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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第三十五話「サボったら娯楽小説没収な」「アタシの生きる糧があ!?」

「───まあ、配置は前回と同じく選抜されたヤツ以外の騎士たちで大闘技場の警備、近衛騎士団は王族の護衛だな。緊急時の避難ルートは別々。貴族以外にも観戦しようと大勢の人が来るし、それを目当てに大闘技場の外では商人が屋台を出すだろう」

「そちらは騎士学校から見習いの子が見回りをすることになってるわ。何かあったら大闘技場に設置する詰所に連絡するよう通達も送ってある」

「前回は『冒険者ギルド』の訓練所で行ったが予想以上の人が来たことで混雑し、いくつか苦情が来たから今年はより多くの人が入れる大闘技場を使うことになったんだったな。内部構造は把握してある。あとは開催日前に清掃や準備をしなければ」


王宮にあるグラジオ近衛騎士長の書斎で行われる打ち合わせは特に難航することはなく、三人の話を聞きながら私はひたすら台帳に書いていく。


だいたいの事は決まっていて、前回の反省点を踏まえてそれぞれの仕事を確認するくらいだから長々と話し合う必要はなく、一時間くらいで打ち合わせは終わった。


「入るッスよー」


そこへ、気の抜けた女性の声と共に書斎の扉が開いた。


「ありゃ、もう終わった感じッスかグラジオさん?」


入ってきたのは一枚の灰色の大きな布を巻き付けたような服を来た女性だった。


ややボサボサになった長い薄緑の髪に、眠そうに半ば開いたどんよりと曇った紫色の瞳。そして色濃く目の下に出来た隈。豪華絢爛な王宮の中では逆に目立つ、気だるげで暗い雰囲気をその人はまとっていた。


「浴衣……」

「んあ? ああ、狐妖族ッスか……なら知ってても不思議じゃないッスねぇ。商人が極東から仕入れたやつで、着てみると着心地が良いんッスよこれが」


独特な言葉遣いで、良い買い物したッスー、と笑う女性にグラジオ近衛騎士長は椅子から立ち上がると深々と頭を下げ、信じられないことを言った。


「打ち合わせは終わりました。こちらが台帳となります、お受け取り下さい───()()()()()()

「どうもッスー」

「はあ!?」


ジブリール!? 今、ジブリールって言った!?


「ありゃ、なんスかグラジオさん。言ってなかったんスか?」

「なんと言えばいいのか分からなかったので」

「それもそうッスねぇ……えーと、確か、オウカ・ココノエさん、だったッスか?『サザール騎士団』の。アタシはジブリール・フォン・アテリア。一応この国の第二王女で、引きこもりのオタクッス。そんな感じヨロ~」


女性はボサボサの頭を掻きながら私へと顔を向けて、やる気のない声で自己紹介をした。


「え……あ………」

「見ろアーゼス、オウカのヤツ分かりやすいくらいに混乱してるぞ」

「まあ私たちも最初はそうだったから、オウカちゃんの気持ちは分かるわ。いくら埃を被った引きこもり王女と呼ばれてても、イメージするのはドレスを着た令嬢よ。でも実際はこれだから、ね……」


シム団長とアーゼス副団長が私の後ろでそんなことを言っている。


「アタシのことを知ってるのは王宮にいる人と、ここの三人だけッスね。姉で第一王女のカトリーナが勇者にぞっこんでこれっぽっちも仕事しないもんだから、クソオヤジに代わりにお前がやれって押し付けられたんスよ。それで片付けても減らないむしろ増える仕事に追われるから公の場に顔を出せなくなって、次第に国民からも顔を忘れられたッス」


第一王女カトリーナの噂話はよく聞く。聖女と共に勇者と大豪邸でふしだらな生活をしている、浪費癖がある、気に入らないことは勇者や国王に言いつける癇癪持ち。良い噂は一つもない。


「まあアタシは人前に出るのは苦手だし、正直引きこもってたいし、娯楽小説を読んでたいんで別にいいッスけどね。仕事を片付けてるのも慣れてきて、執務室の書類の山はもうキレイに無くなったッスから」

「あの書類の山が片付いた、だとっ!?」

「相変わらず団長さんの声はデカイッスねー。お陰でアタシの評価がちゃっかり上がったッスよ。しかも、いないと思ってたアタシを推す派閥がなんか復活したみたいで、王位継承争いをする気はないんで一先ず大人しくさせてるッス」


仕事より妙に大変なんスよ、と付け足してジブリール様は受け取った台帳を開きながら私に聞いた。


「これはオウカさんが書いたんスか?」

「は、はい……」

「ふむふむ───」


頷くとジブリール様はパラパラと台帳に書いた内容を見ていき、


「ん、綺麗で分かりやすく書かれてるッスね。これはアタシが預かるッス。あとの準備とか段取りはこっちでやるッスから、騎士さんたちは開催日までなんもしなくていいッスよー」


そう言って手を振りながら書斎から出ていこうとする。


「ジ、ジブリール様、流石にあとはお任せするというのは……っ」

「大丈夫ッスよ、グラジオさん。今回の主催者はクソオヤジでもアバズレシスターでもなくこのアタシなんで。主催者権限でやりたい放題なんスよ、クッフッフ」

「クソオヤジ……アバズレ……」


自分の家族をここまでハッキリと悪く言う王族は少ないだろう。というか、やりたい放題と言って笑ってるけど、なんだろう───なんか企んでるような感じがする。


「当日はちょっとしたサプライズもあるッスから、最後まで気を抜かないようにしてたらいいッス」

「その、ちょっとしたサプライズというのは……」

「それは内緒ッスよ、オウカさん~」


シーッと人差し指を立てるジブリール様。うん、この感じは私もよく知ってる。


「仕掛けるのは、()ですね?」


彼が何かを仕掛け、それを実行する時に私が感じている胸の高鳴り。

仕掛けた結果起こる何かへの興奮と、ほんの少しの不安。それと同じものを彼女からも感じる。間違いなく、どこかで彼と繋がってる。


「それは、獣人としての勘ッスかね。それとも……」


ジブリール様は目を細め、微笑を浮かべながら書斎から出る。


「愛されてるッスね、オウカさん」

「え……?」


最後にジブリール様はそう言って、書斎の扉を閉めた。




■■■




「───仕事、手伝ってもらうッスよ? アンタの計画に乗ってあげたんスから、これくらいは良いッスよね」

「もちろんだ。その仕事だけでもかなりの情報を得られる。……派閥の奴らには話はしてあるな?」

「ちゃんと()()()()()()()()()()()ッスよ。全く、アタシを担ぎ上げようとかどうかしてるッス」

「お前しか次の女王になる人がいないからな。恨むなら、姉か、もっと子供を生まなかった母親か、愛人との子供を作らなかった父親を恨んでくれ。それでも俺を恨むなら、前に話した契約でもやっとくか」

「簡単に言うッスね。あれは相当キツイッスよ?」

「それくらいしないと途中で逃げちまいそうだからな。逃げ道は少ない方がいい」

「逃げるつもりなんてないクセに……」

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