第四十話「あれってある意味告白……」「言わないでください!!」
「~~~~~~っ」
私の隣に座る少女は真っ赤になった顔を両手で隠していた。
「ふふっ。騎士団の、それも団長からの直々の勧誘を蹴るなんて普通はしないよ。随分と大切にされてるんだね、ルイズちゃん」
「あの、ばかぁ……」
指の隙間から見える彼女の目は羞恥のあまり涙目だ。その視線の先では、『アダマス騎士団』の団長を相手に一人の青年が満面の笑みで刀を振るっている。
『───生憎と、僕には守るべき主人がいる身でして。彼女から離れるつもりはありません』
その言葉は、大闘技場の見回りがあらかた済み、他の騎士と交代で休憩するついでにレンくんから教えてもらった、観戦に来ているというルイズちゃんがいる場所へと向かって彼女と挨拶をした時だった。
従者としては立派な、しかし主人にとっては不意討ちに等しいその言葉にルイズちゃんの顔は赤い果実のように真っ赤になり、なんだか湯気まで見えてきそうなほどだった。
「面と向かって言わないくせに、いきなりは卑怯よ……」
「レンくんはただ、思ったことをそのまま言っただけなんだろうね。とても素直で、頼れる良い従者だよ。それはそれとして───」
「……オウカさん?」
私は自分の目を疑って一度フィールドから目を反らし、再度見て、それが見間違いでないことを理解した。
「レンくんのアレ、竜と虎!! あれはいったい何なの!?」
■■■
上級強化異法"竜跳虎臥"───帯電する水の竜と岩の鎧を纏う風の虎を呼び出し、自身の行動に追従して攻撃と支援を行う異法。普段の、肉体へ作用し強化する異法とは違い、これは攻性強化という部類に分けられる。
異法は大きく分けて攻撃、防御、強化の三つ。
でも僕はその中で、他人より優れた強化が出来る代わりに、攻撃と防御の異法は初級のみしか使えない。でも特に気にはならなかった。
だって攻撃も、防御も、強化異法で代用は可能だったからだ。攻撃異法の破壊力。防御異法の堅牢さ。僕にはその二つを兼ねながらも、自身を強化する強化異法を使える。だったらそっちをより伸ばした方がずっと良いじゃないか。
「オオオオオオオオ───ァアッッ!!」
獣の咆哮を思わせる叫びと共に一歩踏み出す。それだけで地は割れ、強風が吹き荒れる。それが足が地を踏みしめる度に起こされる。
「なんというヤツだ、お前はっ」
最初驚いていた様子のゼストさんだったけど直ぐに気を引き締めて迎撃の体勢をとる。でも、その時にはもう既に僕は貴方の足元まで来ている!!
「ガァッ!!」
『グアォ!!』
逆手に持った鞘と『月夜祓』の切っ先による上下からの二点同時突き。それに追従して風土の虎の前足が左右から挟むように襲いかかる。つまりこれは上下左右、瞬間四点同時攻撃。
「我が腕、風土を伴い破壊を為せ───"刻肆虎"!!」
「───っ」
対応が早い。ゼストさんの胴体に直撃する瞬間、彼の戦斧が割り込んできた。
「……うん、そうするよね」
「っ!?」
これが僕の二点同時突きだけなら間違いなく防がれていた。でもそれと同時に来る風土の虎による大岩の如き重さと爆風を起こす前足の一撃も合わさる今ならば、その戦斧による防御などなんの意味も持たない。
「俺の、武器を───!?」
「まだまだァ!!」
砕け散る戦斧の破片をくぐり抜け、体を捻って真下からの飛び後ろ回し蹴りでゼストさんの顎を蹴り上げる。それと同時に風土の虎も、僕の真似をするように後ろ足で蹴る。
「ぶっ!?」
二つの蹴りでゼストさんの巨体が大きく上空に打ち上げられる。
───ここで仕留める。
「カァアアアアア───オオッ!!」
『グオオオオ!!』
納刀し、全力の跳躍。水雷の竜と共に高く跳び、徐々に落下し始めるゼストさんの真上まで行く。
「我が一刀、水雷纏いて弧を画け───"抜弧竜"!!」
速く、清く。渾身の抜刀を放ち、同時に水雷の竜が大口を開けて噛み付き、そのままフィールドに叩きつけた。
「安心して下さい。峰打ちですから」
■■■
「それまで───勝者、冒険者レン!!」
審判の判定が下される。騎士団の団長と若き冒険者の戦いが終わり、大闘技場にはこれまで以上の歓声が起こった。
「……なんスか、あれは」
最上層席で試合を観戦していたアタシの口からその一言が漏れ出た。
(マジでなに起こった? というか刀振るの早っ!? しかも竜に虎とかあんな魔法見たことないんスけどマジでなんなんスかあのイケメン!? 聞いたこともない詠唱しながら刀振るなんてマジカッコいいっス、ホント神、竜と虎背にした剣士これは絵になるっスよ、あとで絵師を呼んでこの光景を描いてもらいて~!!)
なーんて心の中で発狂してると、
『おーい、顔に出てるぞお嬢』
こいつ、直接脳内に!?
(もうなんスか~、あんなの見せられたら誰だって興奮するんスよ、仕方ないじゃないスか~)
『その気持ちは分かるぞ。でも今は我慢しとけ。こんな大勢の前に出されて不満だろうけどな、まだやってもらわなきゃいけないことがあるのを忘れるなよ?』
(ハイハーイ、分かってるっスよー)
本当に分かってるんだろうなぁ、なんて言葉を最後にその声は聞こえなくなった。
「はぁ……」
「ジブリール、どうしました?」
「いえ、選抜者たちの気迫に圧倒されただけです。母上」
ひーっ、こんな言い方アタシに合わないっス!! これだから王族は面倒なんスよ、身内なのに砕けた言葉遣いができないなんて拷問っス!!
「そう? もし具合が悪くなったら言いなさいね?」
「はい母上、お気遣いありがとうございます」
「…………………」
というかそこのクソオヤジ!! アンタはママを見習って、少しはフリでもいいから心配してみたらどうスかねぇ!? 完全にアタシに興味がないのバレバレっス、こんな催しは面倒しかたなく出席してるだけって顔に書いてあるっスそれでも国王スか!!
(あー、早く今日が終わらないスかねぇ……)
どっかの誰かさんのせいでそうはいかないと分かっていても、そう思わずにはいられないアタシだった……。




