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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
序章
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第四話「残業」「うっ、頭が」

カイトと名乗った青年は、戦意もなければ敵意もないので殺さないで下さい、それでもまだ疑いがあるなら両手を縛っちゃって下さい、と土下座して命乞いをした。


その潔いとも情けないともとれる態度にシム団長は彼の言葉を信じ、軽いボディチェックと監視を付けるのみにして、彼を連れて撤収することになった。


「オウカさん、皆さんの拠点はもしかして……」

「王都『エイドス』にある隊舎」 

「スゥ───……」


カイトの監視役として選ばれた私は嫌そうな表情を浮かべる彼を見る。


「なにか不都合なことでもあるの?」

「んー……まあ、まだ無い、かもしれない」

「なにそれ」


怪しい。それが私が彼に抱く印象だ。


騎士のような全身鎧ではなく、丈夫そうな布や革の黒服の上から、胸当てや肘、膝を保護するプロテクターを付けている。そして鼻と口、更に首までマフラーのような布で隠されていて露出が無い。


隠されていないのは黒い瞳と長めの黒髪だけ。羽織っているマントは草木の色と同系色で、見るからに隠れることに重きを置いてあると分かる。


となれば職業はその服装を活かせるもの。草木に紛れ、暗闇に身を潜めることでメリットが生まれる何か。パッと思い付くのは潜入や隠密系───()()()な職業では、決してない。


「シム団長、彼について早めに色々と問い詰めるべきかと」

「そうなるよねー」


私の進言にカイトはそう呟いた。


「ん? ああ、そうだな。なら……」

「団長ー、こっちは撤収準備が終わり次第戻るんで行っちゃって下さいよー」

「残業代はきっちり貰いますんでー」

「おう、そうか。分かった。だがなるべく早く戻って来いよ。この前、残業しすぎだと宰相に怒られたんだからな」


シム団長が騎士たちにそう注意してから私とカイトの肩に手を乗せる。


「よし、戻るとしようか。転移で一気に隊舎までとぶぞ」

「彼らを置いてって良いんですか? ここから王都までかなり距離でしょう」

「問題はないぞ。さっき笛を鳴らして、馬を呼び戻している。間者共を追いかける途中で反撃にビビってどっかに行っちまってなぁ」

「馬たちには特殊な訓練を受けていて、とても耳が良いの。それに長距離走ってもバテないくらい体力があるからそこまで遅くはならない」


なるほどー、とカイトは頷く。


「まあ、詳しい話は戻ってからだ」


シム団長がパァンと勢いよく手を叩く。その音の大きさに顔をしかめると、カイトも同じ顔をしていた。


「よし、到着だ」

「え、早くね」 

「言うと思った」


猫だましをくらって目を閉じていた程度のわずかな時間。その一瞬で私たちは『スネア平原』から『神聖アテリア王国』の中心地である王都『エイドス』に転移していた。


そして目の前には木材や石材をふんだんに使って建てられた大きな建物がある。


(この人の転移は……毎回こうなると分かってるのに、あまりの音の大きさに目を瞑ってしまうんだよね。そしてその間に転移が完了するという……)


私が初めてシム団長の転移を経験した時はカイトと同じ反応をしたなと思い出す。


「ここが我ら『サザール騎士団』の隊舎だ。国王直属なのもあって近くに王宮がある。オレは一度、国王に間者の始末が出来たのを報告してくるからオウカはカイトと客室で待っててくれ」

「分かりました」


またなー、とシム団長が手を振って王宮がある方へと去って行った。


「……じゃあカイト、私について来て。変な真似はしないように」

「はいはい、分かってるよ」


ちょっと脅してみようと声音を低くしてみたけどカイトは怖がる様子もなく頷くだけだった。


……へぇ、それなりにランクが高い冒険者に通じた『圧』が流されるなんてね。見た感じ年齢は私と同じだと思うけど、かなりの場数を踏んだやり手なのかな。


そんなことを思いながら、私はカイトを連れて隊舎の中へと入った。




■■■




(……うぅっっっわ、なに今の、すごい鳥肌がたったんですけど!? オウカの頭に付いてた葉っぱに目が行ってたからこれで済んだけど、直視してたら間違いなく失禁してたね!!)


オウカから放たれた物凄い威圧感から運良く逃れた俺。客室に案内されて、時間潰しにこの都市について聞いてみた。


ここ、王都『エイドス』は王国の中心地にある大都市。


都市の周囲は二重の防壁でがっちり囲まれ、他の都市に比べて圧倒的な戦力と人口を誇る。国王直属である『サザール騎士団』は基本的に隊舎からすぐ近くにある王宮の守衛をしているが、それは日ごとに当番制、求められる数も大人数ではないので大多数は暇だという。


いつもは自主的に都市の見回りをするか訓練をしている、と簡潔にオウカが説明してくれた。


「他にも騎士団はあるのか?」

「力仕事専門、魔法専門、開発専門の騎士団が一つずつある。戦力としてはうちより下ではあるけどどこも一人一人が最前線で戦える能力を有しているね」

「開発専門でさえも、か……」


想像するに、力仕事専門はごりごりの前衛アタッカーの集まりって感じだろう。魔法専門は魔法に関することに長けたプロ集団。開発専門は発明家だらけで生産・量産で道具や装備などを供給する大きな工場みたいなところか。


圧倒的な戦力と言うだけあって入団試験とか日頃の業務もハードに違いない。王都が陥落したら国は滅ぶのだから、実力者で戦力を固めておくのは当然と言える。


「それで……これはちょっと、警戒しすぎだと思うんだけど……」

「シム団長が戻って来たら外してあげる」


隊舎の客室に案内されて直ぐ、俺は監視役のオウカによって手足を縄で縛られ、おまけに枷までつけられている。


監視するのが彼女一人だから、なるべく不安要素を潰したいとか思っているのかもしれない。でも、そもそもここで何かをする気はない。俺の態度でそれは明らかだというのにそれを信じてくれない悲しさよ。


「……………」


さて、目を閉ざしてあとはもう会話しませんというポーズのオウカを見る。


ゆるやかなウェーブがかかった淡い金色の髪に、青空のような綺麗な青い瞳、大人びた顔つきの美人さんだ。こんな美女は死ぬ前だったらお目にかかれないだろう。


そして一番目を引くのが、頭部にある物音に反応して動く縦長の耳、そして耳とは対称的に微動だにしないモフモフの尻尾。


獣人───という種族だろう。


身につけている白銀の鎧は他の騎士と同じ。しかしシムという団長や、男性らのような全身鎧ではなく、俺の『黒羽』の装備に似た動きやすさ重視の軽装備。


隊舎の中で何人か見かけた鎧姿の女騎士と比べても、彼女の鎧は防御力は低そうだ。


(その理由は……彼女の戦い方、だな)


腰のベルトに取り付けた二本の短剣。これがメインの武器だとして、あとは池で帝国の間者を相手に使った、投げナイフからの電撃による麻痺。


(妨害や補助がメインのサポータータイプってところか。あれしか出来ない訳じゃないだろうから、可能なら追々知るとして、いや、今はそれよりも──)


俺はチラリと視線を下げて、直ぐにそらす。


(鎧で隠れてるけど俺には分かる。とても、大きいです……)


何が、とは言わない。言ったら後が怖いからね。でもこれだけは言わせてくれ。


ありがとう異世界!! こんなに立派なものは先ずお目にかかれない逸品だ!! アニメや漫画でしか見られない夢と希望が詰まった至宝!!


(ほんっとに、ご立派ァ!!)

(なんか視線が……いや、気のせい、かな……?)


異世界転生初日、俺は至宝を見た。

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