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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第四十四話「駒は盤外を語り」「盤上にて怒りを垣間見せる」

「カイト……貴様っ、いつから……」


アネットさんからの突然のギャップに少なからず衝撃を受けていた時、足元で転がっているベルン先輩が───あー、もう『先輩』は不要か、ベルンが痛みに耐えながら言ってきた。


「そこの獣人とは初対面ではないな……それに第二王女の手際の早さといい、お前が用意したあの空間といい……ほんの数日で、うぐっ……出来るはずがない。いったい、いつから企んでいた……!?」


うーん。別に説明してやる義理もないんだけど、たまにはタネ明かししてみるのもいいか。あとなんか隣でアネットさんが、これも我が王へ報告しなければ、なんて呟いて手帳出してるし……言える範囲内に抑えるか。


「その前に、出血が多いから応急措置だ。出血多量で死なれると面倒だからな。アネットさんは魔封じの輪を頼む」

「分かりました」


アネットさんは腰に紐で巻き付けていた雑嚢から銀色の輪っかを取り出してベルンの首に取り付ける。


「医療キット……は全快させちまうから、包帯だな」


俺は『保管庫』から赤い十字マークがついた包帯を召喚してベルンの穴があいた手足に巻き付ける。初めの数回では血が止まらず滲んできたが、十回ほど巻いたところで完全に止血された。


「痛みが、ない……?」

「なんと……」


ベルンとアネットさんが驚いている。


そりゃそうか。ゲームでは巻き付けるだけで一定量回復する効果が、この世界ではそのまま再現される。魔法を使わず、誰でも使えて、軽い怪我なら直ぐ回復するなんて代物は滅多に無いだろう。

まあ、巻き付けるという手間がかかるから、市場に出回っている品質で効果がバラける回復ポーションよりはずっといいという訳でもない。ポーションは飲むだけでいいからな。


「あくまで応急措置。これ以上の回復は『獣王国』の出方と、アンタの態度次第だろうな。……さて、じゃあお求めのタネ明かしだ。いつからかという質問だが、俺が隊舎の中で殺し屋に殺された日からだから、えーっと……だいたい一ヶ月くらい前か?」


本当はここまでやる予定は無かった。本来ならもっとやっておくべき『本命』があったのだが、誰かさんが殺し屋を雇って俺を殺しにきたもんだから予定が変わったのだ。


「俺が死んだと思って殺し屋も早々に帰ってったし、アンタは殺し屋の報告を信じた。それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あの事件は思ったよりもあっさり収束した」

「団長と打ち合わせしていた、だとっ!?」

「ああ、俺の入団が団長の独断なのは『サザール騎士団』の騎士全員が知ってることだ。これは流石に問題行動だからな、もし俺の身になにか起こり怪しい人物を勝手に入団させたと知られて団長の立場が危うくなる可能性を考えて……その対策として、もしもの時は俺を()()()()()()()()()として団長の手で処理されるよう決めていたんだよ」


だから俺の死体も王宮の執務室に紛れ込ませた俺の書類も直ぐに処理され、


『騎士団に所属していないどこかの誰かが隊舎に潜入し、盗みを働いていたところを団長が発見。抵抗されたのでやむ無く斬った』


命令するだけしてまともに『サザール騎士団』の報告を聞かない国王と宰相には団長自身がそう報告するだけで簡単に終わった。


「アンタと伯爵が裏でやっていることについては死んだ日にちょうど知ってな。どうしたもんかと考えてるときに殺し屋が来た。ただその殺し屋が仕留めたのは『俺』であって俺じゃない。アンタの意識が俺から離れた瞬間から、俺は行動を起こした」


日頃の情報収集で存在だけは知っていた第二王女にコンタクトを取り、彼女を通じて『獣王国』に伝える。あとは『ローレリア大森林』でベルンを迎え入れる空間を用意しながら、使者であるアネットさんと何度か連絡を取り合って、ベルンが有頂天になってバカやってる間に伯爵を拘束し、あとは今日という日を待つ。


