貴族の中から管理者になってくれる者を選ぶ予定です」
それを聞いて目の色を変える貴族が何人かいたのを見た。
管理者になって私腹を肥やそうと考えているのかもしれないけど、まあ僕には関係ないことだ。とりあえず今はこの状況を───相手が消えてフィールドに僕だけがいる状況が、この後どうなるのか……。
「『サザール騎士団』ベルン・タチアナは選抜者としての資格を剥奪。よって無効試合となります。選抜者の中で唯一無敗の冒険者レンを、今回の『魔剣武闘会』の優勝者とするのは簡単……なのですが」
「……っ……?」
最上層席にいる第二王女が僕へと視線を向ける。
「試合開始前にベルン・タチアナがした勝利宣言での盛り上がった結果がこれです。冒険者レン、あなたにはもう一戦やって欲しいのです」
「えっ……」
「このまま終わるのは簡単です。でもその場合は不完全燃焼で観客の皆さまは満足しません。なので最後に相応しい戦いで締めくくって欲しいのです。代わりに勝ち負けに簡潔なく優勝者としての特権はあなたのもの。どうでしょうか?」
その問いに僕は少し考える。
確かに観客の様子からしてこのまま終わるのは変な感じだ。盛り上がりが最高潮のところで水をかけられた、まではいかないにしても不満が出るだろう。
「相手は僕が決めても良いのでしょうか?」
「構いません」
「この場にいない人の場合はどうなりますか?」
「国内ならば今日中に呼べるでしょうが、国外となると難しいですね」
うん、なら良い。最後に相応しい戦いの相手としては十分だ。こちらもまだ十分に余力はある。というか、ここまで入念に準備体操してきた意味がなくなるのは嫌だ。
「僕の目的はある人と戦うこと。その為に、今日ここに来ました」
「その方は国内に?」
「はい、この王都で暮らしている人です。現状、彼を越える人は国内にはいないと考えています。そして剣の道に生きる者として僕は強者である彼と戦ってみたい」
僕の言葉に察しがいい人は目を輝かせる。
この王国の最高戦力。それは国王直属の『サザール騎士団』や他の騎士団でもなく、高ランクの冒険者でもなく、王国において唯一生存と自由を与えられた異世界からの来訪者。
その圧倒的な力でかつては魔獣の大群を全滅させた者にして、どんな理由があったのかは知らないけど僕の小さな主人から家と家族何もかも───全てを奪った、許しがたき存在。
「『勇者』───カムイ・カリオスとの一騎討ちを、僕は望みます!!」
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「うーん、あれは怒ってるやつだな。強者だと相手を立たせる言い方をしつつも内心ではどうボコボコにしようか考えてる」
とある方法で『ローレリア大森林』から数分で王都に戻ってきた俺はフィールドの真ん中で力強く勇者との一騎討ちを所望する見知った青年を見ていた。
「まあルイズとの関係は良好だし、彼女のことを思ってなんの非もないのに家も家族も奪ってった勇者に対して怒るのは当然か。不安なのは、レンがやり過ぎた場合だけど、一応お嬢にも聞いておくか。俺が飛び入りして止めるって手もあるが、あまり顔出しはしたくないんだよなぁ……」
正直、勇者が戦ってレンが負けるイメージがわかない。
カムイのランクは当然Sランク。それだけ見れば化け物レベルなんだが、調べた限りでは正直俺でも苦戦はするけどなんとかなりそうだと思えるくらいにカムイは色々とお粗末だ。俺でもこれなのだからレンなら余裕だろう。
レンの怒り具合によってはカムイの方を心配するし、ここで再起不能にされては困るから止めに入るのも視野に入れておいて、でも多少は痛い目にあうのを眺めたいから止めに入る判定は緩くする。
「とりあえず、一番警戒するべき相手はカムイじゃなくその横にいる二人」
カムイを気に入って今は同棲し、毎晩ハッスルしている第一王女のカテリーナ・フォン・アデリアと聖女のアリシア・スピネル。この二人について情報がいまいち足りない。
「カムイとの愛の巣に引きこもってるせいで新しい情報が出てこない。入手した情報もちょっと古いものしかないせいで現時点ではまだどう扱うか決めかねる。残すか、捨てるか、早めに決めないとな……」




