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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
序章
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第三話「1キル優勝って辺りがキミらしいよね」「それ今言う?」

「陣形を崩すな!! 一班は前で盾を構え、三班はその後ろから魔法を放て!!」

「二班は三班の魔法と共に突撃、敵の首を斬れ!!」

「帝国の間者め、このまま逃がすと思うな!!」


俺がいた丘から少し離れた場所──大きな池を背にした十人の黒衣の人間たちを白銀の鎧を身につけた集団が取り囲んで戦っていた。……ざっと数えて三十人。どこかの騎士団だろうか。


そして黒衣の方は、


「剣を抱く聖女の紋章……国王直属の『サザール騎士団』か……っ」

「おのれ!! 嗅ぎつけられるとはっ」

「一人だけでもいい、転移の魔法でとばす。なんとしてでも母国に情報を届けよ!!」


一際大柄の黒衣の男が指示を出す。恐らく彼がリーダーだろう。


彼らの話から察するに、騎士団は黒衣の人たちを追って来て追い詰めたといったところか。騎士の一人が言った帝国の間者ってのが、あの黒衣の人たちと。


(『帝国』……一般知識の中にあった、戦争中の国の一つ──『神聖アテリア王国』の次に大国の『ガザリア帝国』だな。この世界はこの二大大国と、他の幾つもの小国で構成され、帝国の戦争相手は同盟を結んだ小国の『連合軍』だったか)


開戦の理由は小国たちが怪しげな密約を交わし、それが『ガザリア帝国』にとって危険だと知ったのがきっかけらしい。その後どうなって今に至るのかまでは知識に無いから、あとで調べてみるとしよう。


「ぐっ、団長!! このままでは逃がしてしまいます!!」

「敵の反撃が予想以上に強い……かなりの精鋭だな、それに今こちらには対転移結界を張れる者がいないっ」


『帝国』側の一人が仲間に守られながら徐々に輝き出す。それを見て騎士団が焦りの表情を浮かべて阻止しようとするが、残りの『帝国』の人たちによる反撃と妨害で上手くいかない。


数的不利でありながらとてつもない粘り強さを発揮して騎士団の剣撃と魔法を防ぎ、一人、また一人と騎士が倒されていく。


(『帝国』の気迫に気圧されたか。やっぱ追い詰められた敵の反撃ってのは怖いな。……まあ、それはそれとして、ただの騎士団じゃなくて国王直属の騎士団がわざわざ出てくるほど、あの間者が持ち帰ろうとしている何かは大事なものなんだろう。───仕方ない……)


左手人差し指に嵌めた指輪に触れる。


騎士団も、間者も、俺には気づいていない。


(いいポジションだ。全体がよく見える、騎士団の陣形と射線が被らない……)


召喚したのはバーストアサルトライフル。


遠距離と中距離で活躍するアサルトライフルの一つで、一度の発砲で二発の弾丸を撃ち出す銃。スコープ付きなのもあって『ファストナ』では狙撃する感じで使っていた。


(……レア度は青色のR(レア)で十分。これはゲームじゃなく現実。狙いが良ければ一発当ててワンダウン。でも生憎と俺は糞エイムなんでね──)


スコープを覗き、転移しようとする間者に照準を合わせて引き金を引く。


「体勢を崩せれば、とりあえずそれで良いだろ」


タタンと二回連続で銃口から弾丸が放たれ、その二発は狙い通り下半身──右足の付け根の当たりに命中。


「ギャあアァァァァァ──!!」


間者はバランスを崩し、絶叫を上げながら倒れた。




■■■■




その破裂音が、この状況を変えた。


予想以上の当たりの強さに押され、あわや帝国の間者を逃がしてしまうというところで何者かが間者を攻撃した。間者の片足の付け根、腰の辺りが抉れ、足がちぎれ飛んだのだ。


「な……!?」


突然のことに騎士団と間者たちの動きが止まる。


(何が起きたの? 音がした時には、もう間者の片足が宙を舞っていた……)


三班──『サザール騎士団』の中でも魔法の扱いにおいて、特に優秀な者を集めた班の騎士たちにこの現象を可能にする者はいない。そもそも魔法の発動の最に生じる魔力の反応を一切感じなかった。


つまり純粋な物理攻撃、ということになるが、


(剣や槍を持つ騎士は反撃の対処に精一杯で近づけなかった。弓矢では破裂音なんてしないし、普通に射るだけでは突き刺さることはあってもちぎれ飛ぶなんてことはない……)


いや、それを考えるのは後だ。その前に片付けなければならないものが、目の前で私たちと同じように驚いて棒立ちになっている───!!


「シッ───」

「ぎぇ」

「ぐっ」


無数の投げナイフが間者たちの顔や腕に刺さる。


電撃(ショック)


痛みに間者の意識がこちらに向いた瞬間、刺さった投げナイフから蒼い雷光が迸る。


「「──────!?!?!?」」


魔法で防御しようとしてもナイフを通じて体内に直接電撃を流されるのだ。よほど頑丈な者でも痺れで動きが鈍くなる、防御の内側を突いた攻撃。


声にならない悲鳴と共に間者たちの体が痙攣しながら倒れ、そこでやっと他の騎士たちも我に返る。それぞれの武器でとどめを刺しに動き出すのを見て、ふう、と一息つく。


「これで、全員始末できた……」

「おう、オウカ」

「シム団長」


間者全員が死んだのを確認し、三班の魔法で焼かれるのを見ていると、騎士たちの中でも立派な作りの鎧を身につけた男性が手を上げながら近付いてきた。


「助かった。お前がいち早く動いてくれたお陰で奴らを逃がさずに済んだ」

「いえ……私も動きを止めてしまいました、まだまだ修行不足です」

「それを言ったら遅れてやっと動いたオレたちもだ。敵を目の前にして、たっぷり五秒も棒立ちしていた。ここが戦場だったらとっくに死んでいる」


そして、とシム団長は鋭い目で視線を移す。


「まだ隠れて見ている者をどうするべきかな……」

「っ!?」


シム団長の視線の先には池の水で育った植物が群生していて、特に背の高い草が密集している草むらがある。そこに誰かがいるらしい。


「ディン!! ロア!! 負傷者を一ヶ所に集めろ、そんでまだ動ける者は来い!!」

「うっす!!」

「り、了解です!!」


シム団長の指示で二人は負傷者を集め、残りの騎士と一緒に植物の密集地を囲む。


「奴らの転移を阻止してくれたことには感謝する!! だが、未だに姿を現さず見られているのは落ち着かん。敵か味方かはっきりしたいのだ。そこから出てきてはくれないだろうか!!」


シム団長が声を張り上げる。


「あー、分かった、出るから、今出るからそんな怖い顔はしないでくれ」


すると直ぐに草むらがガサガサと揺れだした。誰かが出てくる。謎の攻撃を仕掛けた張本人、自然と騎士たちの警戒心が強まる。


「えーと、ども」


そんな軽い挨拶と共に、両手を上げてゆっくり出てきたのは一人の青年だった。

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