第二十五話「お仕事完了」「歓迎と警戒」
翌朝、気流操作で頑張ってくれたオウカを連れて撤収すると、地下にいた盗賊たちは新鮮な空気を吸いに全員外にぞろぞろ出てきた。あまり寝れなかったのかかなり寝不足だったが、生憎と奴らに休ませる時間は与えない。
「今だ、全員───突撃ぃ!!」
「き、騎士団だとぉぉぉ!?」
待機していたシム団長たちが門を突破して総攻撃を開始。抵抗されることもなくあっさり全滅した。
その後、亡くなった奴隷たちはアーゼス副団長魔法で放った炎で弔われ、盗品は騎士団が一旦回収して届け出があった商人たちにのちほど返却。そのまま使う砦は色々と調べることがあり、他の盗賊や魔獣が巣にしないようにシム団長と何人か騎士が保全の為に残って後日来る調査団と交代で帰ってくるとのこと。
「商人が使うルートに近い砦、そこに騎士がいれば盗賊も寄り付かなくなって安全になる。これからは新たに騎士を増やしていって砦に配属されることになるわね」
「見習い騎士の新たな就職先としても使えますね。砦の人員が増えるまではウチで交代でやるんですか?」
「ええ、他の騎士団とも協力するだろうし、冒険者にも依頼を出して手伝ってもらうことになるかもしれないわね」
王都に戻る途中、馬車の中でアーゼス副団長から色々聞いた。
「あと……王都から砦までの道も新たに作る予定だけどそれは『アダマス騎士団』が担当することになってて、調査団と一緒に来るってシムが言ってたわね」
『アダマス騎士団』……オウカから聞いていた『サザール騎士団』以外にある三つの騎士団の中でも力仕事専門の騎士がいるところだな。
前に何度か、シム団長を訪ねて来た盾持つ腕の紋章が入った大柄の騎士を見たことがあるが、シム団長に聞いたらその人が『アダマス騎士団』の団長で、あそこはこんなデカブツばっかりだぞ、と言ってたな。
「『ガタノゾア騎士団』と『サイエス騎士団』からも助っ人が来るってシムは言ってたわ」
魔法専門の『ガタノゾア騎士団』と開発専門の『サイエス騎士団』。この二つはまだどんな人がいるのは見たことがない。仕事がない時はほとんど自分の研究で引きこもってる、と噂で聞いた程度だ。
「くぅ……んー……」
「っと」
「あら」
ポスッと俺の肩に何かが乗っかった。
「ふふ、徹夜したから疲れたみたいね」
「まあ一晩中魔法を使ってもらってましたからね。あとそのニヤニヤした顔はなんですか」
見れば隣に座っていたオウカが俺の肩に頭を乗せて寝ていた。
「……やらせたのは俺ですし、枕になるくらいお安いご用です。それに今回だけじゃなくオウカにはいつも疲れることばかりさせてしまって申し訳ないくらいですよ」
俺には魔法が使えない。道具でなんとか出来ない時は、いつもオウカがそれを補ってくれていた。その分アフターケアは欠かさずにやってきたけど、毎回疲れさせてしまうことに俺は罪悪感を感じていた。
「騎士団の任務は荒事が多いけど、それを疲れだけで済むのはすごいことなのよ。カイト君が来る前は怪我が絶えなかったんだから」
「そうなんですか?」
「戦闘で怪我するのは当たり前な職場が、カイト君が来てからは当たり前じゃなくなった。怪我したとしても軽いもので被害は実質無し、ここまで快勝が続くのは珍しいんだから」
確かにそう言われるとすごい変化だ。
偵察班がいても結局やることが実力による力押しならそりゃ怪我はするだろうが、そこに入念な下調べと敵の弱体化を狙う俺が入ったことで、騎士団は偵察班の運用の見直しとそれによる作戦の多様化が行われ、任務の達成率が大幅に上がった。
これにより人々の騎士団への人気も更に高まり、自分も騎士になりたいと騎士学校への入学を希望する若者が増加したって話もきいたな。倍率がヤバそうだが。
「それで……今回俺に作戦を任せてみて、期待には応えられましたかね」
新人は必ず通る儀式である作戦立案と指揮。個人的にはほぼ一日で終わらせられたしこちらも被害は無かったから上々だとは思うけどアーゼス副団長や他の先輩方から見て、どう思っているんだろうか。
俺の質問にアーゼス副団長は、この儀式に合否がある訳じゃないけど、と前置きした上でこう答えた。
「あの砦と人数を相手に緻密で複雑な作戦を立てるでもなくやることは単純、相手の動きを観察し、潜入して情報を獲得、下手に時間をかけることもなく一日で砦を占拠して盗賊を全滅……この成果に文句を言える者は、果たしているかしらね」
アーゼス副団長がチラッと他の騎士たちへ目を向ける。
「「「ありません」」」
いつから聞いていたのか、先輩方は俺の方を見ながら笑顔を浮かべていて、アーゼス副団長の問い掛けに口を揃えて言った。
「この通り。文句無しの合格よ。おめでとう、そしてお疲れさま、カイト君。今更だけど『サザール騎士団』はあなたを歓迎するわ」
「…………あ」
いかん、ちょっとうるっときた。
偵察班の騎士たちとは同類の集まりみたいで直ぐに打ち解けたが、他の班の騎士たちからは接点の少なさからどう思われているのか分からなかった。
「作戦が単純でやりやすかったぞ」
「いつもあのぐらいにあっさり終われば楽だな」
「絶対に逃がさないという強い意思を感じました」
「あの作戦、時間をかけるとより凶悪になるよね」
「ああ、もっと期間に余裕があったら完全に監禁する気だったな」
「奴隷の救助優先なところが個人的にポイント高いですね」
でもこうして直接先輩方からお褒めの言葉を言われて俺はちゃんと受け入れてくれていると分かってなんだかホッとした。
「カイト……は…と……ても……すご……い………くぅ……」
んでオウカ、お前は起きてるのか寝てんのかどっちだ。寝言かそれは。
「これからもよろしくお願いするわね、カイト君」
「はい、よろしくお願いします」
結果は上々、この職場なら長くやっていけそうだ。俺はそう思いながら今度は俺の膝を枕代わりにして寝るオウカの扱いに困るのだった。
同時に、約一名。あの嫌みたらしいベルン先輩からの視線に気付かぬふりをしつつ俺は思考を巡らせて一先ず放置───警戒しながらも、向こうの出方次第で対応することにした。
「───ところでカイト君、もし期間に余裕があったらどうしてたの?」
「奴隷の救助は変わらずやりますよ。偵察班が地下の奥に入り込み、中と外から同時に攻めて盗賊が混乱してる間に奴隷を逃がします。今回のようにその必要が無かったら、徹底的に砦の中に閉じ込めます。外に出ようものなら威嚇射撃、もしくは見せしめに何人か殺す。もし補給部隊とかが来たらそれを叩く。そして夜は安眠妨害……クク、とことん弱らせますよ」
「本当にカイト君が味方で良かったわ……」