まあ、片手間で第二王女のお手伝いをしたり『本命』の方をやったりとかなり濃密な一ヶ月だったな。


殺された『俺』については詳しくはアネットさんもいるし言わないでおくか。思わぬ副産物だがなかなかに使える手だ、簡単には明かさないさ。


「団長から与えられた貴族関係の仕事も、全て……仕組まれていた、のか……?」

「レザンア公爵家の仕事は第二王女を経由して依頼し、一芝居をうってもらった。その後の貴族相手の仕事は公爵家の芝居を信じた何も知らない貴族が勝手にやっただけだな」


公爵家の影響力は凄まじい。これは良い、と言えば誰もが簡単に信じる。そんなの、


「───そんなの、利用しない手はないじゃないか」


いくつもの貴族に依頼していては手間がかかるし証拠でも残って自分の首をしめてしまうかもしれない。だから貴族社会の情報が伝わる早さと一番影響力があり信用があるレザンア公爵家を利用した。公爵家がベルンの仮初の素晴らしさを広めれば、他の貴族はそれを信じるしベルンを通じて公爵家との繋がりを得たいと行動を起こすだろう。


そして俺の予想通り、ベルンには貴族からの仕事が舞い込み彼はその栄誉に上機嫌になった。上手くいきすぎて思わず笑っちまったね。


「もし、殺し屋を雇ってなかったら『獣王国』には悪いがここまでのことはしなかったし何かしてきたとしても、軽い仕返しくらいで済ませてた。逆にお前が俺にとっての逆鱗に触れていたらもっと酷かったな」

「逆鱗? それは……ぐああっ!?」

「カイト殿!?」


包帯で縛ったところを思いきり踏みつけて踵でグリグリと動かす。


『ファストナ』での包帯の回復量はそこまで多くない。ベルンの傷はそう簡単には治らないものだ。痛みを抑えて止血するくらいで、巻いたままを維持してればそれ以上の悪化はない───何もしなければ、だが。


「お前、俺の相棒を狙ってただろ」

「ア、っ……ガあ!?」

「伯爵と一緒に買った獣人の奴隷を餌にしてオウカを連れ出し、無理矢理にでもオウカを奴隷落ちさせて手篭めにしようとした。違うか、アァ?」

「か、考えていたギャアア!? 考えていただけっ、で、実際にはやってなグガァあ!?」

「……下衆め」


正直に言ったところで踏みつけるのを止める。最初は驚いていたアネットさんも、今は嫌悪感どころか殺意がこもった目でベルンを見下ろしている。


「俺は、俺に危害を加えてきたヤツは徹底的に追い込んで潰すが……俺の相棒を───大切な人に手を出そうものなら、死ぬことが救いだと思うほどの地獄を見せてやるつもりだった。それが無かっただけ良かったと思うんだな」

「ァ───ゥ───………」


最後にそう言って気絶したベルンをアネットさんに引き渡した。


「カイト殿は恐ろしい方です」

「ハッキリ言うな」

「でも同時に、尊敬します。大切な人の為にあそこまで本気になれる者はそう多くはないですから」


では、とアネットさんはベルンを馬の体の背中に乗せて走り去って行った。


「……本気に、ね。本気。本気……」


残された俺は彼女が言った言葉を繰り返し言う。


「───ああ、確かに本気だ。こればかりは本気でやるさ。そうでなきゃ、俺の気が収まらない。誰かに求められた訳でもない、俺自身がそうしなければならないと決めたから……」

『ンキュ~』

「ああ、お前も『憑依』お疲れさま。お陰でベルンの行動が丸わかりだった」


ポトリ、と木の枝から肩に降りてきた一匹の『野狐』を撫でる。


「じゃあ帰るとしますか」

『ンキュ!!』


頷く『野狐』を連れて、俺は王都へ向けて歩き出すのだった。

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