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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第二十九話「兄貴と呼ぶな」「じゃあ兄者とか?」

食事所『黒兎亭』は平民だけでなく貴族も利用している大衆食堂だ。


一度に大人数が利用できる一階と、防音対策された幾つかの個室がある二階があるだけでなく、事前に頼んでおけば配達や貸し切りも受け付けているとあって、値段がちょっとお高いのも気にならない良いサービスを提供している人気店。

その人気店の店員として俺とオウカを迎えたのは『灰街』で情報を煙草として売っていた兄さんだったことに俺は突っ込まずにはいられなかった。


「そうか……今日だったか……」

「久しぶり、スレイさん。えっと、カイトとはもう会ってたの?」

「あ、ああ……この前悪漢に絡まれてたところをカイトに、な……」


オウカにスレイと呼ばれた兄さんはチラッと俺を見る。


(合わせろ)

(承った)


はいはい、なんとなく把握しましたよと。


「そうそう、かなり酔っ払ってた野郎に運悪くぶつかったみたいでよ。そこをたまたま通り掛かった俺が助けたんだ。それからも見回りで何度か顔を合わせて、って感じだ。なあ、()()()()()()?」

「そ、その呼び方はやめてくれよカイト。俺はまだ27だ。兄貴と呼ばれるほど歳は離れてないだろ」

「なにを言ってんだスレイの兄貴よう。会う度に俺に()()()()()()()()()じゃないか。頼りにしてるんだぜ? でもそうか、27か、あまり離れてなかったんだなあ初めて聞いたわ」

「ハッハッハ……」


オウカには情報屋のことは話してないのか。国王直属の騎士団って地位があるから警戒して秘密にしてるのか? でもそれなら俺だって同じだ、非正規入団だけど同じ騎士団の人間であるのに俺は警戒されていないのはなぜだろう。


「スレイ、お客様が来たの?」

「来たなら早く席に案内して下さい」


その時、スレイの兄貴が出てきた厨房から二人の少女の声が聞こえた。


「……って、オウカじゃない。待ってたわよ。そちらの方が相棒さんね?」


一人は、長い白髪を三つ編みにして、深緑色の瞳をした少女。白一色のシャツとスカート、そしてエプロンと驚きの白さで色が統一されている。俺の腰よりもやや小さいくらいの身長の少女でありながら大人びた感じで、纏う雰囲気はどこか神秘的。なんとなく普通の子供ではないことは分かる。長く尖った耳がその証拠だろう。


「相棒……あなたが噂のカイトさんですか」


一人は、神秘的な少女よりは気持ち高い身長で、黒を基調としたシャツにショートパンツ、その上から白のエプロンを来ている。興味深そうにこちらを見る灰色の瞳からは感情が読めず、伸ばした白髪は結ばずそのままにしている。フフフと笑みを浮かべる神秘的な少女とは違い、あまり感情が表に出ないタイプなのか無表情だ。耳は普通の耳だ。


「カイト、紹介するね。こっちがこの『黒兎亭』の店主、フェイルメールさん。見ての通りエルフで前々からカイトに会わせろと言ってきた人」

「フェイルメールよ、よろしくね。常連客からフェイって呼ばれてるわ。ここでは経営と上客への接客をしているの」


差し出された小さい右手をとって握手をする。


長く尖った耳はやはりエルフだったか。長寿の種族って聞くし、見た目は子供でも実際はかなり長く生きてそうだな。───それに上客か。なるほど。


「上客ってのは貴族。そしてエルフは長寿であり、それ故に知識が豊富。魔法に優れているだけでなく特殊な力も持ち、他国ではアドバイス欲しさに王族がわざわざエルフの里まで赴くくらいには()()()されてると聞く。ここも同じことを?」

「ご明察。王都には私の知識を求めて来る貴族のお客様が多いの。領地経営についてが多いかしら。あとは珍しい魔獣や薬草とかがある場所、それから……単純に愚痴を聞いてもらいたさに、とかね」


む、なんか愚痴を強調したな。───あっ、もしかしてコイツ……


「へぇー、その愚痴の部分は個人的に興味があるな。酒で酔わせて余計な一言でもこぼしてくれれば弱味の一つや二つ、簡単に手に入りそうだ」

「実際、私が接客するのはそれが目的なのよ。聞いた後にちょーっとだけ()()()すれば資金や高級食材が楽々ゲット。貴族は愚痴を聞いてくれてアドバイスしてくれてハッピー、私はお金も食材も沢山もらえてハッピー。どちらも得する、素敵なお仕事でしょう?」


だと思ったわ。すごい悪い笑みだ、腹黒いぞコイツ。


(まさかとは思うが……)

(ああ、その弱味を煙草として売っている。オウカとアイツは知らない)


やっぱりな!! つまり、紙はうちの『うち』って『黒兎亭(ここ)』って事だよな、流石に売ってる情報の全部がフェイルメールの接客で得た弱味じゃないだろうけどとんでもない店だな!!


「お姉ちゃん、そろそろ私のことも紹介して下さい」


もう一人の少女が抑揚のない声でフェイルメールに言う。というか、お姉ちゃん?


「ごめんなさい、アンリスフィ。カイト、この子は料理と平民の接客を担当してるアンリスフィ。種族は人間だけど私の可愛い妹よ。とっても良く出来た子で、私の自慢なの」

「アンリスフィです、よろしくお願いします。色々ありましてお姉ちゃんの妹としてここで働いてます」


ペコリと礼儀正しくお辞儀をするアンリスフィ。フェイルメールによしよしと頭を撫でられているからなのか、ほんのりと頬が赤くなってる。こうして見ると愛想がないと言うよりは単純に感情を出すのが苦手とか、そんな所だろうか。


「あとは雑用係のスレイ」

「十文字で済まされた!?」

「……フッ」

「鼻で笑ったたな今ァ!!」


怒鳴るスレイの兄貴。声が大きくてうるさかったのかオウカに口を塞がれる彼の姿からはもう情報屋としての兄さんの面影は一切無く、ただの店主に弄られる男性にしか見えなかった。


「さあ、まだ話したいことはあるけどそれは食べてからにしましょう。二人とも、そこに座って待ってて。今日の為に貸し切りにして準備してたの。仕込みも万全よ」

「いきますよ、スレイさん。皿だしとか手伝ってください」

「分かったからガンガンと脛を蹴らないでくれるかな!?」


カウンター席に座るよう俺とオウカに促して、三人は厨房へと入って行った。


(なんか、この数分で兄さんの印象がずいぶんと変わったな。それにあの姉妹、何かあったのは確実だ……でも仲睦まじいところを見ると今は幸せみたいだし、余程のことがない限りは過去について聞かなくてもいいか)


そう区切りをつけて俺はオウカとどんな料理が来るのか楽しみにして待つのだった。

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