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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第三十七話「仕組まれた出来レース」「近付く撃鉄を起こす音」

この『魔剣武闘会』は選ばれた強者が集うこともあり戦闘は激しく、見応えがあり、見る側の観客を飽きさせない。戦う側も自分の実力を披露する絶好の機会の為に出し惜しみはしない。しかし、年に何回もやっていては選抜者が変わらなかったり戦い方が前回より受けが悪かったりして、見る側を飽きさせてしまう。


そういった前例もあって、何年か前にこの武闘会の開催は年に一度と決まった。


新たな強者の登場や更なる特訓、新たな戦術を生み出すのに一年という期間は短いか長いかはは人それぞれではあるものの、観客が持つ武闘会の記憶が良い具合に薄れている状態なのでそこを突いたのが功を奏し、武闘会は毎回大盛り上がりとなっている。



そして観客は口にはしないが、強者の登場や戦術以外に楽しみにしているものがある。



第二王女ジブリールが言った───戦闘中の会話は『拡声』の結界で大闘技場にいる者全ての耳に入るという説明。

これは戦闘の最中で相手を脅迫したり、差別的な用語で侮辱したりするのを予防する為に張られた結界だ。まさかこれが観客を楽しませることになるとは、結界を張った魔法師は思わなかっただろう。



「お前、酒場のネーチャンに惚れてるんだっけ?」

「なんでそれをここで言うんだテメェ!!」



「この戦いに勝ったら、見てくれてる彼女に告白するんだ」

「その人、この前、冒険者のヤツとデートしてたの見たぞ?」

「なん……だと……」



「そろそろファザコンは卒業した方が良いわよアンタ。その歳でパパ呼びはちょっと引いたわ」

「そう言うあなたは弟離れしなさいな。成人した弟とまだ一緒にお風呂に入ってるなんて周りから誤解されるかもよ」

「やんのかコラ」

「上等だよ」



「ふっ……」

「言うなよ? 絶対に言うなよ? あの事はぜっっったいに言うなよ!?」

「みなさーんコイツ昨日おねしょしたんですよー」

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」



『魔剣武闘会』のことを人々は別の名でこう呼ぶ。『拡声』の結界による、選抜者による暴露大会、と。




■■■




「ああ……聞きたくなかった……」


会場に爆笑が響くのを私は嘆いていた。


人々から注目され、憧れの存在である騎士団の面々と高ランクの冒険者。

彼らのことをお堅いだとか立場が違いすぎて遠い存在だとか、そう感じて近寄りがたさを抱いてる人は少なくない。でもこの武闘会を見に来ればそんなものは一瞬で霧散する。


特に騎士団から選抜された者はほぼ顔見知りだ。騎士学校からの付き合いや、団が違っても仕事などで顔を合わせたり共に戦って戦友になったりで、お互いのことはよく知ってる。主に隊舎で起こる一般人には見せられない痴態などは、その関係で構築された横の繋がりで直ぐに知れ渡るのだ。



「聞きましたかお母様。あの方、少し怖い印象でしたけど素はあんなに可愛らしいのですね」


近くの席でとある貴族令嬢が自身の母親に笑顔でそう言っている。


「なんだ、お堅い騎士だと思ってたが中身は俺たちとあんまり変わらないんだな」


下層席でとある平民の男性がガハハと笑う。



『魔剣武闘会』改め『選抜者による暴露大会』は観客からしたら今まで良く知らなかった人やちょっと気になってる人の素を知れる場であり、どちらかというと主催側寄りの選抜者になれなかった騎士たちにとっては身内の痴態が王都に広まってしまう、常時恥の上塗りに等しい恥辱を受ける立場。


開催前には騎士団それぞれの団長から、頼むからやめろよ、という注意を受けたにも関わらずいざ試合になってピンチになったら暴露し始める。なんならおふざけだったり、そうじゃなくても戦いよりも先に暴露の応酬から始まるから注意した意味がない。


