第四十三話「久々の俺のターンだ」「まずは派手に爆破ってな」
「死んだと思っていたが、流石は転生者といったところか。ヤツの魔槍を受けて死から逃れるとは……いったいどういう手品を使った?」
「そう簡単にタネ明かしをする手品師はいねえよ」
石造の壁や天井の隙間から差し込む僅かな明かり。奥にいけばいくほど暗闇が支配する薄暗い空間の中で。俺とベルン先輩の声だけが響く。
「第二王女からの指示だ。ベルン・タチアナ、お前を拘束する。大人しくお縄についてくれるとこちらも無駄な労力を使わずに済むんだが、返答は如何に」
「ハッ……お前が一人で私を拘束する? 私はAランクに匹敵する重騎士だ、たかがBランクのお前にそれが出来るとは思えないんだがね」
「確かに、BランクとAランク、たった一つしか差がないがその二つの間にある差はあまりにも大きい」
ベルン先輩がその通りだとばかりに笑みを浮かべる。
『サザール騎士団』の中で圧倒的防御力と防衛力を持つ重騎士で構成された一班。その中でも上位の実力を持つベルン先輩は、Aランク冒険者と言われても遜色ない力を持っている。それをたかがBランクの俺が一人で拘束するのは無理ゲーで負けイベントで───しかしそれは互いのランクを比べた時の話だ。
俺がなんの為に今まで身を隠し、今日の、今という瞬間に出てきた意味をベルン先輩は知らない。
「【身体能力:A】しかも【万能型】……愛用している長剣と大盾は魔獣の素材で作られた特注品。なおかつ剣の柄に嵌め込まれた炎の魔石により刀身に炎を纏わせることが可能、大盾は自身が考案した防御魔法の陣が刻まれ、魔力を込めることで前方に障壁を発生させる……恵まれた身体能力に優れた武具、一人で相手をするのは確かに無謀だな」
「なのに退く気はなさそうだな」
「言っただろ、第二王女からの指示だ。今は彼女の私兵みたいなものでね。たとえこれを無謀と言われようとお前を逃がす訳にはいかないんだよ」
そう言って俺は手に持っていたリボルバーをベルン先輩に向ける。
「面白い。では無様にその指示の為に奮闘するといい、私も全力で抵抗してみせよう!!」
ベルン先輩が大盾に身を隠しながら突っ込んでくる。重い鎧を身に付けているくせに早い。それに長剣を持つ腕どころか、その長剣すらも隠れてるからどう攻撃してくるか分からない。
「カイト、お前の武器は確かに脅威だ。しかし今までのお前の仕事を見てきたから分かる。その武器は守りが固い相手には威力を発揮出来ずに弾かれるんだろう。そんな武器でお前は私の大盾と障壁、二重の守りを破れるかな?」
ははっ、よく見てるじゃないか。
俺はその言葉を肯定するようにリボルバーを下ろす。そして勝利を確信したように笑うベルン先輩へ俺も───満面の笑みで、彼の足元を指さした。
「そこ、踏んだら危ないですよベルン先輩」
「なにを」
カチン、と。金属音と共にベルン先輩の足元と周囲の床が爆発した。
「うおおおおおっ!?」
「はい、ポチッとな」
次は『保管庫』から長方形の物体と端末を召喚して爆発で動きが止まったベルン先輩の近くに長方形の物体を投げる。そして端末のスイッチを押すと、先程の爆発以上の爆発が起こる。
「ギャアアアア───!!??」
おお、吹っ飛んだ。やっぱ盾と鎧がある分、頑丈だな。
「早く動いた方がいいせ。串刺しになるからな」
「ぐ、アアぁ!?」
あっ、遅かったか。
煙が晴れると、そこには床から突き出た無数の鉄の杭で手足を貫かれたベルン先輩の姿があった。
「ア、ぐっ……カイト……きさま、なにをし、た……」
「ここは俺がアンタを拘束する為に用意した空間だ。俺みたいな弱者が、なんの勝算もなくアンタに挑むと思うか? ───クリエイティブモード終了、ゲームモードをバトルのソロに変更」
【ゲームモード:クリエイティブ→バトル-ソロ】
【変更完了しました】
俺たちがいた石造りの薄暗い空間は俺の能力である【設定変更】でゲームモードを変えて用意した空間だ。
今までの通常のバトルモードから、特殊な空間に入り自身がそこを自由に設定できるクリエイティブモードを使用したんだが、例えるならこのモードはその空間の中でゲームプレイヤーは俺の【設定変更】みたいなことが出来る空間、と言えばいいのかな。
好きに景観を変えて、ルールを設定し、通常のバトルロワイアルでは出来ないミニゲームを作成出来たりするクリエイティブモード。これまでそこに俺は身を隠し、ベルン先輩を待ち構えていたというわけだ。
「あの空間はいわば中を異界化させた結界、そして俺たちがいる本当の場所は王都から離れた森林地帯……『ローレリア大森林』だ」
薄暗い空間は瞬く間にに消え去り、辺りは木々が生い茂る森となる。
「そんな、ことが……」
「お疲れ様です、カイト殿」
鉄の杭で穿たれた穴はそのまま、血を流しながら驚愕するベルン先輩の後ろから女性の声がした。
「その者が、件の?」
「ああ、ベルン・タチアナだ。手足はもう使い物にならないだろうが問題はないだろう」
「はい、喋れるのであれば多少の怪我は気にしません」
現れたのは人の上半身と馬の体という半人半馬の獣人。馬人とか、ケンタウルスとかって呼ばれてる種族だな。
茶色の短髪に黒い瞳。社長秘書のような切れ長の目に冷静で落ち着いた物腰のクールビューティー。そして男なら見ずにはいられない大きな胸。うん、やはり目の保養になる。
「どこを見ているんです?」
「失礼」
『獣王国』の騎兵隊に所属しているアネット・ハッシュ。彼女にベルン先輩を引き渡せば俺の仕事は終了だ。
「まあいいでしょう。……情報提供、感謝します。これで多くの同胞が救われました」
「礼なら第二王女にしてくれ。俺は彼についての情報を第二王女に渡して協力を仰いだだけだ」
「それでも、です。カイト殿が日頃から情報集めをしていなければもしかしたら手遅れだったかもしれないのですから」
「なんで情報集めをしていることを知っているのかは気になるな」
その質問に、アネットさんは少し考えてからこう言った。
「私たちの中で世界がそう言っていたから、と言っておきましょうか」
クスッと人差し指を立てて唇に当てながら微笑を浮かべて答えるアネットさん。
なるほど、これがギャップか。感情を悟らせない無表情から少し子供っぽい感じの笑みへの変化を見て俺は内心でそう思った。