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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第三十一話「カイト死す」「ハハハまさか、えっ、マジなの?」

「お帰りカイト君。あら、オウカちゃんは寝ちゃってるの?」


隊舎に戻るとアーゼス副団長が入り口で待っていた。


「店主に酒を仕込まれまして」

「ああ……フェイルメールさんね……」


何か察したようでアーゼス副団長はハァとため息。


「彼女、オウカちゃんのことが気に入ってるのは良いんだけどお酒に弱いこと知っててわざと仕込む悪癖があるのよ。でも何杯も飲ませはしないし、仕込むお酒もキツい種類じゃないからこっちとしてもあまり強く言えないの。今回は何を飲まされたの?」

「最初はココアミルクを頼んでて、こっそりそれに合う酒を混ぜたんだと思います。まあ一杯飲みきる前に酔って寝ましたけど」

「えっ、それは早いわね」


まあ、いくら飲みやすくて酔いやすいとは言っても、コップ半分のカルーアミルクで酔い潰れるのは早いと思うのも分かる。『黒兎亭』の雰囲気に酔ったのだろうか。


「ここまでありがとう。あとは私が部屋まで連れて行くわ」

「すいません。四階って女部屋だけだから行きづらいんですよね。なんか男は来るなっていう空気というか、暗黙の了解みたいな、そんな感じで」


同じ建物の中といえど女部屋は四階に集中していてご丁寧に四階に続く階段には小洒落たのれんで仕切ってある。まるで、ここから先は女性のみ、と言っているように感じていて近寄りがたい雰囲気なのだ。


「私は気にしてないけど、確かにそんな雰囲気はあるわねぇ……昔は部屋割りに関してとくに決まりはなかったんだけど、二年くらい前だったかしら、ちょっと問題が起きたことがあってそれから今みたいに男女ではっきり分かれたのよ」

「それってどっちが有責で?」

「その……男の方が、隣の女部屋に……」

「あー……」


男っていつもそうですよね!! ……あっ、俺も男だわ。


「……それではオウカをお願いします」


背負っていたオウカを降ろすと彼女の格好にアーゼス副団長はクスッと笑った。


「あらあら、カイト君のマントから手を離さないわね」

「冷えないようにと被せてたんですよ。くっ、すごい力だな、仕方ない……このまま連れてって下さい。あとで返しに来るでしょうから。それとマントの内ポケットに『黒兎亭』で貰った二日酔いに効く薬が入ってますから」


試しに引っ張ってみるも断念。【設定変更】のオプション設定で消せるんだが、引っ張った時になぜかオウカの顔が泣きそうな顔になって、それを見てしまったらマントを消すという選択肢はあっても実行するのは躊躇われた。


その後、四階まで直通の女性専用昇降機を使ってアーゼス副団長がオウカを連れて行くのを見送って俺も自分の部屋に戻る為に階段を上がる。


食べ過ぎたせいで腹が苦しく、少しばかり苦労しながらもなんとか三階の突き当たりにある自分の部屋まで行く。


そして扉を開けようとドアノブに手をかけた時、



「──────あ?」



音もなく扉から突き出てきた何かが俺の胸を貫いた。




■■■




扉の向こうで『対象』が倒れるのを音で聞いた後、ゆっくりと僅かに扉を開けて隙間から廊下に他に誰かいないか確認する。そして問題無しと判断し、扉を完全に開けると『対象』は胸に手を当てたまま廊下に蹲っていた。


「…………………」


生存確認の為に持っていた槍の石突で軽く小突くが反応は無くそのままゴロンと倒れた。

生気は感じない。こちらの狙い通り、この槍は『対象』の心臓を刺し貫いたようだ。依頼主からは殺したあとはそのまま放置で構わないと言われている、ならばもうここにいる意味はない。


「お前は運が無かった。ただ、それだけだ」


最後にそう言い残して、窓から外に飛び出した。



■■■




「オウカちゃん!! 落ち着いてっ、まだ調査中だから!!」

「離して、離してっ……下さい!! カイトが、カイトがああ!!」




朝、目を覚ますと隊舎の中は騒然としていた。


慌てた様子で私の部屋にきた先輩の女性騎士に手を引かれて三階に降りると大勢の人に見られながら、シム団長とアーゼス副団長、そして魔法に優れた三班が廊下に横たわる誰かに治癒魔法をかけていた。


その誰かの顔を見て、私の頭は理解するのを拒んだ。


「か、カイ……ト……? えっ? なんで、なんでカイトが……倒れ…て……ああ……ぁ……あああああああああああああああああああああああ!!!!」

「っ、オウカちゃん!? 誰か、オウカちゃんを抑えて!! せめて調査が終わるまで!!」


なんで!? とうして、こんなことになってるの!? カイトはどうなってるの!? シム団長もアーゼス副団長もなんで()()()()をしているの!?


獣人の私には近づく前からカイトが今どうなっているのか。目で見て、感じて、嫌でも分かってしまっていた。───あそこで倒れている彼はもう……死んでいる、と。


「いや、いやだ……起きてカイト!! お願いだから、目を覚まして……カイト……カイト……!!」


自分でも訳が分からないくらいにその現実は私に衝撃を与えた。

……まるで金槌で頭を殴られたようだった。思考がまとまらない。視点はそこに固定されている。早く近くに行きたいのに、近づいたら目を背けたい現実を受け入れるしかないから近づきたくなくて、ただ子供のように泣いて呼び掛けるしか、私には出来なかった。


「駄目だ、ここまで心臓を破壊されては治癒魔法でも意味がない。それに発見するのが遅すぎた」


シム団長が治癒魔法を止めてそう言った。


「そん、な───……」


その言葉に、抵抗する力は消えてしまった。私を抑えている先輩たちもそれを察して離れてくれた。


「……シム団長、犯人のものと思わしき魔力の残滓は発見されませんでした。発見した時の体勢から考えて、カイトが部屋に戻ってきたところを───」

「おや、死んだのですか。カイトは」


三班の騎士が付近の調査を終えてシム団長に報告した時、場違いに明るく耳障りな声が後ろから聞こえてきた。カツカツとわざとらしい足音と共にその人は膝をつく私の横に立った。


「死んだ経緯は分かりませんが、あんな生意気で怪しいヤツはいなくなって正解でしょう、シム団長」

「ベルン……お前……」

「非正規に入団したことがバレて団長が責任を取らされるより、彼の方からいなくなってくれた方が騎士団の為です。もしカイトが帝国の人間やこの国に敵対する者だったらどうするのですか。……ねぇ、オウカくん?」



その日、カイトの死亡が確認された。

死因は心臓の破壊。手段は不明。犯人も不明。


『サザール騎士団』団長のシムは対外秘でこの件を処理。


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