しかしこれでイメージダウンするかと思いきやその逆で、親しみやすい、好感が持てる、そのギャップが良い、などの好意的な声をよく聞くから不思議だ。


「オウカ、ベルンは次の試合だったな」

「はい。あの……先輩たちの、痴態が……」

「まあオレも無駄だと分かってての注意だ、こうなるのは予想出来てる」


観客席の回りを見回っている時、シム団長が試合順を確認しに来た。


「あのバカ共には他の騎士団長と協議した上で罰則を与える予定だ」

「あー……ですよね……」


……先輩方、ドンマイです。


「それで、ベルン先輩ですよね。次の試合で相手は『ガタノゾア騎士団』のリグドさんですね。これリグドさんの勝ち目は……」

「無いな。それにベルンが勝った場合、その次の試合相手もベルンとは相性が悪い。その次も、その次の次も、ベルンが勝つ。これは完全に出来レースだ」


配布されたパンフレットにはトーナメント形式で選抜者の名前が書かれてある。

そこにはベルン先輩の名前もあり、他の選抜者との相性を考えるとどう見ても最終戦に彼が残るように組まれている。


「最終戦……ジブリール様が言っていたサプライズは、恐らくこのタイミングだろうな」

「シム団長、彼から何か連絡は?」

「いや、来てない。ここまで静かだとなんか怖くなってくるな。アイツ、いったい何をしてくるのか……っと、そろそろ始まるか」


観客たちが歓声を上げてフィールドに注目する。


「本当に、残念だ。実力もあって努力もする天才が、裏ではあんなことをしていたなんてな。より強い権力を求めず、騎士団で名を揚げていればいつか本当に公爵にだってなれたかもしれないのによ……」


フィールドに立つ二人の騎士。その一人を、シム団長は悲しげな目で見ていた。


この試合が貴族たちからは一番注目されている組み合わせで、公爵に認められてから徐々に貴族社会にその名前が広まっていき、守護の騎士と呼ばれるようになった実力者。『サザール騎士団』所属の一班筆頭、ベルン・タチアナ。そして対するは『ガタノゾア騎士団』所属の魔法師、旧き神を信仰する狂信者リグド。


ベルンは『サザール騎士団』の象徴である白銀の鎧姿で最近新調したと自慢していた大盾と長剣を、リグドさんは黒ずんだ紫のローブを羽織り赤い宝玉が付いた杖を持ち、両者が構える。


「まあ、ここまで来ちまったらもう止められないな。なるようにしかならんってヤツだ。試合を見るのもいいが、仕事はちゃんとやれよ」

「分かってますよ、もう少し上層席を見回ってから下層席に行きます」

「おう、任せた」


試合開始すると同時に私とシム団長はそれぞれ見回る場所へと移動する。


(……なるようにしかならない、か。気付いた時にはもう手遅れで一度嵌まったら止められないだなんて、彼の悪知恵にはいつも驚かされる)

「キャー、ベルン様~!! 頑張ってくださいまし~!!」

「あの、お気持ちは分かりますが少し落ち着いて下さい。身を乗り出しすぎると危険ですから……っ!!」


とりあえず、今は仕事に集中しよう。興奮しすぎて危うく転げ落ちそうになる貴族令嬢を落ち着かせながら、私はそう思った。




■■■




「───さぁて、思う存分に戦って、盛り上げくれよ。どうせ落とすなら一番高いところから。上げて上げて、最高潮のところで水を差して叩き落としてやる」


ガチンと、手元から鉄の音が鳴る。


「ベルン・タチアナ……お前は今日ここで、多くの貴族の前で、全てを失うことになる。それが嫌なら全力で足掻いてみろ。クククッ、ハハハハ──」


ガチン。ガチン。ガチン。


弾が入ってない銃の撃鉄を鳴らし、彼は暗闇の中で独り嗤った。

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